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印刷図書館倶楽部ひろば

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懐かしきフィルムカメラのエプロンデザイン

2016-05-19 10:15:25 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
「懐かしきフィルムカメラのエプロンデザイン」

印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-20
印刷コンサルタント 尾崎 章



フィルムカメラの基本構造は、①レンズを取付けるレンズボード部 ②フィルム感光材料の保持部 ③レンズ、ミラーの光学系部 ④遮光性のボディ本体の4部分より成り、35ミリフィルムカメラ等の登場によってレンズボード部とボディ本体が一体化されている。
国内カメラ市場で35mmフィルムカメラが大きく台頭する1947年以降にカメラボディのレンズ取付部に「エプロン」と称する金属板を取り付けるデザインが流行した時期がある。
「エプロン」に関する正式定義は無いが、「エプロン」形状がカメラデザインに大きな影響を与える事より国内では1947年から1960年代にかけて数多くの「エプロン」付きカメラが見られた。


コンタックスⅠ型がカメラデザインに及ぼした影響

1932年にドイツ・ツアイス イコン社は、「ライカ」を凌駕する35mmフィルムカメラ「コンタックスⅠ型」を発売して世界の注目を集めた。「コンタックスⅠ型」は、基本長103mmの連動距離計、1/1000秒対応の金属シャッターを搭載して先行ライカを性能面で圧倒している。
また、「コンタックスⅠ型」はファインダー及び距離計窓、エプロン形状等々のカメラデザインの秀逸性でも注目を集め、国内カメラ各社が「コンタックスⅠ型」を意識したデザインのカメラを次々と販売する展開が開始されている。



ヤシカ35  


1947年発売のライカ型カメラ「ミノルタ35-Ⅰ」、1948年発売の「ニコンⅠ型」が「コンタックスⅠ型」デザインを踏装、1958年に㈱ヤシカが発売したレンズシャッターカメラ「ヤシカ35」は「コンタックスⅠ型」「ニコンⅠ型」に類似のデザインを採用、外観デザイン、レンズ性能そして価格のコストパフォーマンスで人気を集めた経緯がある。


ミノルタ35-Ⅰ 


「コンタックスⅠ型」のエプロンは、矩形型の基本形で、1947年以降に発売されたオリンパス、東京光学、理研光学、マミヤ光機等々の国産カメラデザインに大きな影響を与える事になった。



カメラ・エプロンの基本形は矩形の金属版

1947年発売の「ミノルタ35-1」,1948年発売の「ニコンⅠ型」(日本光学)「オリンパス35 Ⅰ型」(オリンパス光学)「ミニヨンB」(東京光学)1953年発売の「リコレット」(理研光学 現:リコーイメージング)「トプコン35」(東京光学)等の35mmレンズシャッターカメラは「矩形型エプロン」を装着してメカニカル性を重視・強調したデザインを採用している。
フィルム一眼レフでは、1952年の国産初の一眼レフ「アサヒフレックスⅠ」(旭光学)がレンズマウント部の左右に「矩形型エプロン」を配している。また1955年にオリオン光学が発売した国産初のペンタプリズム搭載一眼レフ「ミランダT」もエプロン風のレンズマウント部デザインを採用している。
旭光学では、エプロン付きデザインを「アサヒフレックスⅡB」(1954年)「アサヒペンタックスK」(1958年)「アサヒペンタックスS3」(1961年)「アサヒペンタックスSV」(1962年)等の製品に採用、特にベストセラーモデルの「アサヒペンタックスSV」によってエプロン仕様のペンタックスデザインが広く定着することになった。


アサヒペンタックスK  


旭光学は1964年発売のTTL測光一眼レフ「ペンタックスSP」でエプロン無ヘのデザイン変更を行っている。
旭光学とは逆に東京光学は1963年に発売した世界初のTTL測光一眼レフ「トプコンREスーパー」に大型エプロンを装着、TTL測光はもとより当時最新鋭のシステムカメラとしてメカニカルなデザインが一世を風靡している。


トプコンREスーパー  

「トプコンREスーパー」は当時の親会社:東芝が「ミラーメーター」開発以外に工業デザイン面での協力を行い、「優れた性能をアピールする直線的メカニカルデザイン」を採用した事が報じられている。東京光学では、姉妹機「トプコンRE2」、世界初のレンズシャッターTTL一眼レフ「トプコンUNI」も同一デザイン展開を実施、エプロン付きデザインの「トプコン・TTLトリオ」として注目を集めた経緯がある。

