雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

アシンメトリー

2010-12-29 | 雑記
 些か髪が伸びすぎたので、散髪に行きたいと思ったのだが、何かと忙しくて床屋に出向く暇もない。年明けでもいいか、とも思ってみるが、やはり伸びすぎた髪というのは欝陶しくてかなわない。
 そこで、妻に切ってもらうことにした。いや、正確には「刈って」もらうことにした。バリカンで。
 以前、床屋代の節約にバリカンを購入して刈ってもらったことがあったのだが、どうにもままならない感じで、いうなればパンキッシュな具合にしかならなかった。
 我が妻は不器用である。それはもう、ほとほと不器用なのである。
 どれくらい不器用かというと、お菓子の袋をまともに真っ直ぐ開けられた例がないほどの不器用である。
 それならそれで、失敗を教訓にして次からはハサミを使って開けるとかすればいいものを、面倒くさがる。不器用な上にめんどくさがり屋なのである。最悪である。

 それでも刈ってもらわざるを得ないほどなので、やむを得ない。

「失敗したら坊主でもモヒカンでもいいから、とにかく、『ちゃちゃっ』とやってくれ」

 そういって煮え切らない妻にバリカンを持たせたのはいいが、最初恐る恐るやってた妻も、なんだかめんどくさくなったのだろう。しばらくするとサクサクと刈り込むようになった。

「おい……。まあ、いいんだけど、もう少し気を遣ってくれ」

 どんどん刈られていく己の髪の毛を横目に戦慄を覚えた。

 しかしまあ、終わってみれば「まあいいんじゃない」という具合にはなっていた。
 だがしかし、よくよく見ると、やっぱり横の長さがアシンメトリー(左右非対称)。
 妻もそれに気付いたようで「でも最近の若い子たちのあいだでは、こういうのが流行ってるんじゃないの?」と、慰めなのか自己肯定なのかよくわからないことをぬかす。

「うん、でもね。オレ、おっさんだから……」

 その後、見事なアシンメトリーをなんとかかんとかシンメトリーにしようとしてどんどん短く刈られていったのは、言うまでもなかろう。
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恐怖の雪道

2010-12-27 | 雑記
 ここ二、三日雪がよく降っている。金沢市内のほうはそれほど積もってはいないが、富山県の山間部などだとかなりの量である。仕事柄、ほぼ毎日富山のほうへ行くので金沢との差があからさまにうかがえる。
 行きは高速道路を走るのでさほど問題はないのだが、帰りはその山間部にある国道を通って帰るのでなんともしんどい。
 ただでさえ雪の多いことに加えて、帰りは凍てつく深夜帯である。数多くの車が通った轍(わだち)がテカテカと凍りついていてガクンガクン跳ねたり滑ったりすることこの上ない。
 しかしながら、これでも車の免許をとってすでに二十年近くになる。雪道での走り方は心得ているつもりである。
 が、しかし、それも乗用車に限ったことであってトラックともなるとまだ数ヶ月の初心者である。やはり乗用車とはわけが違うのでかなり恐い。吹きすさぶ雪で視界も悪く、足元はいつ滑るとも知れやしない。
 そんな状況なので、私はその一車線の国道を30キロから40キロくらいでちんたら走っている。
 今日もそんな具合で帰り道を走っていたら、もの凄い勢いで追い越しをかけてきた大型トラックがあった。その国道は追い越し禁止である。というか、かなりの悪路、悪天候である。
 ふつうの状況においても、私の運転しているトラックは60キロ縛りなのでよく追い越しをかけられる。そんなとき私はいつもナンバープレートを見る。大体は県外ナンバー、特に関西系にその傾向が見られるが、今回は「山形」ナンバーであった。それを見た瞬間、

「なにちんたら走ってやがる! こんなもん、まだまだ雪道のうちに入らねーぞ!」

 という声が聞こえてくるようであった。

 私は心の中でソッと、その大型トラックがそのまま滑っていって山の斜面に激突することを祈った。
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比べるのもなんだけど

2010-12-26 | 雑記
 このごろとかく情報に疎い私は、新刊情報などは図書館のHPでの『新着資料検索』でしかつかんでいない。どのみち新刊が出たからといって買うわけでもなく借りるのだから、まあ手間が省ける。
 さて、そんなわけで今日も誰かお気に入りの作家さんの新刊が出ていないかと検索してみたところ、思わず小躍りしてしまいそうな新刊が登場していた。

