老後の不安を解消するサービスが増えているが、行政への届け出を怠る業者もあって、トラブルにつながるケースも少なくない。「高齢者向けサービスの問題」について、読売新聞調査研究本部の福永聖二さんがまとめている。
以下、要約し記す。
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◎急増する孤独死
「独り暮らしの高齢者がどんどん増えています。特に都市部で増えており、どうしても孤独死も増えていく。公的なサービスでヘルパーさんが週一回か二回入れば見守りが保たれるのですが、介護保険の縮小でこのサービスが削られると厳しくなる」
「介護保険のサービスが縮小されていくと、民間が独自にそこのマーケットに参入してきます。介護保険は自治体の一定の基準を経た上でサービスが提供できるようになっていますが、民間のヘルプサービスは誰もチェックする人がいませんから、その点で問題が出てきます」
・孤独死増加には三つの側面があります。まず高齢化社会が進み、核家族化で独り暮らしのお年寄りが増えているということ。熟年離婚や配偶者の死去で、独り暮らしになるケースも多い。次に地域の人間関係が希薄になり、地域社会の機能が弱まっていること。互いに見守り合う関係がなくなってきています。さらに、介護保険の見直しで、要介護一、二の人たちが切り捨てられている。こうしたことが複合的に絡み合っています。
・以前は家族で支え合っていたのですが、家族のあり方が変わってきて、お年寄りの独り暮らし、高齢者夫婦が増えています。特に都市部で爆発的に増加しています。個人情報保護法に関連して、民生委員も地域のお年寄りの状況を把握しにくくなっている面もあります。
◎高齢者向け新サービス
「孤独死を防いだり、身の回りの支援をしてもらったりするほかに、入院するときや老人ホームに入居するときに必ず身元保証人が求められるのですが、高齢者の中には、親族で立てられない人もいる。そうしたとき、お金を払って民間の業者に身元保証人になってもらうというニーズがあり、業者が増えています」
「施設によっては保証人がいなくても受け入れますよ、という所もありますけど、全体的には少数派。お金の取り損ねの問題とか、医療同意という、たとえば延命治療をどうしますかなどという問題もあるので、やはり親族とかに保証人になってもらわなくてはいけない」
・身元保証人を立てられない高齢者が増え、そうしたことを代行する民間サービスが出てきました。中には一括して一〇〇万円以上払って会員になり、身元保証人の引き受けだけでなく、定期的な安否確認、身の回りの生活支援、死亡後の葬儀や納骨までしてくれる所もある。少なくとも一〇〇社以上あると見られ、三〇〇〇人以上の会員を抱える大手もあります。
・日本は契約社会なので、身元保証人が必要になる。普通に生活していると気づきにくいのですが、独り暮らしのお年寄りなどの弱者にとっては深刻な問題になる。保証人がいないと入院すらできませんからね。それを代行する民間業者というのは言わば隙間産業。納骨までやってくれるというのには驚きました。
「身元保証をうたって老後の不安解消サービスを提供する事業者というのは、行政の許認可のいらない事業なので、誰でも参入できる。トラブルがあったとしても基本的には加入した高齢者が自分で解決しなくてはいけない。いざ退会するときにお金が戻ってこなかった、などという事例につながっている」
・利用者が高齢者だけに、理解不足からトラブルが起きやすい。身の回りの生活支援をすると言いながら、やってくれなかったり、不必要なサービスが付加されていたり。契約書をきちんとチェックしなくてはいけませんが、高齢者には難しいかもしれません。
・行政に届け出る必要がないということですが、きちんと監視しないと高齢者相手の詐欺まがいになりかねない。業界団体すらできていないと言いますから、全く野放しの状態です。やはり、何らかの形で行政がチェックする仕組み作りが必要だと思います。
◎無届けホームの課題
「高齢者を住まわせて食事や介護、生活援助等のサービスを提供する場合は、公的施設以外の事業者は必ず自治体に届けなければいけない。その届け出を怠ったまま、空きマンションや空き家を活用して、高齢者、要介護者を住まわせて介護を提供する事業者が最近増えている」「届け出をしていないので、自治体の目が届きにくく、不当に介護サービスを多く提供したり、手抜きをしたり、または身体拘束もしくは虐待をするケースも出ています」「中には要介護五の重い人を受け入れて、胃瘻といって、食事のできなくなった経管栄養の人ばかり集めて、寝かせきりにしておむつに排せつ物垂れ流しでサービスを提供しているような所もある」
「特に都市部では特別養護老人ホームにはなかなか入りにくい。家族もセカンドベスト、サードベストとして、無届けと知りながらやむを得ず入ってしまうということもある」「自治体が、見て見ぬふりをしているというのも実際にある。これがもしなくなると、受け入れ先がなくなってしまう。特に都市部で介護難民があふれることになる」
・地域で医療や介護をしている人の話を聞くと、同じ高齢者といっても格差が非常に激しいようです。統計的には預貯金がたくさんある高齢者が多いのですが、きちんと医療を受けられない人もいる。生活保護のお年寄りばかりを集めて狭いアパートに押し込め、生活保護費の大部分を取り上げるような業者の話も聞きます。
・公的な老人ホームには多くの待機者がいて、なかなか入れない。そもそも要介護一、二の人は特別養護老人ホームに入れません。グループホームのようなところに流れていますが、それでも需要のすべてを満たせない。無届けのホームが受け皿になっているのが現状です。悪質な業者もありますが、誠実に対応しているところも多い。無届けだからダメ、というのでなく、何らかの監視のシステムを作り、公的施設と民間とが上手に共存していくことが必要ではないでしょうか。