西村真悟さんが、「対露外交転換の時、原点に戻る時だ」と題して掲載している。
以下、要約し記す。
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安倍首相がモスクワで、ロシアのプーチン大統領と会談した一月二十二日、我が国のマスコミは、「何か進展」があるのではないかとの「期待」を滲ませたような報道姿勢だった。
一夜明けた今朝、報道をみて、芭蕉の句ではないが、「あらなんともなや」と思った。
皮肉を言っているのではない。
安堵したのだ。
では、懸念していたことは何か?
それは、「自分の内閣で北方領土問題を解決する」としている安倍総理の足下を見て、ロシアが仕掛ける、一九五六年(昭和三十一年)の「日ソ共同宣言の二島の枠内」に「領土問題」を閉じ込めることに合意し、すべてのロシアの要求を受諾する方向に向かわないかということだ。
十四日の日露外相会談で、ロシアのラブロフ外相は、「第二次世界大戦の結果、南クリール諸島(北方領土)はロシア領になったことを日本が認めない限り、領土問題の進展はない。」
と日本側に伝えていた。
これは、かつてのソ連のグロムイコ外相と同じ、長年の我が国の主張の100パーセントの否定である。
しかし、これを言われた日本側が、「日露交渉の決裂もあり得る」ことをロシア側に伝えず、むしろ外相は会談の「手応え」を強調していたのだ。
つまり、あのロシアのラブロフ外相の発言に対し、河野外相は、「おぬし、そこまで言うのなら確認するが、ロシア側は日露の決裂を望んでいるのか」とは言っていないようだ。
これが、我が輩の懸念した理由だ。
何故なら、このロシア外相の発言は、我が国の主張の100パーセント否定であるところ、この外相会談を前提にしたこの度の日露首脳会談で、プーチン氏が、「平和条約締結の後に歯舞色丹の二島を返還」という六十三年前の日ソ共同宣言を認めると発言すれば、それだけで、ロシアのプーチン氏は「大いなる譲歩」を決断したとなる。
そして、我が国内に、それに飛びつく勢力がある。
モスクワの安倍総理も、「わあ、ウラジーミル君ありがとう!我が内閣で解決した!」となり得るなあ、と懸念していた訳だ。
その懸念の上で、さらに懸念は続く。
つまり、相手がロシアであることを忘れてはならない、ということだ。
まず、我が国が二島が帰ると喜んで、二島に手を伸ばそうとすると、するとロシアは必ず、「チョット待て」と言う。
そして、二島を丸々帰すことはなく、そこから更に我が国の譲歩を迫る。
その果てに、結局、現実には、二島の半分が帰ればいいと思わせられる。
だから、二島の半分に手を伸ばそうとすると、また、ロシアは「チョット待て」と言って二島の半分の半分にされてしまう。
これがロシアの交渉だ!
一つの前例を上げる。
十四歳でスパイに興味を持ってKGBを訪問し、以後、そのつもりで大学に進み、二十三歳で共産党員としてKGBに入ったプーチン氏の親分はブレジネフだ。
そのソビエトのブレジネフ共産党書記長、コスイギン首相と我が国の田中首相、大平外相の
昭和四十八年(一九七三年)の日ソ首脳会談を思い起こそう。
この日ソ首脳会談に臨む田中総理の外務省事務当局との間で一致させた最終意思は次の二点
1、平和条約は、四島が返還されない限り締結しない。
2、経済協力協定には、領土問題が解決されない限り応じない。
第一回会談では、ブレジネフは田中首相の発言中に隣のコスイギン外相と雑談した。
第二回会談では、ブレジネフが関係のないプラハの春のチェコのドプチェクがけしからんとか二時間机を叩いて話し続けた。
そして第三回会談を経て共同コミニュケを決定する最終会談に入った。
出席者は、田中首相、大平外相、外務省東欧第一課長の三人、対するはブレジネフ党書記長、コスイギン首相、グロムイコ外相の三人。
首脳交渉後に共同コミニュケがないならば、招待側のソ連外交の失敗を世界に晒すことになる。