 長嶋 有「祝福」

 なんと久しぶりの長嶋有氏の小説。これは早いとこ予約しなければ! と意気込んで開いてみると、0件
 ……。
 や、そりゃ、すぐに借りられるのだから嬉しいのだけれど、齋藤智裕の小説は34件もの予約数なのに……などと比べても詮無いこと。

 だがしかし、自分としては、

「KAGEROU」

 などの「いかにも」なタイトルよりも、

「祝福」

 という響きのほうがグッとそそられる。



 ともあれ、年末に向けてのお楽しみができて喜ばしい限りである。
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「メリークリスマス……」といえば

2010-12-25 | 友人
 http://blog.goo.ne.jp/namifukuken/e/83a061d9a6ebb715544ef962cac9470c



 ↑ の記事を書いた人物は、私の友人である。
 彼の性格のことは、私も十二分に承知しているので、それも仕方なかろうと思った。しかしながら、彼のことをよく知っている分、こういうときには是非ともこう言ってほしかった。




「メリークリスマス、
  ミスターローレンス」





 そう、ちょっと照れくさそうに、はにかみながら、言ってほしかった。

 きっと本番の25日は、頭を丸めて再チャレンジしてくれるものと信じている。


 http://www.youtube.com/watch?v=WZQYg0vjLxE
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アレ

2010-12-24 | 雑記
 このところの世情はよく知らない。実に、転職してからのここ数ヶ月、まったくテレビを観ていない。新聞も、とっていないのでますます世情がわからない。
 それでもなにかと話題になったことなどは、女房の四方山話しでうかがい知れる。その中でも自分が気になっていたのはアノ、水島ヒロの大賞を獲った小説だ。
 まあ、最初に聞いたときには、大方の人達がまず思ったことを思った。それでも、とりあえず、読んでみなけりゃなんとも言えんだろう、といったところであった。
 まあ発売前から何かと色々言われているのだから、さぞかし売れるであろうなと思っていたら、案の定、売れているようである。
 それはそれでいいのではないかと思う。文章って結局、読まれてナンボのものだから。
 それでも自分は、ハッキリ言って読む気はない。感覚的に、というか先入観的に、損をするのは目に見えているから。
 だがやはり、かなりの話題に上っているらしく、純文学を志す者から「水島ヒロの書評、書いてくれ」などとメールをもらう始末。もうすでに、ここまでの話題性をつくっただけで充分ではないか。
 だがここまで言われればやはり読んでおいても損はないのか、と思い図書館の端末にアクセスしてみると、すでに三十人近くの予約が入っていた。なんだかそれを目の当たりにすると結局読む気が失せてしまったのは何故だろう? 
 ハッキリしているのは、男レベルの妬み嫉みを抜きにして、どうにも出版業界の裏側に嫌悪を感ぜられるからである。
 まあここで、長々とポプラ社の汚さを書き連ねていっても時間の無駄なのだし割愛させていただくが、そんなこんなで、ではいったいに、読んだ人の意見はどうなのであろう? と気になって、色々の書評を読んでみた。
 でもまあ、書評なんて読む人それぞれの思いや感性によって異なるのは当たり前なのだから、それほど参考になるというものでもない。
 が、しかし、開いてみるところみるところ、その全てが、

ボロクソ

 に書かれていた。

 しかしながら、それはそれでまた、ちょっと読んでみたいなという気にもさせられると思う。

 ようするに、いちばん美味しいのは出版社だけなのである。
 だが今後、ポプラ社の文学賞の地位や名誉は、まったく意味のないものになってしまったのは明らかである。
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サンタルック

2010-12-23 | 雑記
 今週の頭くらいから、納品先の店々でやたらと店員さんたちがサンタルックに身を包んでいる。いったいに、コンビニエンスストアでそんな格好をしなければならないのか? と疑問に思ったりもするが、まあなんとなくクリスマス気分を煽る効果があるのだろう。
 しかしこれがまた、なにかと目立つもので、こちらとしてもなんとなくスルーするのもいただけないような気がして、ついつい一言二言その格好について触れてしまう。
 若い女の子(女子高生くらい)だと割合自身あり気に笑顔を見せてくれるのだが、おばさん(と言っても大体30代くらい)とかになると、かなり照れくさそうに、それでもはにかみながらの笑顔を見せてくれる。
 こちらとしても、若い子になら「似合ってますよ」とかサラッと言えるのだが、さすがにおばさんにはちょっと言い辛い。
「あったかそうですね」とか「たいへんですね」くらいしか言えない。
 ある店舗の女の子はエプロンバージョンのサンタルックを身に着けていたので、「どうせならその下、裸のほうがいいよね」と、思わず言いそうになったが間違いなく出入り禁止になるのでグッと堪えたりもした。

