私の図書館

主に読んだ本の感想。日常のできごと。

山本一力の梅咲きぬ

2009年01月31日 15時19分07秒 | 歴史/時代物

いやこの本よかった。ミステリーなどにはない、落ち着いたよさというか奥深さというか慎ましさというか。誰かが殺されたとか、話にトリックがあるとか、泣ける話とかいうのではないのだが、山本一力の本には何故かひきつけられる魅力がある。

この話構成的には前回書いた"だいこん"とにている。だいこんでは一膳飯屋を起こしたつばきが子供のころから店を成して、深川に新たに店を興すところまでを書いた主人公の回想記のようになっている。この本は深川の老舗料亭江戸屋の女将の回想記のようになっているが、だいこんより、梅咲きぬのほうが大分によかった。断然こちらの方がお薦めである。

主人公の玉枝は母親について江戸屋の4代目女将になるべく子供のころからしつけられる。5さいになったころから踊りのお師匠さんのところにも弟子入りし、そのお師匠さんからも将来人を使う立場の人間にあるべき心構えを身をもって説かれる。楽をすることをこどものころから覚えてはいけないとか、苦労は買ってでもしろとか、人をうらやむのはいやしいとか、目上のひとからの貰い物はありがたく受け取れとか、泣言をいうなとか、分が出過ぎた振る舞いは了見ちがいとか、そういうことを玉枝が身を持ってひとつひとつ学んでいく育っていく様がよいエピソードになってかかれている。当たり前のようなことだが、こういうことを学んで大きくなっていいく玉枝を読んでいるとこちらも微笑ましくうらやましくもなってくる。

ちなみに、この本の舞台もやはり深川である、でも時代は1790年以降、元禄の華やかさも昔のこととなったころ。梅咲きぬでも深川と富岡八幡、紀伊国屋が寄進した神輿などがかかれているので、これを読む前に黄表紙掛取り張をさきによむと深川の初期とくに紀伊国屋との関わりがわかるとおもう。

山本一力の辰巳八景

2009年01月25日 12時15分48秒 | 歴史/時代物

最近山本一力の本にはまっているので、またまたで申し訳ないがお付き合いねがいたい。
この前ちらりと話したがこの作者の本で"いっぽん桜"というのを読んだ、短編集でとてもよかったのだが、私個人的には辰巳八景のほうがよいと思った。同じく短編集なのだが、8作入っていて、どれもが心に残るいい作品だった。

やっぱり内容は江戸に住む人々の生活、風景、文化、心意気などを描いていて、主人公もせんべい屋の娘、大店に行儀見習に上がった大工の娘、仲町の医者、鳶のおかみさん、辰巳芸者、女履物職人などなど。それに伴い、それぞれの生業、町などに関わるゆわれがそれとなくおり混ざっていて話をさらに深いものにしている。例えばろうそく屋の主人のはなしでは、いかに火持ちのよさがいいロウソクをつくるかが書かれており、良品を納められるだけの店ゆえに赤穂浪士切腹のさいにその店のロウソクが使われることとなる。その時の主人の心境が実によくかかれている。

ひとつひとつが実に短い話にもかかわらず思わずため息がでる。私が読んだ山本一力の話ではこの本がまずピカイチだと思う。文庫本で590円とは全くお買い得。ご祝儀をつけてもいいくらいである。

本屋大賞の候補作が発表された。以下のとうり。
悼む人』天童荒太(文藝春秋) / 『告白』湊かなえ(双葉社)
『出星前夜』飯嶋和一(小学館) / 『ジョーカー・ゲーム』柳広司 (角川書店)
『新世界より』貴志祐介(講談社) / 『テンペスト』池上永一(角川書店)
『のぼうの城』和田竜 (小学館) / 『ボックス!』百田尚樹(太田出版)
『モダンタイムス』伊坂幸太郎(講談社) / 『流星の絆』東野圭吾(講談社)

ちなみに、告白は私も持っていてまだ、読んでいないのだが、今から楽しみ。

山本一力のだいこん

2009年01月20日 11時56分44秒 | 歴史/時代物

だいこんという題のドラマがあったような気もするのだけれど、これが原作なのか定かではない。
それでも、ドラマにしたらうけるであろうなと思わせる出来の本だった。

主人公のつばきとその家族は一膳飯屋をやっている江戸に住む家族である。
飯炊きが上手いということで母親が飯屋をやらせようとおもいたち、19の年で女将になる。長編小説なのだけれど、最初の半分は、通い大工であるつばきの父親とそば屋で働く母親の話から始まる。 ばくちで負け貧乏になっても一家が一緒に長屋で暮らしていたころから、つばきが26になって新たに深川に新しいい店を開くところまでのこの一家とつばきの話である。基本的には26のつばきが回想しながら話がすすめられている。 これを読むとつばきと喜怒哀楽をともにしたような気になる。

でき過ぎのサクセスストーリーかなと思われる部分もあるけれど、話がいいのでよしとする。

文庫本ででているが916円とやや高め。ちょっと二の足を踏む。
難しい、ちょっと微妙なおすすめ本。 まずは古本屋をあたってみて。

山本一力の深川黄表紙掛取り帖

2009年01月18日 06時30分39秒 | 歴史/時代物
今年初のヒットは"あかね雲"で直木賞をとった山本一力の江戸を舞台にした短編集。おもしろかった。今までこの作者の本は読んだことがなく、今回偶然図書館で手にしたものだってけれど、大変おもしろかった。

江戸を舞台にした歴史ものに多い捕物の話ではなく、深川に住んでいる市井の人々の話。殺人もなければ、同心も岡引もいない。

主人公の4人はそれぞれ定斎売り、絵師、文師、飾り行灯師として暮しているが、その一方で4人集まって、今でいうイベント企画会社のようなこともしている。例えば、雑穀問屋の大店丹後屋の誤って450俵も余分に大豆を仕入れてしまった。困った丹後屋はこの4人に余った大豆をどうやってさばくか考えてほしいと頼む。まーこのあといわくつきの大豆をめぐって2転3転とするのだが、深川に住む人々が好む粋な終わり方になっている。粋といえば、この後の話に出てくる紀伊国屋文左衛門をめぐる一件では、深川の人々の喜ばれるやり方で成り上がり者の紀伊国屋の鼻をあかしたりもする。

この本があまりにおもしろかったので、さらにもう1冊山本一力の"いっぽん桜"というのを借りた。

これも短編集だけれど、前作とちがいまったく関連していない。それでもやっぱりテーマはおなじで、登場人物は漁師だったり、料理屋の娘だったり、退職になった大店の番頭だったり、あさがお職人だったりする。ここでも、紀伊国屋がちらりと登場している。どれも、その人々の暮しがいきいきと書かれていて大変おもしろかった。