俺には将来の夢とか希望がない。かってはあったような気もしたが、とりあえず今はない。しかし人生に将来設計や夢は必要だ。こうなりたいというイメージがあってこそ、日々の仕事にも意味があるように思えてくる。
人生に意味などない。生きていく事で精一杯だ。夢なんてのは、自分で自分をだましているだけのまやかしにすぎない。
だが、人間はそんなに立派な生き物じゃない。長く生きてくには自分で自分をだまし、夢や目標とやらにでも、しがみついていかなけりゃ耐えられない。
どうせ、自分をだますなら会社のためとか、家族のためなんていう為の為には生きたくない。それをやると精神が劣化する。それよりは脳内麻薬だしまくり夢とやらにしがみついて生きていくほうが俺むきだ。
新たなる目標を探していた。なにをやりたいか考えていた。
そんな時期に彼女と出会った。俺を好きだと言う、かなりのマニアだ。たぶん男を見る目がないんだろう。彼女とはバイト先のパン屋で知り合った。
彼女は店を開きたいと言う。パン屋をやりたいと言う。正確にはたんなるパン屋ではなく、洋風飲みやのような店を開きたいらしい。おいしいスープに焼きたてパン。数種のディナーに、おいしいお酒。昼間は純粋なパン屋で、夜は一杯飲める店。
なんて、欲張りな店だ。24時間営業かよ。コンビニエンスだ。
彼女と遊ぶ金欲しさに転職することにした。バイト君の給料では、思いきり遊べない。だから、一円でも給料が高いとこを狙って応募した。そこは採用されなかった。
だが採用されなかった事に少しほっとした。彼女とつきあいだすうち、彼女の話を聞いていくうちに、俺の考えが変わってきた。彼女は情熱家だが、女手一人じゃ開店にこぎつけるのは大変だろう。
いっそのこと、彼女の夢にのっかっちまおう。彼女と一緒に店をやる。俺はパン屋になる。パン屋なんかになる人生設計は俺の中にはなかったが、なんでもいいんだ。なんでもやる。目標のない人生よりはよほどましだ。パン屋も面白そうだしな。それに、俺は早起きだ。パン屋にはむいてるんであろう。
小規模の田舎のパン屋なら、社員として潜り込むのは簡単だろう。しばらくパン屋で働いてスキルとやらでも貯めるとしよう。てゆーかパン修行だ。少々、給料が安くても我慢しよう。