(ウォール・ストリート・ジャーナル)ギリシャのユーロ離脱懸念の払しょくに欧州首脳が務める中、同国で業
務展開する多くの企業が最悪の状況への準備を開始している。
企業幹部やアナリストなど大勢の見方は、ある点で一致している。ユーロ圏からのギリシャ離脱のインパクトを
予想するのは不可能ということだ。これこそ多国籍企業が複数の事柄を想定し、対応を検討する理由になってい
る。国境を越えた決済のまひ、ギリシャの内乱、欧州の共同通貨の分離も想定の対象となる。
各社が最も憂慮する問題の1つに現金回収がある。仮にギリシャが旧通貨に回帰する場合、そこに残るユーロが
より低価値のドラクマへと転換される、と恐れる企業は多い。これが起きた場合、ギリシャは資本統制を導入す
ることで国に現金を残す公算が大きいとの見方が大勢を占める。
世界3位のビールメーカー、オランダのハイネケン(HEIA.AE)は、ギリシャやユーロ圏全体から余剰資金を引き揚
げ、米ドルや英ポンドに転換している。こうした措置はオランダ企業の平常時の資金管理手順に沿ったものだが
、「その頻度や注力度は増している」と広報担当者は語った。「われわれは(ギリシャに)現金を残しすぎない
よう万全を期するためにエクスポージャーを限定している」。
英酒類大手ディアジオ(NYSE:DEO)(DGE.LN)や医薬品大手グラクソ・スミスクライン(NYSE:GSK)(GSK.LN)も同様の
予防策を講じている。
一方、最近になって海外や国内の銀行との信用枠を活用するギリシャ企業も出ており、同国がドラクマに回帰し
、資本統制を適用した場合、そのアクセスが途絶えることを恐れている、と当地で業務展開するある銀行の幹部
は語ったが、これに関与する企業や銀行を明らかにすることは控えた。
旅行・輸送業持株会社の独TUI(TUI1.XE)や英家電販売大手ディクソンズ・リテール(DXNS.LN)は、ギリシャでの
社会情勢悪化の際には顧客や資産の移動、保護を計画している企業に含まれる。場合によっては昨年の民主化運
動「アラブの春」中に北アフリカで行われ、試された方法に託すという。TUIの場合、必要が生じれば顧客をギリ
シャから他の地域に移す計画を持つ。
ドイツのコンサルティング会社ローランド・ベルガーは、法人顧客に対し、ギリシャがユーロを離脱する場合に
どの通貨、為替レートを使うか明記する条項を新契約に盛り込むなど予防措置を取るよう助言している。
ギリシャはもちろん、最近ではスペインでも企業がサービスや製品について前払い比率の引き上げを強調する事
例が増えており、これはしばしば50%にのぼるほか、支払期間を30日から15日に短縮する例も見られる。またこ
れらの国では営業縮小の動きもある。
ギリシャがユーロ圏を離脱すれば「完全な混乱になるため、人々はこれを過小評価すべきではない」と英法律事
務所リンクレーターズの弁護士、ベネディクト・ジェイムス氏は述べた。「この分野の作業はここ数週間で急増
している」。新しい業務の大半は業務契約に集中しているほか、ギリシャがドラクマに戻る場合にどの契約を打
ちきることができるかも焦点になっている。
今週に入って不安の兆しがもう1つ明るみに出た。輸出企業の顧客が債務不履行となった場合の支払いを保証す
る輸出取引信用保険では世界大手2社である、ドイツの保険大手アリアンツ(ALV.XE)傘下のユーラーヘルメス(EL
E.FR)とフランスの金融大手ナティクシス(KN.FR)傘下の信用保険会社コファスは、ギリシャ向け輸出保険の新規
引受を停止すると明らかにした。当地の輸入業者から代金を回収できないリスクが増加しているためだという。
こうした保険のレートは急騰した、とユーラーヘルメスの広報担当は述べたものの、両社とも具体的な数値は示
していない。6月17日のギリシャ議会再選挙をめぐる影響や不透明感をふまえると「もはや値決めできない」と担
