劣等感

　劣等感は、明らかに何をとっても女の方が強い。
　並の男なら百回自殺しても足りないぐらいの劣等感だ。
　男には、世間を無視できるだけの力がある、あるないにかかわらず男はそう信じている。
　ところが、世間を無視できないように追い込まれているのが女だ。

　もうとっくに変わり始めているけど。

ブスの傘

　三浪していた。
　大学には行っていない。
　ところで、二浪目だっただろうか、その冬に受験で上野に行った。
　朝から曇っていたが、帰りにはどしゃぶりとなった。
　見通しが甘いので、常に降っていないかぎりは傘を持たずに出かける。

　試験が終わって外に出ると、ものすごい土砂降りだ。

　上野の駅まで駆け出す。
　すると、一人の若い女性が傘を俺の頭上に差し出してくれた。

「濡れますよ」

　俺は、彼女の差し出した傘を拒んで、上野の駅まで濡れて歩いた。
　なぜなら、彼女がブスだったからだ。
　ブスと一瞬でもつるむぐらいなら、濡れた方がまし。

　３６年生きてきたが、見も知らぬ他人から傘を差し出されたのは、これ一度きり。
　今の俺なら喜んで同じ傘に収まっただろうが、若い頃の俺には寛容の心がなかった。格好わるいのはいや。
　彼女は今どうしているのだろう。　

顔の造作

　若い男は繊細で傷付きやすい。
　だが、女はタフだ。
　顔の雑作で人生のほぼほとんどの価値は決定されるくせに、負けずにしぶとく生きている。

ブス

　ブスは死んでもなおらない。
　死んですらもなお未練げに不細工な顔をさらけだして死んでいる。

負け犬

　４、５年前ぐらいかなぁ～。
　自分で自分を他人に「負け犬」と言って自虐して喜んでいた。「人」とかも好きだったなぁ。
　ところが、「勝ち組・負け組」が流行って、若い女ですら「負け犬」を名のるご時世になったもんで、気に食わないからもう２度と「負け犬」などと名のらないことにした。
　どんなに人より劣っていようとも、人と同じ事を言うのだけは俺のプライドが許さないのだ。特異なオリジナリティのみが、俺の最期の砦なのだ。コレだけは崩させん！
　ところで、若い女が負け犬を語るとは、時代も進んだものだ。よほどのブスじゃないかぎり若いマンコってだけで、一回４万円だ。
　ところが、かの勝ち組ホリエモンが、身をもって、人生の通過点での繁栄で「勝ち組・負け組」を決めるのは、なしなんじゃないのかなと示しちまったんで、「負け犬」ブームはやや下火だ。
　だけど、ホリエモンは、あきらめたり死なないかぎりきっとまた浮上するよ。俺らとは出来が違うんだ。