■今回のまとめ
1)過去の消費税引き上げでは、実施直後に悪影響が出ていない。
2)新たに政局混乱リスクが浮上した。
3)政局リスクが加わって、短期投資が中心になる可能性が高くなった。
昨日(26日)衆院本会議では、賛成363票、反対票96と賛成多数で消費税増税法案が可決されました。2014年4月に現行の5%から8%、2015年10月に8%から10%に消費税が引き上げられる第一歩となりました。
一方で、当初の見込みを上回る57人が法案に反対したことにより、民主党は事実上の分裂状態になりました。
消費税増税法案の材料は、「消費税引き上げが景気に与える影響」と「政局混乱リスク」の2つが気になってくると考えられます。
◆消費税引き上げが景気に与える影響
過去に消費税が引き上げられたのは、1989年4月に税率3%で施行したのがスタートで、1997年4月に税率3%から5%に引き上げられました。
そこで、当時の日経平均をチャートでチェックしました。
最初に消費税が導入されたのが1989年ですが、当時はバブル景気の最終局面でした。日経平均は史上最高値38957円まで右肩上がりの上昇が続いていた最中ですので、株価に悪影響を与えたということはないようです。
次が1997年ですが、反対に右肩下がりの途中で起きた出来事で、消費税の引き上げが影響を与えた可能性はあります。しかしながら、消費税引き上げ直後は株価が急上昇しています。
ただし、1997年7月にタイバーツ急落からアジア通貨危機が起きて、タイ、インドネシア、韓国がIMFから融資を受けるという世界景気に影響を与えることが起きています。加えて国内では、山一證券や三洋証券、北海道拓殖銀行の破綻に象徴される不良債権処理と金融不安という社会情勢でした。
過去2回の消費税引き上げからわかったことは、とも引き上げ直後に株価が上昇していることもあり、消費税が上がったからといって株価がすぐに反応するということではないようです。やはり消費税だけの問題ではなく、景気や海外情勢などとあわせて考えないといけないということになります。
また、消費税引き上げによって景気が減速する可能性は高いものの、「引き上げなし」となれば、日本の財政悪化が売り材料になる可能性はとても高いといえます。景気と財政の両面で考えないといけません。
今回の消費税引き上げについては、実施は2014年から2015年ですので、少なくともあと2年弱の猶予があります。したがって、景気に与える影響よりも財政再建が注目される可能性があり、「8%~10%の税率では足らない」「実施が遅い」といった財政面のネガティブ材料になる可能性も考えられます。
なお、過去の消費税引き上げのときに憶えているのが「駆け込み需要」というテーマです。住宅や自動車などの高額品は消費税率の影響が大きく、引き上げ実施前に駆け込み需要が発生して一時的に売り上げが上がるという思惑から、消費税引き上げ直前に関連銘柄が短期的に人気になることがありました。
◆政局混乱リスクの影響
消費税増税法案の日程では、8月上旬に参院で採決される方向で、成立後が焦点になっています。成立後の8月上旬に解散、9月中旬にかけて衆院選が行われるといった見通しや、自民・公明党が内閣不信任案を提出するという可能性も指摘されています。
消費税増税法案でしばらくは政局が材料になる可能性が出てきたといえますが、日本の政局のゴタゴタは慢性的なことなので、株式市場を大きく動かすほどの材料にはならないかも知れません。
慢性的な政局混乱を表すように、民主党が政権を握ってから3年足らずに3人の総理大臣が出ています。そこで、歴代総理と日経平均の比較をすると以下のようになりました。
・民主党の歴代総理
1.鳩山由紀夫 2009年9月16日- 2010年6月8日
2.菅直人 2010年6月 8日- 2011年9月2日
3.野田佳彦 2011年9月 2日- 現在
総理交代後の3回とも、すべて日経平均が下がっています。政局混乱後に新政権となれば期待感で株価が上がるということも考えられるのですが、すべて下がっていることは投資家が政治に期待していないことを示しているのかもしれません。
ただし、直接の悪材料ではなくとも不透明要因が増えたことを意味していますので、株価に与える影響は「良くて中立、悪いとマイナス」と「プラスがほとんどない」と考えることができます。
現在の株式市場は不透明要因が多いために、全体を見て売買するというよりも、中小型の材料株中心のゲリラ戦となっています。ユーロの財政問題、世界景気の後退懸念に加えて、国内の政局リスクが出てきたことで「株を買って持つ」という投資がやりにくくなり、ますます短期的な投資が中心になる可能性が高まったといえそうです。
レポート担当:ケンミレ株式情報 市原 義明