[印刷]の今とこれからを考える
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年5月度会合より)
●特殊印刷業は紙メディアの“牙城”を守れるか
パッケージ類と並んで、電子メディアとは一番縁の遠いところにある特殊印刷物は、紙メディアの“牙城”を守れる力強い印刷分野として注目されている。その担い手である特殊印刷業界が、これからどのようなポジショングをとっていくのか、誰しも関心を抱くところである。そんな折、アメリカの業界団体が格好の実態調査をおこなってくれているので、参考までに紹介すると……。それによると、もっとも一般的な取引業界は食品サービス業で、以下、企業のブランディング部門、非営利団体/協会/組織と続いている。小売店はかつての最大の得意先であったが、厳しい競争のなかで4位に後退してしまった。この食品サービスとインテリア・デザイン関連は、もっとも成長性の高い市場とされ、これに対し、製造業や行政機関からは特殊印刷の必要性が小さいとみられているのが実情だ。
●顧客市場と対象品目をどう選ぶかが重要に
印刷品目という角度からみてみると、製品展示会のディスプレイ、旗(幟)、デカルコマニア(転写印刷物)/ラベル/ステッカー、室内壁面のグラフィックス、窓のディスプレイの順でトップ5を形成している。もっとも成長著しいのは壁紙などの化粧紙印刷で、インテリア・デザインあるいは建築デザイン分野が伸びていることと軌を一にしている。一方、大きく減少したのはビルの外壁などに掲げる広告板、最少の品目は記念楯/メダル・記章/トロフィーとなっている。ちなみに、ほとんどの企業でデジタル印刷方式が採用されていて、伝統的なスクリーン印刷は半分以下にまで減少している(オフセット印刷は4分の1にもならない)。また、かなり多くの企業が付帯サービスとして、ラミネート加工、鳩目穴加工、空間デザインなどの「仕上げ加工/ポスト・プロダクション・サービス」を顧客に提供している。
●的確な顧客サービスの提供が今後を左右する
これらの調査結果は、垂直な取引関係のなかで、特殊印刷業がどの領域を対象にビジネスをしていったらいいのかの示唆を与えてくれている。特殊印刷業界全体の売上高は年々、好調に推移し、前向きの生産、営業、雇用によって顧客からの信頼性も増しているが、それでも、上記の市場分野、手掛ける製品の選択如何で、個々の企業の明暗が分かれるようだ。この報告書は「年間売上げで最低クラスの企業が、翌年には最上位となることがしばしばある」としている。特殊印刷業界においても「デジタル・アナログのハイブリッド技術の確立とサービスの提供」が不可欠なことに繋がる。価格引き下げの圧力があるなかで競争優位性を確保するためには、顧客サービスの改善、営業スタッフの強化、生産ラインの増強などを通して、適切なマーケティング戦略を展開すること、ワンストップショップになることが、何より重要だと結論づけている。
※参考資料=SGIA Report; Specialty Graphic Imaging & Association; Dan Marx (Vice President)
●「マーケティング・オートメーション」の効用は?
最近、ビジネスの新しい世界を拓く強力な“エンジン”になり得ると、にわかに脚光を浴びているのが「マーケティング・オートメーション」という概念である。例によりアメリカの印刷業界団体PIAから、顧客を惹きつけるためのツールとして、この「マーケティング・オートメーション」の効用を説く論文が発表されているので、意味するところを紹介しておきたい。多くの異なるメディアから情報を受け取るマルチ・チャンネルの時代が到来し、メッセージを届ける方法や伝達効率に優れた効果をもたらしている。可変データに基づくパーソナライズ化が可能になるなど、顧客との交渉、製品・サービスの販売で究極的な相互作用を発揮できる。顧客管理用のデータベースはソリューションの中核とみなされ、そこから出力された個別の情報はマーケティング・キャンペーンの基盤として使われる。新たに得た顧客情報はCRM(顧客維持管理)のためにデータベースに追加され、次のキャンペーンに活かされる。そうはいいながらも、「マーケティング・オートメーションは、こんな方法で(止まっていて)よいのだろうか? マーケティング・キャンペーン(そのもの)を立ち上げ、そのライフサイクル全体を管理することを支援すべきではないか」というのが、この論文の言い分なのである。
●印刷メディアとシームレスにつなぐ統合化技術で
「マーケティング・オートメーション」を通して顧客にソリューションを提供するとき、印刷メディアがその中核技術として使われることはあまり想定されていない。しかし印刷会社には、印刷メディアを製作するためのワークフローと顧客のパーソナルデータとがお互いに補足し合えるよう、両者をシームレスに結びつけることのできる技術がある。その技術的なハードルこそ、他産業からの参入障壁となる。印刷会社が「マーケティング・オートメーション・ソリューション」用に完全に統合化された印刷システムをもつことの重要性がわかる。そうすることで、印刷会社と顧客との間の“クローズド・ループ”のコラボレーションが確立でき、デジタル印刷による効果的なワントゥワン・マーケティングが可能になる。キャンペーン効果を最大限にするためのプログラムの作成コストも、ワークフロー工程間の処理時間の標準化で削減できる。雑多な多くの繰り返し作業が自動化され、スピードアップを実現してくれるのだ。
●顧客ニーズに対応できる中核機能となるだろう
