佐藤直曉の「リーダーの人間行動学」 blog

リーダー育成のための人間行動と人間心理の解説、組織行動に関するトピック

リーダー育成127――新しいアイデアを普及させるには

2009-11-03 09:36:41 | リーダー育成
今日は、組織における革新の普及について説明いたします。

社会学者のE.M.ロジャーズは『イノベーション普及学』を著わしていますが、これは名著といえるものです。

実はこの本は、私の学生時代の恩師、川瀬武志先生がご紹介くださったものです。川瀬先生は、ご自分の経営コンサルティング活動でたいへん参考になったとおっしゃっておりますが、非常に実践的な理論であるといえます。

ロジャーズの理論について概略を述べてみましょう。

ロジャーズは革新のフェーズごとに、革新を採用するタイプがあるんだと言っているわけです。

つまり、新しいアイデアは、「革新者、初期採用者、初期追随者、後期追随者、遅滞者」という順に採用されるというのです。

以下、簡単にそれらのタイプを説明しましょう。

革新者は、新しいアイデアを試みることに熱心で、何らかの理由で失敗を恐れない裏付けを持っています。

次が初期採用者で、革新者が広域的傾向が強いのに対し、初期採用者の方は集団指向性が強い。最高のオピニオン・リーダーシップをもつ。集団の中で新しいアイデアをチェックする人として尊敬されている。

初期追随者は、平均的メンバーが採用する直前に新しいアイデアを採用する人たちです。仲間と一緒に行動する傾向は強く、自らリーダーシップをとることはまれです。彼らの行動は慎重で、アイデアを採用するまでには比較的長い時間がかかる。

後期追随者は、平均的メンバーの直後に新しいアイデアを採用します。採用の動機は、必要とか集団のプレッシャーを感じるためです。新しいアイデアに関する確信がないと、プレッシャーを感じても動機づけられない。

遅滞者は伝統的な人ともいえます。新しいアイデアを最後に採用する。最も集団志向性と慣例への志向性が強い。

まあ、ざっとこんな感じです。詳しくは原典をお読みください。

ロジャーズは社会的イノベーションについて調査してまとめていますが、この理論はもっといろいろなものに適用可能だと私は考えています。

たとえば、新製品やサービスが世の中に普及していくプロセス、あるいは社内や組織のなかでのアイデアの普及プロセスといった具合に、非常に応用範囲が広いのです。

特に、自分のもっているこのアイデアを普及させるためには、いま誰に話をもっていけばいいか、というような点で非常に示唆に富んでいると思います。私の『暗示型戦略』でも、このセオリーを重視していて、プロセスの段階に応じて働きかける人を考慮しています。

さて、川瀬先生はご著書『IE問題の解決』でロジャーズの革新普及理論を紹介して、さらにそれに関連して「0→1→∞の原則」を提唱されています。

これは、アイデアを普及するためには、One Good Exampleを創りだすことが有効だ、ということです。これは、プロトタイプとか試作品とお考えいただければよいでしょう。

このExampleは、完全な「1」、すなわち100パーセントの成功でないといけません。誰が観ても100パーセントの成功でないといけないのであり、たとえ99パーセントでもダメだというのです。ただし、必ずしも大きな成功でなくてもいい。適当な大きさ、むしろ小さい方がお金のあまりない初期には都合がよいのです。しかも、それをできるだけ隠密裏に行うことがよい、とされています。

このあたりは、私の『伝動戦略』や『暗示型戦略』に採用されています。また、拙著『先見力訓練法』で述べた「辺境の価値」でも触れています。

新しいアイデアは強い抵抗に遭うのが常で、あまりにも目立つと、既存の集団にあっという間に潰されてしまうからです。ですから、ひっそりと小さくやっていき、実力を蓄えておく方が最初はよいわけです。

イノベーションというのはだいたい辺境でおきるものなのです。たとえば、武家政権というのは、京から遠い鎌倉や東国で育っていますね。モハメットのイスラム教もメッカから遠いところで出発しています。

製品開発についていえば、川瀬先生は「できれば公表せず、表面的には予算もつけずにやって、100パーセントの成功例に育て上げる」のがよいとしています。

このケースとしては、拙著『暗示型戦略』で取上げた「日本ビクターのVHS事例」が適当でしょう。ご興味のある方はお読みください。ほんとに、会社を騙して、こっそり実験を続けて創ったんですよ。

ビクターの例のように、こっそりとよい実例をひとつでも創りあげれば、説得力がぐんぐん増し、やがてそれが∞に発展するというわけです。

なお、よい実例が外部にあるときは、積極的にそれを見に行くとよい、と川瀬先生は述べています。このあたりは、みなさんも視察と呼んで、よく実践されているところだと思います。百聞は一見にしかず、ということですね。

以上が、ロジャーズの普及理論についての概説です。私は、この普及段階に応じた人間のタイプについて非常に興味をもちました。それを人間行動学的に観ると、あるタイプが浮んでくるのです。

つまり、アイデアにすぐ飛びつくタイプ、付和雷同しやすいタイプというのがあるのです。彼らがどういう感受性の持ち主かは、L研クラブ会員への今月のメルマガにてご説明いたします。

さて、これからこの続きを書いて会員さんに送信しないといけないな。


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