当者は述べた。
フランスのスーパーマーケット大手カルフール(CA.FR)は、ギリシャの小売網について店舗数減少と店舗大型化
を通じて当地での売り上げ減少に対応している。また、ギリシャの消費者がさいふのひもを締める中、格安なス
トアブランド品の在庫を増やす一方、ネスレ(NESN.VX)、ダノン(BN.FR)、プロクター・アンド・ギャンブル(P&
G)(NYSE:PG)など大手ブランドの食品・日用品を減らしている。
(続く)
レーザー加工機の世界的大手メーカー、ドイツのトルンプは、危機の深刻化によって同社の欧州売り上げが急減
すれば、08-09年の世界的な経済危機時に採用した措置を再び活用する準備があると述べた。
「残念ながら、これはさほど遠い過去のことではない」とドイツメーカーのハラルド・ボルカー最高財務責任者
(CFO)は語った。「しかし、これはわれわれが比較的迅速にこれを導入できるという意味でもある」。
こうした措置にはサプライヤーとより柔軟な決済・受け渡し方式に移行することや、従業員に従来どおりの給与
を払いつつ就業時間を減らす制度も含まれる。従業員は、
(その後の)需要回復に際して残業を通じてこうした時間分を穴埋めする。
前回の危機を受けて、トルンプは1億ユーロ(1億2400万ドル)強の経費削減、準備金積み増し、3年信用枠の確
保を通じて必要に応じて売り上げ50%減の状況にまで対応できるようにした、とボルカー氏は述べた。
ギリシャが最終的にユーロ圏にとどまる場合でも、当地で業務展開する企業、銀行の撤退がすでに打撃を受けた
経済に拍車をかけることは必至だ。ギリシャの1-3月期成長率はマイナス6.2%だった。
金融関係者らは、5月の選挙がもたらした不透明感はギリシャの事業活動をほぼまひさせており、企業は状況が
一段落するまでは投資を先送りするほか、資金は同国を離れており、経済に打撃を及ぼしている。
「現在は深刻な流動性スクイーズが起きている」と投資銀行Exotixのギリシャ株ブローカー、ジョージ・ゾイス
氏は述べた。
5月6日の選挙では、ギリシャへの国際救済策の条件に従わないことを表明した左翼政党に支持が集まったため、
その後同国は政府にとって待望の資金をもたらし、同国への海外投資を呼び込む見込みの大規模な民営化制度を
延期した。
こうした不吉な兆候に脅かされない企業もあるようだ。最近のローランド・ベルガーの聞き取り調査では、対象
となったドイツ企業の50%がギリシャのユーロ離脱の公算は大きいと答えたものの、対策を講じていると答えた
企業は20%にとどまった。
他方では、ユーロ圏の幅広い分裂の可能性を検討している企業もある。航空機製造エアバスの親会社でフランス
とドイツに拠点を置くEADS(EAD.FR)は、国家通貨への回帰は業務進出やサプライヤーの選定、賃金設定などあら
ゆる項目の見直しを余儀なくするものだと述べた。
「昔に戻ればドイツの通貨は他の通貨よりも強くなる見込みであるため、われわれの業務展開面でも長期的な課
題をもたらすことになろう」とEADSの広報担当者は語った。国ごとに異なる「賃金水準をめぐりグループ内で緊
張が高まる潜在性がある」。
EADSは31日、社内に銀行を設けることで自社や顧客の信用枠へのアクセスを保護することを検討していると明ら
かにした。ユーロ圏債務危機の中で、企業にとって社内銀行を擁することは欧州中央銀行(ECB)から低金利の資
金を得られるというメリットもある。
こうした混乱に好機の潜在性を見いだす企業もある。ディクソンズのセバスチャン・ジェイムス最高経営責任者
(CEO)は、ギリシャにおいて危機的状況を迎えれば、英家電小売大手にとって脆弱(ぜいじゃく)な競合から市
場シェアを奪う機会になる可能性があると述べている。
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