 そんなサンタが溢れているコンビニに、今日も今日とて仕事に行ってきたのであるが、富山県のとある店に、困った顔がわりとセクシーな中国系と思われる店員さんがいる。年齢はたぶん自分と同じくらいだろうと思うのだが、色白で長い黒髪がとてもそそる。伝票などを確認してもらうときなど、何故だか思いっきり接近したりしてきて、ついつい「お、奥さ~ん」とむしゃぶりつきたくなるところを間違いなく出入り禁止になるので、いつもグッと堪えている。
 そして今日、その人のいる店に配達に行ったのだが、彼女は赤い帽子を被っているだけであった。
 私は思わず「帽子だけっすか……」と口走っていた。
 すると彼女は「ボウシダケデモホントハイヤネー」(あ、彼女は日本語片言である)
 確かに、自慢の黒髪も隠され……いやだがしかし、帽子の裾からチラリとのぞいている首筋のうなじが、イイ。
 などと意識を飛ばしていると「ゼンシンサンタ、ハズカシーヨー」とはにかんでいる。
 私はとっさに先日見たエプロンバージョンのことを思い出し、
「エプロンバージョンもあるんですよ」
 と言ってみた。
「へー、ソナノー?」

「ええ、奥さんならきっと似合いますよ。裸に赤白のエプロン」
 

 と、喉元まで出かかった思いの丈を、これまたもちろん出入り禁止になるのは必至なのでグッと堪えて、とりあえずニッコリ笑っておくだけにとどめておいた。
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この胸のむかつきを

2010-12-22 | 雑記
 昨日仕事中、とある店舗に左折入店しようとしたところ、ちょうどその店舗駐車場入り口で男性二人が思いっきり顔を近付けあって対峙していた。
「お? なんだ? 喧嘩か?」
 と、私はトラックを進入させられないこともないのだが、おもしろそうなので一旦停止して成り行きを見てみることにした。後続車はさぞかし邪魔であっただろうが。

(んだ? ごらっ!)
(あ? んだよ、てめー!)

 などと白熱したメンチ対決でお互いの顔が急接近……しているものだとばかり思っていたのだが、程なくしてその二人は、

「チュッ!」
 
 とかして、お互い照れくさそうに微笑んだ。

 夕方近くとはいえまだまだ明るい日中、人通りも車通りも多いコンビニの駐車場前で、なんと破廉恥な! というか、やめてくれ……私は一気に全身の力が抜けていく感覚に襲われた。

 これがまた、BL系の美少年や美青年なら、まだ絵になるのかも知れない。(いやそれもまたどうだろう?)
 が、その二人の容姿を簡単に現すとしたら、

「メガネゴリラと死神」

 といったところである。

 たまに、若い男女のキスシーンなどを目撃するときもあるが、他人様のキスシーンなどオナニーの足しにもならない。ただただ、むかつきを覚えるだけである。それがまた、ぶっさい男同士のキスシーンなどだと、また別の意味で胸のむかつきを覚えるだけであった。

 私がどれだけ、左に切っていたハンドルをやや右よりに戻してそいつら目掛けてアクセルを踏み込みたかったか、どうか察してほしい。
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世間の狭さ

