ポアンカレの怒り
このような一連の事実を並べてみると、アインシュタインの「特殊相対性理論」は少なからぬ先人たちの思考や仮説、実験結果と無縁でないことは明らかである。
だからといって、「光速不変」を原理として規定し、エーテルの存在をきっぱりと否定し、“時間の遅れ”や“長さの縮み”を理論的に明らかにし、「特殊相対性理論」という革命的な理論体系を構築したのはアインシュタイン一人なのだから、彼の栄光が減じられることは少しもない。
しかし、アインシュタインが1905年の「特殊相対性理論」の末尾に、友人であったベッソーへの謝辞を掲げるのみで、論文中にマクスウェル、ローレンツの名前は見られるものの、マイケルソンやモーレイ、ポアンカレ、フィッツジェラルドらの文献が引用されていないのは、いささか不可解といわざるを得ない。この点において、アインシュタインは非難されても仕方ないだろう。
また、アインシュタインのこの論文の査読者(私はプランクではないかと想像する)が、そのことを指摘しなかったとすれば、私には、それも不可解である。
ポアンカレは並外れて優れた数学者、物理学者で、おだやかな人柄として知られていたが、自身の論文を引用文献としなかったことに関しては、アインシュタインを生涯許さなかったそうである。
私には、ポアンカレの気持ちがよくわかる。
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志村 史夫(ノースカロライナ州立大学終身教授(Tenured Professor))