昭和三丁目の真空管ラジオ カフェ

昭和30年代の真空管ラジオを紹介。
アンティークなラジオを中心とした、自由でお洒落な、なんちゃってワールド♪

東京芝浦電気(TOSHIBA) かなりやD 5MB-56

2007-05-04 | 東芝 かなりやシリーズ
 1954年頃、東芝は、ラジオに鳥名の愛称をつけ、高級大型機種を「めじろ・かっこう」中型は「うぐいす」卓上小型は「かなりや」と命名、シリーズ化して次々に新型機の発売を始めた。最初に発売された かなりやAからFまで6機種は、オークションでも人気は高く、相場も2万円以上に高騰することがある。

          

 当初発売されたかなりやシリーズは、 かなりやAからFまで6機種だが、当時のパンフレットを見ると、AおよびB型の記載は無く、この2機種の発売期間は短かったと推察される。かなりやAはトランス付で同調バリコンに減速機構もあるが、かなりやBはトランスレスであり、減速機構も無く普及型という印象だ。つまりA型の構造設計にB型のトランスレス回路を組み合わせたスタイルが、今回ご紹介する かなりやDである。
また かなりやシリーズが発売される以前に5LA-28という型番で、後のかなりやC、かなりやEのプロトタイプになる特長あるデザインの機種が発売されている。

          
       【左上】かなりやA 【左下】5LA-28 【右上】かなりやD 【右下】かなりやF

かなりやA(トランス付き、減速機構付き)+かなりやBトランスレス、減速機構なし)÷2=かなりやDトランスレス、減速機構付き
5LA-28型⇒ かなりやC(トランスレス、減速機構なし)⇒ かなりやE(キャリー型)
かなりやBトランスレス、減速機構なし)⇒ かなりやF(トランスレス、減速機構なし)

このように黎明期の かなりやシリーズは、設計思想を模索する一方、機種ごとに独自性のある製品を送り出していたと言える。

          

 インターネットオークションを通じて「かなりや」の捕獲にいそしむコレクターの方々は、途方も無い金額でも入札される。このところかなりやコレクターなら絶対手に入れたい機種を何度もとり逃がしていたが、今回はいつも入札で涙することになる競合コレクターの方から高額入札がなく、あっさり落札できた。
 自由主義経済の原則として、可処分所得の多い方の手元に渡ることになるが、いつも高額入札される方がすでにゲットされた後日、適正価格(居酒屋1回、キャバクラ1セット分です♪←しつこい店長!)の出品があるまで待つ作戦がベストと悟った。

 かなりやコレクターの皆様、「もしこのブログを読んでらっしゃったら、お手柔らかにお願いしま~す♪」

          
 
 かなりやDは、かなりやAの流れをくむデザインだが、障子の格子を思わせるスピーカー・グリルとサランネットの組み合わせはいただけない・・・。かなりやAの「無骨な潔さ」をどうはき違えたのか、ボクの本職であるインダストリアル・デザインの視点から見ると、残念ながらNG、不合格。しいてフォローするなら、当時はコンペの概念が浸透していなかったため、契約デザイナーはクライアントの要求に従い、和洋折衷、ジャパネスクのイメージを狙ったのかも知れない。ダークグリーンのボディとゴールドのサランネット・銘板塗装のコントラストもイマイチしっくりこない。

          

 正面向かって右上の白い箱は、後付けされたパッシブ・タイプの短波受信用コンバーターである。昭和29年(’54年)NSB日本短波放送(現在のラジオNIKKEI)の開局にともない、高価なオールウェーブ・ラジオに代わって短波の普及を担ったのが短波コンバータ/NSBチューナーだった。 短波コンバータにはアンテナ端子に出力を接続して使用する真空管タイプと、バリコンに短波用コイルを並列に接続して使用する簡単なパッシブ・タイプがあり、後者が安価なためよく使われたようだ。

 メーカー:東京芝浦電気(TOSHIBA)『かなりやD 5MB-56』

 サイズ : 高さ(約15cm)×幅(約32cm)×奥行き(約13cm)