2010-12-21 | 雑記
 日曜の夜は、会社の忘年会であった。しかしながら、24時間365日営業のコンビニエンスストアに品物を配送する仕事の者たちが全員集まれるわけはなく、十数名を三班に分けてそれぞれ日にちをずらして行うという苦肉の策がとられた。そんなわけであるから人数は少ない。結局自分らの班は六人で行うことと相成った。こうなるともう、会社の忘年会というよりは、単なる仲間内の飲み会といった具合である。
 それでも普段ではあまり話しをする機会のない人などともお喋りできるので、有意義ではある。
 そんな、今まであまり話す機会のなかった……というか、基本的に配送の仕事など孤独なもので、会社で顔を合わせてもそんなに話す時間もなく、とっとと荷物を積み込んであとはトラックの中、粛々と孤独の中で仕事をこなしていくだけで、帰着してからも、すでに疲れ果てていてお喋りどころではなくとっとと帰ってしまうので、みんなあまりお互いの深いところまではなかなか知れない。未だに、どこらへんに住んでいるのか? 何歳なのか? 既婚者なのか未婚なのか? 等々、謎の人も数人いる。
 そしてちょうど自分の対面座った人もまた、顔を合わせばちょこちょことくだらない話はしていたのだが、一体に謎な人であったので、この機会に色々探りを入れてみた。するとこれがまた、話を聞いていくうちになんと自分と出身中学が同じであることが判明した。またさらに、「え、じゃあ○○小?」と向こうが訊いてきて、自分が「いえ、△△小です」と答えると「えー!! オレもだよ! 今幾つだっけ?」と盛り上がる。
 自分が「36っす」と言うと「えー! オレ、40だから……じゃあ、小学校のときおんなじ校舎にいたんだー!」と、そこからその人はかなり盛り上がっていたのだが、自分としては「っていうか、この人。40には見えないんですけど?」というほうに意識がいっていた。
 それは、「若く見える」というのではなく、なにやら「幼さ」のようなものを端々から感ぜられていたからである。そしてこの、もう40歳にもかかわらずこのような「幼さオーラ」を発している人間が親しい友人にいるので、もしや? と思い訊いてみた。
「結婚されてるんですか?」
「いや、オレまだ独身(てへっ)。」


 やっぱりな……


 と、かくも自分の周りには、不惑の年齢に近い者たちの独身率がなんとも多いことであろう……と、世間の狭さを感じつつも、しかし独身者たちからするとなかなか待ち人を探し出せない世間の広さに戸惑いを感じているのだろうなぁ、などといらぬ事に思いを巡らせてしまった次第である。
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お役所仕事

2010-12-20 | 雑記
 エコポイントの交換商品が届くまでに、かなりの日数がかかることはよく言われていることであったので、それに対して殊更に腹を立てるつもりはない。
 だがしかし、今年九月のはじめに購入したエアコンで申請したエコポイントの知らせが先日ようやく来た。
 その内容は、こうだ。

【お知らせ】申請時にご希望いただきましたすべての交換商品は、以下のいずれかの理由により交換できませんでした。

1.「間違った事業者コード・商品コードが記入されている」
2.「在庫切れ、期限切れの商品が選択されている」
3.「年齢制限により交換できない商品が選択されている」


 と……。



 で? いったいどれがオレ様にとっての理由なんだ?

 
 っていうか、遅いだろ。それならそうともっと早く送れよ、たかだかハガキ一枚。
 そんでまた、これから申請になって結局まだまだ日数がかかるわけだろ? ただでさえ十二月前に駆け込み購入した人たちのエコポイント処理に追われてるわけだろ。そんでオレ様のは後回しになるわけだろ?

 まったくもって、何事においても後手後手に回して人々をイラつかせる仕事っぷりには怒りを通り越して呆れも通り越して、ただただ鼻で笑い飛ばすしかない。
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安心したがる人々/曽野 綾子

2010-12-19 | 小説
             

 絲山秋子さんや、佐野洋子さんなど、どうやら自分は辛辣な女性が好みのようだ。いや、正しくは辛辣な考えを持っている女流作家さんが好き、だ。
 実際に、こんな辛辣な思考を持っている(そしてそれを平然と言ってのける)女性とは到底お付き合いできないと思う。もう、読むだけで満たされる。
 そういった女流作家さんの最たる人物とでも言おうか、齢八十近くにおいてますます辛辣さに磨きがかかったというか、いや相変わらぬ感受性をお持ちの曽野綾子女史の最新エッセイ集を読んだ。
 とにかくもう、読んでいるこちらがハラハラさせられるようなことをズカズカ書いておられる。それはまさに「痛快」なことこの上ない。
 それはまあ、ようするに、自分の思っていたこと、考えていたことなどが合致するからこそなのだろうけど、やっぱりこういう文章を書く人には敵も多いのだろうなぁ……と思ったりもする。
 なんせ、ファンの一人である自分でさえ、読み進むに従って、「もしかして、この人って、ただの偏屈バァサンなだけじゃねーの?」と思えてくるくらいだから。
 しかしながら、その偏屈で辛辣な性質の中にあるド太いしっかりとした倫理の芯を感じ取れるので、「やっぱすげぇなぁ……」と感嘆してしまう。

