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「再生可能エネルギー政策の抜本的見直しが始まる」

2015-10-08 07:47:38 | 日本

2030年に向けて制度改正、事業者は生き残れるか「再生可能エネルギー政策の抜本的見直しが始まる」と題して、宇佐美典也さんが論文を掲載している。
以下、要約し記す。



経済産業省で再生可能エネルギー政策の抜本的な見直しに関する議論が始まっている。固定価格買取制度が始まったのは2012年、この3年間で再生可能エネルギーを囲む環境は大きく変化しつつある。

主な点を上げると、想定以上の太陽光発電の大量導入による消費者への価格転嫁、電力系統の逼迫、原発の再稼働、電力自由化の進展、長期エネルギー見通し(エネルギーミックス)の確定といったところであろう。

こうした変化を踏まえて経済産業省は2015年9月から再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会(以下「再エネ改革小委」)を立ち上げ、制度改正に向けた議論を本格化させている。
2030年までに再生可能エネルギーの電源比率を2倍に

改めて問題意識を確認すると、再エネ改革小委設置の背景の筆頭に上げられるのは2030年の電源構成について、政府の方針を示したエネルギーミックスであろう。

現状、日本の再生可能エネルギー電源の比率は12.2%だが、政府は2030年時点でこれを22~24%と、約2倍向上させることを目標としている。

現状の12.2%の内訳は【水力:9.0%、その他:3.2%】と水力が中心だが、国内の大規模水力発電の開発余地はほとんどないので、今後はその他の再エネ電源の規模を大きく引き上げる必要がある。2015年時点を基準に、どの程度の引き上げか数値化すると、

・太陽光発電:(23.71GW)から2.7倍の64GW
・風力発電:(2.93GW)から3.4倍の10GW
・中小水力発電:(9.72GW)から1.2倍の10.84~11.55GW
・地熱発電:(0.54GW)から3.0倍の1.40~1.55GW
・バイオマス発電:(2.54GW)から3.0倍の6.02〜7.28GW
※()内の数字は2015年時点の規模を示す

という具合だ。現状は開発が容易な太陽光発電に新規再エネ電源開発が集中している形となっているのだが、今後は他の電源の導入も強化していくべく制度の在り方を模索しているというわけだ。

他方で再生可能エネルギーの固定価格買取制度は、最終的にその原資を電力の消費者である国民に求めるものであるため、闇雲に再エネ電源を導入すれば良いものというわけではない。国民負担を最小化するための努力も求められることになる。

2015年度現在では再エネ電源からの電気の買取費用が1.84兆円でそのうち1.32兆円が消費者負担として転嫁され、各家庭では1.58円/kWh(一般家庭で474円/月程度)ほど電気料金に上乗せされる形となっている。

政府としてはこうした各家庭の負担を1000円/月程度に収めるために、買取費用の上限を概ね現在の2倍である3.7兆円と設定する一方、これ以上の電力料金の上昇を避けるために原子力発電の再稼働を進めるとしている。つまり原子力発電の再稼働と再エネの導入促進はコインの裏表の関係となっている。


◎現行の設備認定制度をどう見直すのか?

このような問題意識に基づいてどのようなことが議論されていくのだろうか。再エネ小委では具体的な論点として、

(1) 現行制度の手続き上の問題の解消
(2) コスト効率的な再生可能エネルギーの導入
(3) 系統制約の解消

という3点が挙げられている。

このうち1点目の「現行制度の手続き上の問題の解消」についてだが、すでに具体的な議論が進展しており、3つの課題について見直しの議論が進められている。

まず1つ目は、国による固定価格買取制度の対象となる「再エネ発電設備の認定」に関するものである。一番大きな問題は「認定時期」の問題だ。

事業者が再エネ発電設備を開発し、固定価格で電力会社に買い取ってもらうには、電力系統に対して設備を接続する契約(「接続契約」)と国からの再エネ発電設備の認定(「設備認定」)の2つを得ることが不可欠となる。

ところが、現在の制度では「接続契約」を締結する前に、「設備認定」を取得することが可能だ。そして、太陽光発電の設備認定の取得は、一般に、接続契約の締結よりも容易なので、とりあえず設備認定のみを取得して、実際は稼働するに至らないというケースが多い。