 受信周波数 : 中波専用 530KC~1650KC

 使用真空管 :12BE6(周波数変換)、12BD6(中間周波数増幅)、12AV6(検波&低周波増幅)、35C5(電力増幅)、25MK15(整流)

          

 オークションで落札後、届いた段ボールを開梱しまず外観からチェックを開始した。
キャビネット、裏蓋、フロントパネルとサランネットのいずれも経年による汚れはあるものの酷いダメージは無く、50年前のラジオとしては比較的キレイだ。
 裏蓋を開けると、キャビネット内にはクモの巣、シャーシやバリコンには50年間の埃が堆積している。真空管はすべてマツダ製、この時期の機種は現在では手に入りにくく流通価格の高い整流管25MK-15が使われているため、状態が心配です。

          

 以前格安で落札したピアノラジオ 5BA-50では、正規の35C5(電力増幅)、25M-K15(整流)が抜かれ、代わりにヒーターの断線した30A5、35W4が差し込まれ、修復に苦労した苦い経験がある。しかし今回の かなりやDは、コレクターの手を経ていない初出し品であり、すべてマツダブランドの純正品が使われ、ヒーター切れも無く一安心。

          

 キャビネット表のボリュームつまみ、周波数同調つまみ、周波数表示円盤プレートを抜き取り、キャビネット裏側の止めネジ2本を外すと、スピーカーと一体構造になったシャーシーを簡単に取り出すことができる。50年の間に堆積した埃を刷毛とOA用エアクリーナーで吹き飛ばし、軽く清掃。

          
          【写真左】かなりやA      【写真右】かなりやD
 写真の通り、以前にもご紹介した かなりやA(写真左)と同型のシャーシーが使われている。かなりやDでは、かなりやAにて採用されていた黒いオートトランスが無くなり、バリコン上にフェライトバーアンテナが取り付けられている。

          
          左から12BE6 - 25MK-15 - 12BD6 - 12AV6 - 35C5
 清掃したシャーシー上には、マツダ製のmT管とマツダと刻印されたIFT、バリコン等が整然と並ぶ。かなりやAではシャーシー中央に電源回路を配置したため、通常のトランスレス式と異なり写真中央のIFT左隣に整流管が配置されたなごりから、かなりやDの整流管25MK-15も同じ位置の変則レイアウトとなっている。

          

 シャーシー裏側は、埃も少なく意外とキレイだ。目視点検のみで通電テストに移ることとした。毎度の事ながら緊張の走る一瞬だ・・・  意を決してスイッチON!!パイロットランプ(ネオン管)と真空管のヒータが点灯し、スピーカーからブゥ~ンという若干のハム音が聞こえる。周波数同調つまみを回すと、隣町のNHK中継局(1kW)は受信できず、市内にある民放中継局1局のみ受信できた。
 ボリュームのガリ音が酷い。とり急ぎ500kΩボリュームとオイルコンデンサを全品交換してみた。その中に1個、「0.1MF」と書かれたペーパーコンデンサが配線されており、どうしたものか困惑してしまう。(^。^;) ハテハテ? 回路図を見ると0.1μFのコンデンサのはずだが・・・完全な誤植だ。記念写真を写し、0.1μFのフィルムコンデンサに交換して一件落着。
 しかしこの誤植事件、実は大いなる勘違いでして「昔のコンデンサーはμFではなく、MFと記載されていますよ。誤植ではありません。マイクロのMです。回路図も同じです。」という、ご指摘をいただいた。いやはや、思い込みとは怖いもので、知ったかぶりして、無知を晒す赤面&切腹ものの赤っ恥ですが、これも「なんちゃってレストア・ワールド」ならではの珍事として笑ってやってください。

          

