ドン

ドン・キーホーテ

メロンパン

　昨日、彼女と会った。やることないので漫画喫茶でネット。二人用の個室を借りて中でコンビニで買ったビールを飲みながら、ネットをウロウロする。
　彼女が、これが面白いよと検索で探して行ったのが 「パン占い」
　
　パン占いにも数種あり、昨日は見つけた三種類のパン占いを試してみた。生年月日で占う物もあれば、YES、NOで占うものもある。なんにしろ、占いの基準はそれぞれのサイトで違うはずなのだが、出て来た結果はどれも「あなたはメロンパン」だった。

　俺はメロンパンの生まれ変わりなのだろうか？

　占いなんて信じないが、こうなってくると少々、自分の出生を疑ってみたくなる。実は俺は捨て子で本当の両親はメロンとパンではなかろうか。それにしちゃ俺は親父に似すぎている。きっと思い過ごしであろう。

　彼女とすごしているうちに俺はないてしまった。ぼろぼろ涙が出て、彼女のセーターを鼻水まみれにしてしまった。きっと疲れていたんだろう。
　俺も弱くなった。

パンに捧げよ

　本格的にパン屋になろうと決意して、町場のパン屋に潜り込み数日たった。
　俺はそこでパン屋というものは、自分の全てをパンに捧げねばいけない職業だと知った。８時間労働で、週休２日なんて事ではパン屋は勤まらない。毎日１４時間以上働き、３ヶ月休み無しでようやくパン屋が勤まる。さらに、その上を目指すならいくらかの余った時間に酒なんか飲んでいてはいけない。パンについての知識を深める為の勉強をしなくてはならない。

　自分のもつ時間と精神力と体力の全てをパンに捧げて、はじめてパン屋として独立できる。今の俺なんかまだまだパンに全てを捧げきっていない。パンの品質を安定させ店の経営を成り立たせて行くには、パンという食品に自分の全ての時間を捧げなくてはならない。
　
　勉強したから頑張ったからパン屋になれるなんてものではないのだ。人生の全てをパンに捧げる決意がなければ手作りパン屋なんて勤まらない。楽しい旅行も、自分の趣味もパン以外の全ての楽しい事をすてて、パンのみに自分のすべてを捧げねばならない。
　パンとはなんてわがままな食品であろうか。

　俺には、人生の全てをパンに捧げる覚悟ができていない。正直言って、この先ずっとそんな生活を続けねばならないのかと思うとぞっとする。恐怖すら感じる。
　情熱も才能の一つなら、俺には情熱という才能が欠けている。せっかく選んだ道でも途中で嫌になり、投げ出してしまうかもしれない。

　今日は晴れているが、気持ちはさえない。俺はパン屋になれるんだろうか？一緒にパン屋をやろうといってくれた彼女は本当について来てくれるのだろうか？貧乏で時間もない俺にあきれて去ってはいかないだろうか。

　なにか、とほうもない不安を感じる。お前なんかにできるはずないと誰かがつぶやく。そいつは本当にお前は漫画をあきらめきったのかとさらにつぶやく。

　今さらながらに俺は軽率であった。なんで、こんなにも急いで転職したんであろうか。でもいい、ここまで来たんだ。とにかく先に進んでみよう。