佐藤直曉の「リーダーの人間行動学」 blog

リーダー育成のための人間行動と人間心理の解説、組織行動に関するトピック

リーダーの暗示学564――手順前後と朝三暮四

2006-07-31 09:15:31 | 暗示型戦略
 手順前後というのは囲碁の言葉で、ABCの順に石を打つのも、ACBの順に打つのも石の配置は同じなのに、結果はまるで違ってくるということです。なぜそうなるかというと、相手の応手が変わってくるからです。

「波動方程式」
 考えてみれば、手順前後というのは世の中でよくあることです。朝三暮四(ちょうさんぼし)もそう。これは列子(れっし)と荘子(そうじ)に載っている話です。
 
 狙公(そこう)という大の猿好きがいて、猿をいっぱい飼っている人がいた。ちなみに狙というのは猿の意味です。

 ところが、数が多すぎて、しまいには家族の食糧まで猿にまわす始末。ついに、猿の飼料を制限せざるをえなくなった。
 
 しかし、猿たちの機嫌を損ねてはいけないと考えた狙公は猿に相談します。

「おまえたちにやるドングリを、これから朝に三つ、夕方には四つにしたいのだがどうだろう」

 すると、猿たちは歯をむき出しにして怒りだしました。朝三つばかりでは腹がすいてたまらないという猿の気持ちはよくわかる。狙公は智恵を働かせてこう言いました。

「それでは朝四つ、夕方は三つとしよう。これでどうだろう」

 猿たちはみな喜んでうなずきました。
 
 これについて、列子には「実質は同じであるのに、猿は朝三を怒り、朝四を喜んだ。知者が愚者をごまかしたり、聖人(国王のことでしょう)が人々をろうらくするのも、狙公が智恵を働かせて猿たちをたぶらかしたのと同じだ」とあります。
 
 一方荘子には「高所から見れば実は同じことなのに、それを知らずに是非善悪にとらわれる者が、いたずらに心を労して偏見を生じるのだ」とあります。
 
 同じ話でも、随分受け止め方が違うものです。私としては、今日の気分は列子ですね。そのつもりで取り上げました。手順前後すると、喜んでもらえる、あるいはスムーズにことが運ぶものでもダメになると言いたいわけです。
 
 手順をうまくつけることはビジネスでも、政治でも、あるいは家事でも非常に大事です。では手順をどう考えるべきかですが、私は一貫しています。拙著『伝動戦略』にも『暗示型戦略』でも、このことは口を酸っぱくして言っております。
 
 森羅万象は波動だと思うのです。心も物質も波動であり、固有の波長をもっている。そこで、共鳴ということが大事になるのです。しかし、いきなり共鳴しそうもないものを扱っても効果はありません。
 
 まず共鳴してくれるものを鳴らすということですね。そうやって共鳴してくれる人が増えると、その波動が強くなりますが、そうなると共鳴しそうもない人たちも、だんだん波長をこっちにチューニングしてくれるようになるのです。
 
 新興宗教が盛んになっていくプロセスもそう。キリスト教だって、12人の使徒が教義を広めたわけでしょう。
 
 人間を成長させるときでも、その人の長所を伸ばすことをまず考えるべきですね。長所というのは非常に共鳴しやすいのです。ところが短所というのは全然共鳴しない。ここをいくら伸ばそうとしても、うんともすんとも言わない。ところが、長所がどんどん伸びて行くと、短所がその人にとってどうでもいいものになってくる。あるいは、短所を改善しようという意欲が強くなります。
 
 短所を克服しようとか、イヤだなと思うことを克服しようと思いたつと、人間はものすごく元気になるのです。そういう心理状態になるのはふだんはあまりないことなのですが、ひとたびそう決意すると、ものすごく元気になるのです。「よし、やってやるぞ」という感じですかね。
 
 ですから、相手が嫌だなと思っていることを説得したり協力を依頼して、相手がOKをしてくれると、自分はもちろん助かるのですが、相手の人も元気が出てきます。もちろん、相手の態度が渋々ではなくて、「仕方ない。そこまで言うなら、お前のために一肌脱いでやろう」と思ってくれなければ効果はありませんが。
 
 その場合でも、相手の人が共鳴してくれるものをまず頼む、という手順を踏まないといけませんね。そして、その背後には、それをしてもらうことで、依頼した相手が必ず元気になる、あるいは幸せになるのだ、という強い確信をこっちがもっていないといけないと思います。


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