リーダー感覚56――組織の集注力を高める二つの方法

　人間の心には遠心性と求心性があります。遠心性というのは心がどんどん広がっていくことです。これに対して、求心性というのは、ひとつのものにどんどん集まってくること。
　
　ふつう、組織の集中力と言うと、求心力のことをイメージする人が多いでしょう。
　
　これは、言ってみれば、会議室にメンバーが集まり、ＯＨＰを見ながら、「問題がここにある、あそこにある。ここを改良しなくちゃいけない」などと指摘しながら、討議することです。

　こういう討議を通じて、お互いの問題意識が高まります。これが組織の集中力を高めるのです。
　
　これは、批判的精神の強い人、ロジカルに問題を分析するタイプの人にはとても向いている手段です。こういうのは、どちらかというと男性が得意かもしれません。理性的で分析力のある人にとっては、とてもやりやすい。
　
　この方法の弱点といえば、ＯＨＰのなかでしか答えがないということでしょう。つまり、発想が広がりにくいということです。局面を限定しているからこそ、集中力が出るのですが、それがひとつの弱点にもなります。
　
　これを解消するために、ブレイン・ストーミングというような方法がとられています。これはどちらかというと遠心性の集中力の高め方です。あまり制約をつけずに自由に意見を言わせる方法です。
　
　この方法にも弱点はあります。各人が意見を言いっぱなしで、収斂しないのです。好き勝手なことを言い合ったが、結局何も残らなかったということにおちりがちです。
　
　私はリーダーには、こういう作業はあまり薦めません（もちろん状況によっては役立つことがあると思うので、全面否定は致しません）。
　
　私がお薦めするのは夢を語ることです。リーダーが夢を語るのです。そして、それが実現した姿がどんなものになるかを、メンバーに説明する。これも組織の集中力を高める重要な手段なのです。

　これは明らかに遠心性の集中力といえます。夢がどんどん広がっていく。心が未来に広がりながら、目標をとらえだす。目標に対するイメージがわいてくる。

　こちらは、どちらかというとイメージトレーニングの世界に近い。組織全体が共通のイメージトレーニングをするようなものです。ですから、分析とはまったく対極にある組織の集中力養成方法といえます。
　
　ただし、夢を語ることによって組織に集中力ができるか否かは、二つの条件があると思います。
　
　第一は、その夢がみんなにとって魅力あるものに受け止められるかどうかです。

　戦後の日本はアメリカに追いつけ追い越せでやって来ました。荒廃した国を見るにつけ、アメリカの豊かな社会は日本人にとって非常に美しい夢となりました。ですから、多くの人がこの夢を好み選らんだのです。
　
　翻って、今、その当時の夢に匹敵する美しい夢をリーダーは提示できているでしょうか。
　
　第二は、夢はしょせん夢でしかありませんから、夢を現実につなぐ架け橋をリーダーは用意することが必要になります。私はそれを暗示型戦略と呼んでいます。詳しいことは拙著「暗示型戦略」をお読みください。