 こういう文章があった。

『しかし谷選手(柔道)のこれまでの生活が、それほど偉いとは、私は思わない。
 母親としての暮らしと厳しい選手としての生活とを同時にやってのけたことは、確かに意志の弱い人にはできないが、その程度の辛い生活に耐えた人は世間にいくらでもいる。
 谷選手には、その厳しさに華々しく報いられる場があった。
 しかし年老いてぼけた自分の母親を、何十年も介護し続け、ほとんど自分の人生を犠牲にしながら、誰からも注目されず、もちろんメダルももらわなかった人の方が、私はずっと偉人だと思うのである。』


 今でこそ、谷亮子はボロクソに言われているようだが、この文章が書かれた時は、まだ「ヤワラちゃん」も世間から脚光を浴びていた時である。そんな時期にこういうふうに言ってのけることも凄いのだが、なにより、そこに書かれていることが真実であるということだ。
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本当はちがうんだ日記/穂村 弘

2010-12-19 | 小説


 菓子パンが主食の四十過ぎのオッサンのどうしようもなく哀れで切ないエッセイ集……。
 と、いうわけでもなく、なんだかとにかくおもしろい。まったくもって、この人の言い分(というか言い訳)を読んでいると、イライラしてもくるし呆れ果てたりもするのだけれど、なんでだか、最後には「ふふっ」と微笑っている自分がいる。はっきりいって自分自身が気持ち悪い。なにが気持ち悪いかって、この自意識過剰過多で菓子パン好きのマニア系のオッサンにかなり共感してしまえているのだから……。
 正直、今いちばん会いたい人かもしれない……いや、自身の名誉にかけてやっぱいちばんとか言いたくない。
 けど、あったら言ってしまうだろう

「わ、わかりますよ……(泣」

 と。


 哀しくも切なく、そしてこの上なく可笑しい。人生に卑屈な人は必ずや共感せられるであろう穂村弘の言葉は、寂しい自分をより寂しくさせる珠玉の翳りに溢れている。
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新規投稿

2010-12-19 | 雑記
 このところ、なかなか投稿できないのでケータイからでも投稿してやろうと試みるのだが、数行打つと親指がだるくなる。それと、自分は基本的に長文を書いていると当初の目論見とは違う方向に行ってしまうことが多々あり、「あれ? さっきまでナニ書いていたっけか?」と読み直すこと甚だしく、まったくもって画面をスクロールさせるのが面倒くさい。そうして意味不明な繋がりをまとめ直すのも厄介なことこの上ない。これがパソ画面ならある程度ズラッと見渡せるのでなんとかなる。しかしながらその性質はハードが違えど変わることもあるはずもなく、ただただ徒然と書くばかりである。
 そこにもってきて久しぶりの新規投稿ともなると、いったいナニをかけばいいのやら? マスでも掻いてお茶を濁すばかりである。いや、そればっかりでもないのだが、そればっかりできればそれはそれで、またよしであるし、股もよろし。
 
「書く」という作業能力が、ちょっと追いやられている感じがする。こういうのはやっぱり、続けていなければ衰えるものなのだと、つくづく実感せられる。というか、「書く」ことだけではなく、「読む」や「聞く」、「見る」などの作業においても然り、かと思う。
 もちろん、日常生活においてのそれらには特に支障をもたないが、日常から切り離された具合の、非日常性を伴なった特殊な感性を強いられる物事というものは、やはり「鈍り」が出てきてしまう。
 そりゃ別に、「そんなの気にせずに、書けばいいし、読めばいいし、聞けばいいし、見ればいいじゃん」と言われればそれまでの話なのだが、どういった性質なのか、自分はどうもそういうのを蔑ろにできないようで、「さらっと流す」的なことができない。
 具体的に言えば、なんのスジも見つからないのに文章を駄々書きするだとか(いや、今まさにソレだけど)、漫画や小説を区切りの悪いところでやめてしまうとか、車の中で聞いている最中のCDを曲の途中で替えるだとか、映画を途中から観るだとか(そしてもちろん、エンドロール途中で席を立つなどもってのほか)そんな性質であるので、実際、自分自身でも面倒くさいこともある。
 が、しかし。そのぶん、何事にも気を入れて取り組んでいるのでそれらに対しての感慨等は後々までもかなり残っているといえる。
 それが、このところ、思うようにいかない、というか、鈍ってきていると実感せらるので、それらの物事に取り組むことに躊躇してしまう。というより、なんだか、めんどくさい。
 しかしそれでも、欲求はある。

