死神の語る事が真実なら、兄が死んだのは殺人犯のせいだ。
お母さんの病気も、兄の死が原因であるなら、お母さんを病気にしたのは兄を殺したという殺人犯のせいだろう。
私たち一家を不幸にし、兄を殺し母を狂わせたのは、幼稚園に侵入したという殺人犯のせいだと思える。ただし、死神の言う事が本当なら。
「兄を、刺した、という、兄を殺した人が、兄を殺して母を狂わせた」
「そうだな。そいつが憎いか?」
それが本当の事なら殺人犯を憎むべきだろう。だけど、私は死神の言う事が本当なのか解らない。さらに会ったこともない兄が殺されたという事にまだ実感が持てていない。それに、顔も名前も知らない殺人犯になんの憎しみも抱けっこない。
「復讐したいと思わないか?」
本当に兄が殺されたなら、私は殺人犯に復讐するべきなのだろうか? 少なくても、そう思うべきだろう。
だけども、私は誰からも何も知らされていない。死神の言う事も信用できない。会った事もない兄や、見たこともない殺人犯にどう感情をはたらかせればいいのか私は解らない。
「わからない」
死神はうなずいて言う。
「それでは、あんたに復讐の権利があるとしてみよう。誰に復讐したい?」
復讐?
お母さんにだろうか?
殺人犯にだろうか?
「苦しんできただろ。あんたは十分に苦しみ耐えてきたよ。誰によって苦しめられてきた?」
「お母さんかな」
「お母さんに復讐したいか?」
「わかんない。する気はない」
「では、お兄さんを殺した奴に復讐したくないか?」
「わかんない。そんな人は今日はじめて聞いた。なんとも思えない」
「君がお母さんに階段から突き落とされたのは何故か?
お母さんの頭がおかしかったからだ。
何故、お母さんの頭はおかしくなったのか?
あんたのお兄さんが殺されたからだ。
何故、お兄さんは殺されたのか?
これは、まったくの偶然。たまたま『殺人鬼』の目の前にいたからだ」
たまたま?
「あの事件の時に殺人鬼は無差別に園児を襲った。お兄さんはたまたま殺されやすい場所にいただけさ。その証拠に同じ部屋に居たのに無傷だった園児は過半数だ」
死神はなにが言いたいのだ?
「たまたまお兄さんは殺されやすい場所に座っていたから殺されてしまった。じゃぁ、なんでそんな所にお兄さんは座っていたんだろう。
お父さんが昇進して引っ越したからだよな。
お父さんが引っ越しを決めさえしなければ、お兄さんがそこに居る事はなかったはずだ。
お父さんが昇進に目がくらんで引っ越しさえしなければ、お兄さんが殺される事はなかった。お父さんが、お母さんの精神の不安定さをきちんと理解して引っ越しを躊躇したならお兄さんが殺される事や、あんたが階段から突き落とされる事もなかったかもしれない。
そして。そもそも、お兄さんが生まれた事がすでに間違いかもしれないのだ。お兄さんさえ存在していなければ、確実に殺される事などなかった。
そして、お母さんの精神も安泰であんたが階段から突き落とされる事もなかった。
と言うより、そもそもお父さんとお母さんが出会ったのが不幸の始まりかもしれない。2人が出会わずに結婚さえしなければ何も問題はなかっただろう」
ちょっと待って!
「お父さんとお母さんが結婚していなきゃ、私がいないじゃない」
「そうだよ。あんたさえいなければ、あんたは苦しむ事もなかった!」
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます