消え入りたい。
この今いるところから逃亡したい気分で、穴があったら身を潜めたい。
やってしまったという感情で身体はいっぱいになって、目はしぜんと下を向く。
自分の座るシートを見つめながら、いっそのことなら自分の体がペラペラになって、このシートとシートの隙間に潜めたならどんなにか幸せだろうと考える。そして、いたたまれないというのは、きっとこんな気持ちのことを言うのだろうなとも考える。
もういたたまれようもないほどにいたたまれない気分にドップリつかったら、いたたまれなさも少し落ち着いたので、少し心に余裕を取り戻して死神の顔に視線を移したら、死神もいたたまれないような無表情をしていた。
さすがの死神も、人がたくさん乗っている中央線の車内で『子供達の復讐』などと叫んでいた自分を反省をしたのだろう。
それとも、もしかしたら、こんな公衆の面前で中学生に叱られた事を死神は根にもっているのかもしれない。
怒らせちゃったかな?
私達2人が沈黙しているうちに、乗客達は見て見ぬフリから、まったく見なくなった。人のうわさも75秒と言うのは本当らしい。
電車が『三鷹駅』に到着した。
車内には、それなりの人の入れ替えがおこる。私の左に座っていたおじさんはドアが開くとスッと立ち上がりホームをめざした。
私の隣があいている。
「死神ここに座んな」
「!?」
「はやくはやく。座られちゃうよ!」
「うん。わかった」
大人のくせに、小学校の男子みたいな返事なのでおかしい。死神はドサッと私の隣に腰をおろした。
「死神、怒ってる?」
「なんで俺が?」
別に怒っていないらしい。よかった。
なら、言うべき事は言おう。
「恥ずかしいから、電車の中で演説しないでよ!」
「悪かった!」
素直に謝られると気分がいい。慈悲って感情も生まれる。
「もう許してあげるから。演説したいなら私の耳元でそっとささやきなさい。聞いててあげるから」
そう言ったら死神は不思議そうな目をして私を見た。
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