矩形型エプロンの最終製品には、ツアイス・イコン社との提携により㈱コシナが2005年に発売を開始した「ツアイス・イコン」がある。デジタルカメラ時代にフィルムファンに支えられて健闘したが2013年に惜しまれつつ販売を終了している。




ミノルタAシリーズの半円形エプロンデザイン


千代田光学(現:コニカミノルタ)は1955年発売の「ミノルタA」に半円形型のエプロンを採用、続いて「ミノルタA2」「ミノルタA2L」,1957年発売のレンズ交換式「ミノルタ スーパーA」のAシリーズカメラに同一エプロンデザインを採用している。


ミノルタA2 


ミノルタAシリーズは米国市場での評価も高く、1958年発売の国産初のセレン光電池露出計連動カメラ「ミノルタオートワイド」まで半円形エプロンデザインを継承している。
余談ではあるが、当時の千代田光学はレンズに「CHIYOKO」と刻印しており、「エプロンをした千代子さん」として密かな人気があった事が報告されている。


ミノルタA2「CHIYOKO」 


ミノルタカメラは、高級コンパクトカメラブームの1990年にセゾングループ・デザインハウスのデザインによる特別仕様モデル「Minolta Prod 20’s」(48.000円)を全世界2万台限定で発売している。この「Minolta Prods 20’S」は丸型デザインのエプロンが注目を集め、「クラシックデザインカメラは、エプロンが不可欠」という基本が再認識されている。


ミノルタプロッド20‘S 



フジカ35M,コダック・レチネッテの逆三角形エプロン

富士フィルム初の35mmレンズシャッターカメラ「フジカ35M」は、レンズ性能を始めとするカメラの優秀性はもとより、東京芸術大学・田中芳郎教授によるデザインも注目を集めた。田中デザインの富士フィルムカメラは、「フジペット」「フジペット35」「フジペットEE」「フジカラピッドS」から女性向け「フジカミニ」迄、多岐に及んでおり、中でも「フジカ35M」は海外でも高い評価を受けている。1957年発売の「フジカ35M」は直線を基調としたデザインで、特に逆三角形のエプロンが印象的であった。


フジカ35M


ドイツ・コダックが大衆機・レチナシリーズとして1959年に発売した「Retinette 1A」は、丸みを帯びた逆三角形エプロンのスタイリングで人気を博したカメラである。クロムメッキの緻密性が高く発売後50年を経過したにも関わらず美しい外観が魅力的で現在でも中古カメラ市場で人気がある。
一方、米国コダックが1951年に発売した「Signet 35」は、前述「Retinette 1A」とは好対照にダイカスト仕様の重厚なカメラである。


コダック レチネッテ1A


もともと「Signet 35」はアメリカ陸軍の通信部隊がコダックに発注した軍用カメラで「Signet」の名前はSignalを語源としている。
民生用としても発売された当機は、カメラ正面及びカメラ上部・軍艦部が完全左右対称のデザイン、ファインダーと一体化したエプロンデザインが好評を博し「御洒落カメラ」として人気を集めた。本機のエクター44mm f3.5・テッサータイプレンズは、描写性能に優れており今日でも若い女性に人気のある「往年のMade in USA」製品である。


コダック シグネット



異形エプロンデザインの頂点、大成光機ウェルミー35M


小西六写真工業が1956年に発売した「コニカⅡA」は不規則な曲線形のエプロンを装着して注目を集めた。同社の記録によると「両手でカメラを保持した時に指が触れる部分は貼り皮」として「撮影者が指に違和感を持たない」ホールド感の追求結果によるエプロン形状と記されている。確かにカメラを両手で保持した際に指がエプロンに触れる事は無く、この自由曲線がカメラ外観に「優しい」イメージを与える効果も生じている。
この優美なエプロン形状は、残念ながらマイナーチェンジ機「コニカⅢ」では矩形型エプロンに戻されている。


コニカⅡA


「コニカⅡA」のエプロン形状コンセプトを更に発展させた究極のエプロンデザイン製品がある。小西六写真工業と協力関係にあった大成光機(山梨コニカを経て現:コニカミノルタオプトプロダクト㈱)が1957年に発売した「ウェルミー35M2」である。距離計無・目測式焦点調節のビギナー向けカメラでは有るが14角の「異形」多角形エプロンによる存在感が際立ったカメラで「エプロン・ユニークデザイン賞」に値するカメラであった。


ウェルミー35



以上