 だからこうして、ぐだぐだながらも新規投稿を試みた次第である。
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マリアビートル/伊坂 幸太郎

2010-12-08 | 小説


 よくもまあ、東京から盛岡までの間の新幹線での出来事をこれほどまでに面白おかしく、且つ感慨や驚嘆を盛り込んで描けるものだと、ただただその力量に脱帽はおろか頭の皮までずり落ちる勢いですわ。
 これほどまでのトレインエンターテイメント(そんなジャンルがあるのか知らないけれど)は読んだことがない。というか、あまり列車関係の小説は読まない。誰だったっけ? あの時刻表トリックだのなんだので何十冊もだしてるオッサン……。
 まあ、それはそれでいいとして、この物語はそんなありきたりの列車ミステリとかではなく、とにかく、なんだろ? もう「伊坂幸太郎」ってジャンルだな。完全に確立してしまってるわ、この人は。もうここであーだこーだ言うよりも「とにかく読んだほうがいいって」と、人に薦めたくなる。
 この『マリアビートル』に限らず、伊坂幸太郎の作品はとにかく間違いがない。そんな作家、他にはいない。
 
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妻の超然/絲山 秋子

2010-12-08 | 小説


 絲山秋子、久しぶりの新刊。
『超然』三部作、「妻の超然」「下戸の超然」「作家の超然」がおさめられた一冊。
 ……なんかもう、タイトルからして「グッ」ときてしまうことこのうえない。特に「下戸の超然」とか。だいたい、日常生活において「超然」なんて言葉、遣う場面なんてそうそうないでしょう。実際、このタイトルを見るまで「超然」なんて言葉忘れてたもん。そこにきてこのタイトル、それだけで凄まじい作家さんだなぁ、というかやっぱりあなどれない人間だなぁ、絲山……と思った。
 もちろん、タイトルだけではなく、その内容もかなり「超然」としていた。(そりゃそーだろ)
「超然」の意味を知るうえでもまったくもって辛辣かつ感慨深く味わえる。
 絲山秋子の本を読んだあと、いつも思うことなのだけれど、「ああ、本当にいいものを読んだなぁ」というのが、今作は絶大にまとわりついてきた。
「作家の超然」などは、自分は彼女のサイトでの日記などを読んでいて、その病状や経過などを知っていたのでぐいぐいと入ってきたし、「妻の超然」や「下戸の超然」での辛辣さ(というか「超然さ」)はひしひしと心を押してくる手ごたえを覚えた。

 とにもかくにも「超然」な一冊。ここらで「ぴしっ」と身を引き締めたい人は、読んでおくにこしたことはない。
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空の冒険/吉田 修一

2010-12-08 | 小説
 いくつかの短編とエッセイによって構成された一冊。
 本当に、この人は巧い小説を書くものだ、と改めて思い知らされた。まったくもって短編というにも短い、掌編の中に胸中を焦がす、というか、心の隙間をいじらしくさせられる話がいくつも連ねてあった。
 そして旅を中心にしたエッセイ。旅行記とはまた違う、作者の内面を何気なくこぼしたような旅エッセイはなんだか凄い作家さんが近しくなったような感じがして微笑ましかった。なにより、最後の自著『悪人』についての章などは非常に興味深くあった。
 だが、前半部にあまりにも良質な章編集があったがために、後半部のエッセイではいささか本音が出すぎているのか(いやまあ、そりゃエッセイなんだから本音を書くのだろうけど)一冊の本としてはまとまりが悪いような気もしたことは否めない。
 しばしばこの作家は「お洒落作家」の代名詞として取り沙汰されたりもするが、特に鼻持ちならない言葉や表現を遣ったりするわけではない。それでいて「なんだか洒落ている」と匂わせるのは、やっぱり作者本人が洒落ているからだろうか? とも思っていたが、エッセイを読むかぎりではそうでもなさそうだ。ただ、生きること、書くことに対して自分なりの余裕を持っている人なのだろうな、そういところから滲み出るものがあるのだろうな、そんなことを感じられたエッセイはよかった。
 それなので、好い意味で「ヘタクソなエッセイ」は身近に感じられるのである。
 もちろん、小説は一級品であることに間違いはない。
 さしでがましくもあるが、次作はエッセイはエッセイ、小説は小説、の一冊で出したほうが良いと思われる。
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