墨汁日記

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徒然草 第六十九段

2005-09-29 21:26:57 | 徒然草
 書写の上人は、法華読誦の功積りて、六根浄にかなへる人なりけり。旅の仮屋に立ち入られけるに、豆の殻を焚きて豆を煮ける音のつぶつぶと鳴るを聞き給ひければ、「疎からぬ己れらしも、恨めしく、我をば煮て、辛き目を見するものかな」と言ひけり。焚かるる豆殻のばらばらと鳴る音は、「我が心よりすることかは。焼かるるはいかばかり堪へ難けれども、力なき事なり。かくな恨み給ひそ」とぞ聞こえる。

<口語訳>
 書写山円教寺の性空上人は、法華読誦(現在でも読まれているありがたいお経、法華経 の完全理解)の功が積って、六根浄かなえる人(とりあえず悟りを開いた人とでも解釈して下さい)でした。旅の仮屋に立ち入られましたら、豆のカラを炊いて豆を煮ている音がつぶつぶと鳴るのを聞かれましたらば、「疎くないおのれらすらも、恨めしくも、我を煮て、辛き目を見せるものなのか」と言いました。炊かれる豆ガラのばらばらと鳴る音は、「我が心よりすることかよ。焼かれるのはこればかりも堪え難いけれども、力ない事で。ぞんなに恨み給うな」とか聞こえました。

<意訳>
 書写の上人という、すごい僧は、すごそうなだけでなくホントにすごかった。
 法華経を隅から隅まで読みつくし、ついには六根浄の悟りを開いて第六感までピカピカであった。
 そんな人だから、並の人間には見えないものや、人には聞こえないモノまで聞こえるのは、ごく普通で当たり前な事であったのである。
 ある日、旅の宿で食事を振る舞われた。豆の煮たのだ。
 宿の主人は、豆をむいたカラを火にくべて、豆をいろりで煮てくれた。
 鍋の中では、豆がつぶつぶと煮えている。
「おいおい。同じ豆だったはずの、お前ら豆のカスが、俺ら豆を煮るのかい。あんまりじゃないか」
 鍋の下でばらばらと燃やされる豆カスが答える。
「俺らが、マジでそんな事をするものか。焼かれる事などたいした事もないが、俺らカスだからたいした力もないんだ。火に焼かれているだけなんだよ」
 上人にはそう聞こえたらしい。

<感想>
 「六根浄(ろくこんじょう)」とはなにか? まず「六根」とはなんだろう。「六根」は第六感まで含めた、人間の感受性の事である。視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚。プラス心の感性が「六根」である。
 しかしだ。人の感覚器など、折れたアンテナ。あるいは指紋と手あかにまみれたレンズなのである。
 その程度に人の「六根」は感度が悪い。空を見上げれば、視界のハシにミジンコのごとき目ん玉のゴミが浮遊し、道を少し歩けば鼻の穴は煤塵で真っ黒。耳の中は耳あかでびっしりで、触覚など鍛える気がなけりゃ不確かなままで、舌には苔が生えている。心はフジテレビに占拠され、サンマでスマップだ。
 そんなモノを、浄化しましょうというのが「六根浄」なのだ。
 常に、自分の感覚を疑い、正しい情報を集めようという心が「六根浄」なのであると俺は想像する。たぶん正解ではない。ただ、「六根浄」は、「第六感まで浄化」とほぼ同義であると理解して頂いても、ほぼ間違いないと推奨する。ちなみに「六根浄」は「どっこいしょ」の語源であると言われている。
 で、そこまで感覚を浄化すると、見えないものや聞こえないはずのモノまで知覚できるようになる。
 ちなみに、俺の勤めるパン屋の店長は、イースト菌のささやきや、パン生地のナイショ話が聞こえる。俺ですら、飲めば小人さん達とお話が出来し、ピンクの象も、大名行列も見える。極めれば、豆の悲鳴ぐらいは即座に聞こえるはずだ。
 ただ、自分への悪口が聞こえるようなら病院へ行った方がいいな。誰も、あんたなんんか気にもとめてないし、まして酒がまずくなるような悪口など好き好んでは言わない。
 リンク: ♪おみそしるパーティー♪:「徒然草」 第六十九段 豆殻で豆を煮る. 
 この方の徒然草の解釈は面白い。なぜ「おいしんぼ」。とツッコミ心をさそう出だしや、流れが見事で、俺としても見習う所が多々にある。というか、ぜひ見習いなさい。なにが「俺としても」だ。読み物として完成している、こういうのを見ると真似したくなるが、無理だからやんない。でも楽しい。


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
いつも文中で紹介してくださって、ありがとうござ... (ほにゃらか)
2005-09-30 11:38:43
いつも文中で紹介してくださって、ありがとうございます。
こんなに褒めて頂いて、とても嬉しいです。
でも、毎回文中で紹介なさるのはご面倒でしょうから、
トラックバックだけ送ってくださってかまいませんですよ。
protozoaさんからのトラバは大歓迎です。
どうぞお気軽に(^^)v
そしたら私も、気軽にトラをお返しできますし、ね♪
ではでは~。
返信する
 お忙しいでしょうに、いつもコメントありがとう... (protozoa)
2005-10-01 05:28:26
 お忙しいでしょうに、いつもコメントありがとうございます。わかりました、ぜひトラさせていただきます。「おみそしる」で「徒然」のある時には、またコメントでも書きます。完訳めざして頑張りましょう。
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