英国を意味する「商人の国」とは、つまり「買い物客の国」を意味する。英国で家計消費支出は国内総生産(GDP)の約60%を占め、ここ数四半期の経済活動を支えてきた。だが、欧州連合(EU)から離脱する影響で勢いは衰えるかもしれない。
英経済は6月23日に国民投票が行われる前から既にバランスを欠いていた。他の項目が停滞する中、1-3月期の家計消費支出だけは前年同期比2.8%増加した。低い失業率とインフレ率、消費者の借り入れ意欲の高まりが後押しした。
信頼感も国民投票以前から揺らいでいた。国民投票後に市場調査会社GfKが行った調査では、消費者信頼感が21年ぶりの大幅な落ち込みを記録。個人の所得や経済全体の見通しなど、全ての項目が悪化した。
経済のメカニズムとしては逆風がもう強まり始めている。特に大きい要因の一つは、賃金とインフレの関係だ。英国の労働者は金融危機後の6年間にわたって実質賃金の低下を余儀なくされてきた。ここ数カ月の実質賃金上昇率は2%程度だが、インフレ率がほぼゼロに近いことが大きい。しかし、英ポンドの急落が足を引っ張ることになる。HSBCは来年のインフレ率が4%に上昇すると予想している。
消費拡大の裏では、万が一の場合に備えた貯蓄が減っている。家計貯蓄率は可処分所得の5.9%に低下し、金融危機前の水準近くへ戻った。英イングランド銀行(中央銀行)の統計によると、家計債務は可処分所得の1.3倍に上り、ピーク時の1.5倍とは行かないまでも、1980年代や90年代を大きく上回っている。こうした状況を踏まえると、先行きの不透明感が増すにつれて貯蓄率が再び上昇するかもしれない。
この影響を和らげる要素はいくつかある。家計消費支出は企業の設備投資より底堅い。リーマン・ショックで2009年半ばまでに消費が5%減少したが、EU離脱の影響はより分散的で、浅い。金融危機以外のリセッション(景気後退)局面ではそれほどの落ち込みはなかった。財政政策は予想されるほど緊縮されそうもなく、個人消費の追い風となりそうだ。今後の英国の財政を巡る議論で、投資家はこの点に注目すべきだ。
だがより大幅に消費が減少する恐れはある。EU離脱が欧州に新たな危機をもたらせば、英国の消費者も無関係ではいられまい。英経済はたった一つのエンジンで飛行している。エンストの危険性を抱えながら。
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