佐藤直曉の「リーダーの人間行動学」 blog

リーダー育成のための人間行動と人間心理の解説、組織行動に関するトピック

リーダー感覚55――戦略はつくれても戦略目標をつくれるとは限らない

2007-03-26 09:49:43 | リーダー感覚
 専門家というのは、どうしても自分の領域が世の中のすべてだと思うものです。ビジネスコンサルタントは、自分のやり方、考え方が世界のすべてだと思う。

 福祉の専門家は自分たちの発想が社会のすべてである、あるべきだと思う。専門家バカはみなそうなる。結局は、人間を観ないからそうなるのだと思います。

 今朝の日経新聞にボストン・コンサルティング・グループの水越豊氏のインタビュー記事が載っていましたが、これを読んでそういう印象を強くもちました。

 水越氏の見解では、スポーツの世界も資源の最適化、ROIの発想があっていいという。日本オリンピック委員会(JOC)の強化費の配分についてこんなことを言っている。

「競技人口が少なかったり歴史が浅い競技を狙ってお家芸に育てるのが効率的でしょう。」

「柔道は中量級では歯が立たなくなっている(…)。日本人の緻密さや俊敏性を考えると、陸上女子の棒高跳びや競歩(…)あたりが狙い目だと思うのですが」

「米国の大学スポーツはアメフトで稼いで、他の競技を強化する」というコメントもあったようです。

 記者のコメントとして「負けるけんかはするなという現実論には少々違和感も覚える」とあります。

 戦略はつくれても、戦略眼がない人の典型でしょうね。

 企業がニッチに投資するのは別にいい。また企業がマイナー競技に肩入れして、いずれはリターンを回収したいと考えるのも勝手です。さらに、一大学が自分の運動部を強化するために、強い競技の金をほかの競技にまわすのも、大学の戦略としては許されるでしょう。
 
 しかし、国が、オリンピック委員会が、そんなことをできるはずがないでしょう。共産国や北朝鮮のような独裁国ならともかく。

 そもそも、スポーツに対するとらえかたが間違っているのではないでしょうか。オリンピックで勝つことだけを戦略目標にしてしまうから、そういう結論になってしまうのです。

 なんと、まずしい戦略目標でしょう。ああ、この戦略眼のなさ。

 スポーツをそんな目でみることが、現実感覚だというのでしょうか。そういう戦略目標をたてる人を見ると、そういうことを言う人の人間性が見えてしまう。

 そもそもスポーツをするのは国民の自由意志でしょう。その結果、人気があるスポーツとそうでないスポーツが生じるのは仕方ないことです。だからって、わざわざ人気のないスポーツにJOCが金を出す理由がみつかりますか?

 カーリングなんか、ちょっと前までほとんど知られていないスポーツでした。それを地元の人や、たぶん地元企業が応援したんでしょう。オリンピックに出て活躍した結果人気が出てきました。それでお金もきっとつきやすくなったことでしょう。

 浅田真央ちゃんのフィギュアだってそうだったでしょう。ずいぶん自腹を切ったそうではありませんか。
 
 だいたいJOCは、人気のない競技、実績のない競技に、金を投下してはいけないのです。それが公的なお金を配分するさいのルールです。
 
 こういう基本がわからないのでしょうか。ビジネス戦略ばかりやっていると、すべてビジネスの発想で行うようになる悪い例です。ビジネスばかりに偏っていると、こういう歪んだ発想が生まれてしまうと思いますね。

 それに、もっと夢のある戦略目標をたてなければ仕方ない。国民にスポーツの楽しさを知って欲しいと思う人に語らせるべきです。

 今回の記事では、戦略プランナーの特徴がよく出ていると思いました。要するに技術者なんです。こういう人には戦略目標は立てさせられません。設定された目標を実現化していく能力はきっと一流なのでしょう。しかし、目標自体を設定する能力は三流かもしれません。


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