コミニュケ中に、「日ソ間の領土問題」という言葉を入れることにコスイギンが反対した。
その上で、ソ連側は「第二次世界大戦の時からの未解決の問題(単数)」との言葉を複数にしてもらいたいと提案してきた。
そこで田中首相が、「未解決の問題」とは「領土問題」以外にないではないか、と言うとブレジネフが、「漁業とか、経済協力とか・・・」と言い始めた。
そこで、田中首相が、「では、この『未解決の問題(複数)』の中に『四つの島』が入っているか」
と四本の指を立ててたたみかけると、ブレジネフは、「ヤー ズナーユー(知っている)」と言った。
そこで首相が、「もっとはっきりと未解決の問題に四つの島が入るか確認願いたい」と迫ると、レジネフは、「ダー(そうです)」と言った。
そこで田中首相は、日ソ共同コミニュケ発出に同意した。
この時、「日ソ間の領土問題は、ヤルタ以来、一連の国際協定によって解決済み」というソ連の立場の一角が崩れた(以上、新井弘一著「モスムワ・ベルリン・東京」時事通信社)。
以上、思い浮かんだことを述べた上で、
相手はロシアだ。
「ロシア人は、約束を破るために約束をする」という格言を肝に銘じ直し、今、シンゾウ君がウラジーミル君との「個人的信頼関係」を前庭にして、領土問題の上でのロシアの態度を軟化させるために経済援助と共同開発の進展を謀るという路線は止めて、田中角栄首相が、ブレジネフ党書記長との首脳会談に臨んだ前記の意思決定に戻るべきだ。
つまり、
1、平和条約は、四島が返還されない限り締結しない。
2、経済協力協定、共同開発協定には領土問題が解決されない限り応じない。
安倍総理には、我が国がロシアと緊密にならなければ、中露が接近して蜜月状態になる、これを避けねばならない、中露蜜月になれば、我が国は北と南から同時に脅威に去らされる、との思いが強いようだ。
しかし、このことは、江戸時代半ばからの我が国が置かれている国際情勢であり地政学的宿命である。
ウラジーミル君と仲良くなって解消することではない。
事実、ウラジーミル君は、北京の天安門で習近平の催した対日戦争勝利七〇年の軍事パレードを見物しているし、南シナ海で中露共同海軍軍事演習をしているし、北方四島を含む極東で大規模軍事演習をしているし、国後島と択捉島にミサイル基地を建設しているではないか。
この懸念は、我が国が「明治の日本」に戻って北と南で軍備を増強し、またアメリカ軍と北と南で日米合同軍事演習を実施し、脅威への対抗力を強化することによって安全を確保する問題である。
今こそ、断固とした軍備増強の時なのだ。
それを断行することなく、中露蜜月を防ぐ為にウラジーミル君に援助して仲良くするなど却って危険だ。
親友を裏切ることなど屁とも思わないのがロシアのエリート、つまり、プーチンだ。
中露とは、約束を破るために約束をする連中と、そもそも約束は守らねばならないとは思っていない連中ではないか、中露蜜月などあるもんか。
最後に提案する。
相手のロシアは、約束などへとも思わない連中で、日ソ中立条約も、日ソ共同宣言も、後でケロッと否定して平気な連中だ。
よって、こっちも、外務官僚が勉強した歴史の教科書に、幕末の日露和親条約、明治八年の千島樺太交換条約、そしてサンフランシスコ講和条約などが書いてあるから、あくまでそれらを前提にして対露外交を進めるのではなく、日ソ首脳会談の時、田中総理の前で、関係のないことを二時間以上机を叩いて話し続けたブレジネフのように、ロシアのウラジーミル君の前で、
我が長州のシンゾウ君が、高杉晋作が乗り移ったつもりで、幕末と明治八年のロシアとの条約などみんな無視して、全樺太と全千島は日本のもんじゃ、おまえらが来る何百年も前から日本人が開発していたんだ、帰せ!
帰したら、北方領土どころか、全シべイリアの開発どころかウラル以東からカムチャッカまでの開発に日本は協力すると机を叩いて怒鳴ったらどうか。