執念 その１

出撃予定日の波予報を見ながら、一喜一憂するのはヒラ師の性である
今年の初釣行ともなれば、更に同門のライバルに夢のランカーゲットを先に果されてしまった直後の出撃なのだから、毎日祈る様な心地で波予報を眺めていた
先週半ばの波予報では、寒波襲来で程好く荒れていた海も、釣行予定日の週末には無常にも穏やかになってしまうと告げていた
海が穏やかではチャンスが無い
しょげ返って毎日眺めていた予報が一転して変ったのは、出発当日金曜の朝の事であった
明日朝まで6～8ｍの北西風が、残ってくれそうだと予報が告げている！
神風が吹く！！
土曜早朝にはチャンスあり！
その攻撃に総てを賭けよう・・・



翌朝未だ暗い内に攻撃予定地に着いた僕とボーグ氏は、駐車場所で念入りに作戦を打ち合わせた
風は予想外に強い（むしろ強過ぎる位である）
この風だと、通常釣り座となる岩場は完全に波を被ってしまう
其処へ降りる中段か、其処も波が洗う様なら更にその上の段からしか、打ち込めないかもしれない
ヒットしたらしゃにむに寄せないで、波のタイミングを見計らい先ずは下段の岩場を寄せ波で乗り越えさせてから、次には右へ魚を誘導し右奥のワンドへ持ってくる
そのワンドなら波の影響は少ないので、其処へ誘導出来たならボーグ氏が中段からネットアシストをして取り込む・・・と言う手筈である



降りていった現場は駐車場所での予想通り、強烈な西風が逆風となって吹き付けて、波は時々中段までも上がって来ている
攻撃は上段からしか、出来そうも無い
上段は海面から20ｍ程あり、その上10ｍを越すアゲンストの中で、一面に拡がるサラシの外へファルコンを打ち込まねばならない

上段も中段も、海面からそそり立つ一連の岩場の棚と言うか、窪みに過ぎず、足場の奥域は有る所で2ｍ弱、平均すれば1～1.5ｍ位で左右の幅は5ｍ超しか無い
奥域が無いのでロッドを後方に倒す事が出来ないから、打ち込みは頗る難しい

眼下に拡がるサラシの外側までファルコンが届くのは、10投に1投有るか無いかだ
打ち込んだファルコンLB/Sky-passは強烈な逆風に煽られて舞い上がり、押し戻されてサラシの中へ落ちる
こんなに荒れたサラシの中では確立も低いから、波に揉まれて根掛かりしないようリールを高速で巻いてファルコンを回収する
時々しか出来ないのだが、スナップを効かせた打ち込み、しかも指に掛けたラインを放すタイミングを通常よりも若干遅らせると、吹き上げる逆風の下を抜けてサラシの外側へ届かせられる

足場が狭いので、此処からは一人しか攻撃出来ない
ボーグ氏は最初からロッドも持たず、完全にネット・アシストとして待機されている
氏の僕に釣らせたいと言う熱い思いが、痛いほどに伝わってくる
しかし、技量が足らない僕は中々サラシの外側までファルコンを打ち込めず、その熱意に応える事が出来ぬ自分がもどかしい
これはヒラとの闘い以前の、僕の技量と逆風との闘いである
折角の神風を味方に出来るのか、僕の技量と運が試されているのだ
1時間もすると、技量が風に勝り出したのか、風の力が少しは収まったのか、サラシの外側へ打ち込める回数が増えてきた



サラシの外側へ打ち込んだLB/Sky-passが潮を噛み、体をウォブリングさせるブルブル感がニューロッドに伝わってくる
LB/Sky-passがサラシの直前で、返す波の水流を掴み一層強くブルブルと応えてくる
その一瞬、下から黒い魚体がファルコンに向かって突き上げて来た

ヒット～～！！

(冒頭写真は、ヒットの瞬間の画像）

アワセもガッチリ決まった
いよいよ駐車場所で念入りに打ち合わせた、取り込みのミッション開始である
引きに耐えながら、波のタイミングを見ながら・・・、の筈が押し寄せてきた怒涛の様な波で、勝手に下段の岩場を乗り越えた（笑）

波が引くと岩場に横たわった魚体が見える、が、次の瞬間には打ち付ける波に揉まれ翻弄される
右奥のワンドへ誘導するまで何度も、引いた波の後で岩場に横たわった魚体を晒したり、波に揉まれたりを繰り返す
その間にボーグ氏は中段に降りて、上がってくる波をかわしながら、ネット・アシストのタイミングを図っている

時間は予想外に掛かったが、何とか打ち合わせ通りワンドへ誘導出来た
上段からロープで吊り下げてあったネットの柄（アシストのボーグ氏が波に持って行かれない命綱も兼ねている）をボーグ氏が掴み、ロープを下ろせと下から叫ぶが、ロープが途中の岩の出っ張りに引っ掛かって中々下ろせず慌てる
しかし、すったもんだの挙句に、ようやくネットイン

今度は上段から、塗装担当で今日は撮影係りの山本さんと二人で、ロープを手繰って引張り上げる
どうにか上段まで獲物を引張り上げて、三人がかりのランディングも無事終了

このポイントは、昨年５月尊いアングラーの命を飲み込んでいる
今日みたいに荒れた日の単独釣行で、恐らく取り込みの際に波に飲まれたものと想像する
今回は、念入りな作戦の打ち合わせと、最初から危険を見越し周到に準備した装備があったお陰のランディングであった





命綱を兼ねて釣り座の上段から垂らしてあった、ネットに結んだロープを手繰り上げた後の写真である



眼鏡の上から、例のタクティクス・グラスを掛けているから、笑おうにも上手く笑えない
笑えない理由は、もう一つあったのだ
苦労してランディングした１本は、でっぷり腹の張った良型ではあったが、サイズは夢のランカーには届いていない（後で検量した結果、正確には72ｃｍ、3.89ｋｇだった）
通常の僕ならこの１本で満足してしまうのだが、今回はランカーを獲ると言う執念に燃えていたのだ・・・

＜続く＞

♠TACKLE
ROD：G-Craft SEVEN-SENSE MOSS Monster HIRA plugging special
REEL：Daiwa CERTATE HYPER CUSTOM 4000H-PE
LINE：Daiwa SALTIGA SENSOR 35lbs
LEADER：MORRIS VARIVAS Shock Leader 35lbs
KNOTS：Bimini Twist+Albright Knot
LURE：Opcell Falcon128LB/Sky-pass AkaKin

←貴重な１本だが、サイズが・・・