こうした「太陽光発電の未稼働案件」が大量に発生し、実態が把握しづらくなっている。これに対し、設備認定を接続契約の締結後でなければ取れないようにして、未稼働案件が生まれないようにするべく見直しの議論が進められている。
併せて議論されているのは、「設備認定後」の問題である。

現在の制度では、設備認定や事業開始後の体制について特段規制が設けられていない。そのため、特に太陽光発電設備においては、メンテナンス体制の不備により、台風や大雨、積雪、突風など自然災害の際に周辺に被害を出したり、周辺環境との調和を考えない開発が景観を乱すなどの問題が頻発した。

今後は事業者と地域との共生を促すべく、メンテナンスの規制を厳格にすることや設備認定の情報公開が進められる見込みである。

さらに調達価格(買取価格)の決定時期についても議論が進められている。

現状では、太陽光発電に関しては「接続契約の締結と設備認定が取得された時点」(接続契約時)において調達価格が決定し、その他の電源に関しては「接続契約の申込みと設備認定が取得された時点」(接続申込時)に調達価格が決定するものとされている。

太陽光のみ制度が異なるのは前述の未稼働案件対策の一貫なのだが、そもそも再エネ電源の開発に要する時間は電源ごとに大きく異なり、太陽光のように1年以内に開発が終わるものから、地熱のように10年近く要するものまである。

このような電源ごとの特性を考慮して早期開発を促すように、今後は調達価格の決定時期をさらに多様化する方向で議論が進められている。おそらくは開発期間の短い太陽光発電は「運転開始時」となり、他の電源は特性ごとに接続契約時と接続申込時に振り分けられるもの思われる。


◎制度に甘える開発事業者は生き残れない

制度の手続きに関しては具体的な議論が進められているところであるが、他の「コスト効率的な再生可能エネルギーの導入方式」や「系統制約の解消」については大枠の論点が示されている段階だ。

注目すべき論点は、「コスト効率的な再生可能エネルギーの導入」の枠組みで議論するとされる「買取価格方式の見直し」だ。これは開発事業者に非常に大きな影響を与えることになる。

現状、買取価格はコストの積み上げ方式で決められており、このことは事業者に利益が確約されていることを意味する。しかしながら低コスト化を進めるには、ドイツなどの先例を見るに、今後は積み上げ方式から一定比率のコスト逓減方式への移行や、買取価格ごとの累積上限制の設定、さらには入札方式の導入などが予測される。

これは「コスト競争力があり迅速に意思決定できる事業者しか生き残れない」ということを意味するので、制度に甘えたビジネスを展開している開発業者は駆逐されることになるだろう。

また系統制約が顕在化するに付け、「送電網の増強の費用負担を誰がするか」という点と「需給調整力をどのように向上していくか」という点は、業界全体が共有する大きな課題となりつつある。

特に九州地域では、送電網の増強の費用負担の分担が決まらずに開発が止まっている案件や、出力制御を恐れてファイナンスが止まり、頓挫しつつある大型太陽光発電案件が多数ある。全国に問題が波及する前に公平かつ有効性のあるルールが整備されることが望まれる。


◎電力システム改革との整合性について

こうした再エネ業界からのボトムアップの議論と合わせて、再エネ改革小委では電力システム改革というトップダウンの制度改正とも整合性を取るべく議論が進められている。

具体的に問題となるのは小売自由化、発送電分離といった政策との整合性である。2016年4月には、小売自由化の一貫で、電力会社の事業類型が見直され、現状の「地域独占かつ発送電小売の垂直統合」という電力会社の事業形態が、発電、送配電、小売の分離を前提としたものへと変わる。さらに2020年には、電力会社の送配電部門が法的に分離し、独立した送配電事業者となる。

これを見据えて将来的には再エネ電源の買取と電力系統網への接続の義務が送配電事業者に一元化される方針が打ち出された。

必然的に送配電事業者に買い取られた再エネ電源発の電気の大部分は、卸電力市場を通じて小売時業者に提供されることになるので、卸電力市場で取引される電力は増えていくことになるだろう。このことは電力事業への参入障壁が更に下がることを意味する。

以上、現在進められている再エネ改革の議論についてまとめたが、いずれの制度改正も再エネ市場に非常に大きな影響を与えることになる。

現状は国により利益が保証される中で一種の国策バブルとして活況を呈してきた再エネ業界であるが、今後は市場機能を活用する方向で制度が見直され、事業者は粘り強い努力と創意工夫をこらさなければ生き延びられなくなるだろう。








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