 新品の500kΩボリュームは、案の定、シャフトが短く延長が必要だ。後でオリジナルのボリュームを分解・清掃し、再使用できないか検討することにして、とり急ぎ回路の修復に注力する。まず真空管を抜いてシャーシー上をアルコールとティッシュ、綿棒を使い丁寧に拭き掃除した。全部の真空管のピン足をヤスリで磨き、ストレーナーで曲がりの補正を行ない、真空管ソケットもラジオペンチで締めた。硬化した電源コードも交換しておいた。
シャーシの内部もこれくらいスカスカだと、不器用なボクでも部品の交換が楽だ。

          

 オリジナルのボリュームのシャフトと新品ボリュームも金切鋸を使って各々切断し、内径6mmのアルミパイプを介して延長した。アルミパイプをカシメようとしてセンター出しに何度か失敗。結局、金属用強力接着剤を使ったが、いつまでもつことやら・・・。ボール盤で1mm程度の穴を開け、ピンを差し込めば完璧だが、しばらくこのまま様子を見よう。

          

 夕日の落ちた午後7時、配線も完了し、再度、電源を入れると、ボリュームのガリ音も消え、ネオン管がやさしく点灯する。しばらくすると空電ノイズが聞こえ始め、チューニング・ツマミを回すと地元の民放、NHK中継局に加え、福岡のKBCラジオとRKBラジオ、名古屋のCBCラジオのプロ野球中継が聞こえてきた♪ レストア以前より格段に性能は向上している。ただ1000kHz以下の感度がイマイチ芳しくないため、調整すればもっと高感度な性能も期待できそうだ。

          

 仕上げにいつもご指導いただいている修復の達人様から譲り受けた絶縁抵抗計(サンワ PDM-506S)で、電源コードと今回のフローティングアースのトランスレス・ラジオは電源コードとシャーシ間の絶縁抵抗を測定した。使い方は簡単、絶縁測定物をワニ口で絶縁抵抗計に接続して、測定ボタンを押すだけです。測定中はDC500Vが掛かるので、感電に注意です。ちなみにPSE法では、絶縁は1MΩ以上で合格ですが、通常は10MΩ以上の値であることを確認します。

          

 洗浄・研磨しピカピカに輝くキャビネットに収め、あらためて電源スイッチをオン。左上のマツダマークがやさしく光る。同じ 5球スーパーかなりやシリーズでも、回路構成や使用されている部品によって音質も微妙に異なるが、かなりやDは中音域にボリューム感のある柔らかくしっとりした音が流れてくる。
しっくりこないと感じていたダークグリーンのボディとゴールドのサランネット・銘板塗装のコントラストや独自のフォルムも、昭和レトロの雰囲気を醸し出し、これはこれでアリかな?と思えてきた。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
これラジオですか? (くらげ)
2007-01-03 20:07:27
この時代の製品っておしゃれですね。
もちろん十分聞けるんですよね?
素敵です。
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昭和30年頃のラジオです (店長)
2007-01-03 21:20:12
くらげさん
いらっしゃいませ♪よくおいでくださいました。
このラジオは1955年頃のラジオなんです。このラジオカフェでは1955~69年頃までに作られたラジオ(ラヂオ?)を分解して修復を試みたり、新品のように磨いて眺めたり、壊してしまったりしながら、その時代背景や人々の暮らしぶりに思いを馳せた記事をアップしています。
ただ店長(ボク)の思いつきのまま、脱線しちゃったりしますので、気軽に書き込んでいただければ幸いです。
女性のお客様(読者)も結構いらっしゃいますよん。
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余計なことかもしれませんが (とおりすがり)
2007-05-02 12:50:32
昔のコンデンサーはμFではなく、MFと記載されていますよ。誤植ではありません。マイクロのMです。回路図も同じです。恥ずかしいので、修正した方がいいと思いますが。
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誤植 (店長)
2007-05-02 15:18:07
とおりすがり様
ご指摘ありがとうございます。
まったく「無知」って怖いですね f(^^;)
ここは「なんちゃってレストア・ワールド」ですから、知ったかぶりして、無知を晒すのも一興かと。
でも恥ずかしいので訂正しておきます!
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