「マーケティング・オートメーション・システム」は印刷産業にビジネスの合理化の機会を与えることだろう。印刷会社が手掛けるべきキャンペーンを自動化することで、増収をもたらすだろう。マーケティングの創造力、キャンペーンの効率的な設計、購買行動への呼び掛けは、マーケティング・オートメーションがもつ可能性への理解を深め、顧客にソリューションを提供するうえで不可欠な要素となる。「このシステムは情報伝達の手段を変え、顧客ニーズに的確に対応する(印刷会社がもつべき)ワークフローの中核機能となるだろう」と、論文は結論づける。
※参考資料=The Magazine Feb. 2015, PIA; Dr. Mark Bohan (Vie President)
●印刷関係から「QRコード」の活用を考えてみたら
顧客情報のデータベース化、メディア(印刷物やEメール)の作成、顧客への販売促進をクローズ・ループで結ぶ、マーケティング・オートメーションのワークフローを構築する場合、PURL(個人用アクセス手段)が浸透し始めたアメリカでは、顧客に買い物など生活上の出来事、ニーズやウオンツを自らネット上に書き込んでもらえるよう、個人々々の書き込みページを用意(自動的に設定)して、それをワークフローの起点とすることが可能だ。日本では、このPURLが普及していないため、顧客情報が把握しにくい。そこで印刷関係からワークフローを動かす何かがないかを考えたとき、思い浮かぶのが印刷物にQRコードを掲載することである。取り扱うのがビッグデータでない以上、QRコードを活用することから始めると効果的だろう。クローズド・ループを比較的容易に回すことができる。
●印刷産業が音頭を取るためにも積極的な対応を
日本では「マーケティング・オートメーション」という“単語”だけが一人歩きしていて、ビジネスとして使いこなせる考え方、具体的な方法を示す“用語”にはまだ育っていないようだ。QRコードは、情報を集め紙メディアと電子メディアをつなぐツールとなる。積極的に提案することで、ネットの世界で印刷産業がリーダーシップを発揮していける強みにできる。音頭を取れる仕掛けとなり得る。溢れかえっている電子情報も、さすがに“天井”にきたという見方さえある。印刷メディアの効用を主張して再び打って出るためにも、QRコードを切り口に「マーケティング・オートメーション」の意義を正確に捉えていきたい。
以上
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年5月度会合より)
●特殊印刷業は紙メディアの“牙城”を守れるか
パッケージ類と並んで、電子メディアとは一番縁の遠いところにある特殊印刷物は、紙メディアの“牙城”を守れる力強い印刷分野として注目されている。その担い手である特殊印刷業界が、これからどのようなポジショングをとっていくのか、誰しも関心を抱くところである。そんな折、アメリカの業界団体が格好の実態調査をおこなってくれているので、参考までに紹介すると……。それによると、もっとも一般的な取引業界は食品サービス業で、以下、企業のブランディング部門、非営利団体/協会/組織と続いている。小売店はかつての最大の得意先であったが、厳しい競争のなかで4位に後退してしまった。この食品サービスとインテリア・デザイン関連は、もっとも成長性の高い市場とされ、これに対し、製造業や行政機関からは特殊印刷の必要性が小さいとみられているのが実情だ。
●顧客市場と対象品目をどう選ぶかが重要に
印刷品目という角度からみてみると、製品展示会のディスプレイ、旗(幟)、デカルコマニア(転写印刷物)/ラベル/ステッカー、室内壁面のグラフィックス、窓のディスプレイの順でトップ5を形成している。もっとも成長著しいのは壁紙などの化粧紙印刷で、インテリア・デザインあるいは建築デザイン分野が伸びていることと軌を一にしている。一方、大きく減少したのはビルの外壁などに掲げる広告板、最少の品目は記念楯/メダル・記章/トロフィーとなっている。ちなみに、ほとんどの企業でデジタル印刷方式が採用されていて、伝統的なスクリーン印刷は半分以下にまで減少している(オフセット印刷は4分の1にもならない)。また、かなり多くの企業が付帯サービスとして、ラミネート加工、鳩目穴加工、空間デザインなどの「仕上げ加工/ポスト・プロダクション・サービス」を顧客に提供している。
●的確な顧客サービスの提供が今後を左右する
これらの調査結果は、垂直な取引関係のなかで、特殊印刷業がどの領域を対象にビジネスをしていったらいいのかの示唆を与えてくれている。特殊印刷業界全体の売上高は年々、好調に推移し、前向きの生産、営業、雇用によって顧客からの信頼性も増しているが、それでも、上記の市場分野、手掛ける製品の選択如何で、個々の企業の明暗が分かれるようだ。この報告書は「年間売上げで最低クラスの企業が、翌年には最上位となることがしばしばある」としている。特殊印刷業界においても「デジタル・アナログのハイブリッド技術の確立とサービスの提供」が不可欠なことに繋がる。価格引き下げの圧力があるなかで競争優位性を確保するためには、顧客サービスの改善、営業スタッフの強化、生産ラインの増強などを通して、適切なマーケティング戦略を展開すること、ワンストップショップになることが、何より重要だと結論づけている。
※参考資料=SGIA Report; Specialty Graphic Imaging & Association; Dan Marx (Vice President)
●「マーケティング・オートメーション」の効用は?
最近、ビジネスの新しい世界を拓く強力な“エンジン”になり得ると、にわかに脚光を浴びているのが「マーケティング・オートメーション」という概念である。例によりアメリカの印刷業界団体PIAから、顧客を惹きつけるためのツールとして、この「マーケティング・オートメーション」の効用を説く論文が発表されているので、意味するところを紹介しておきたい。多くの異なるメディアから情報を受け取るマルチ・チャンネルの時代が到来し、メッセージを届ける方法や伝達効率に優れた効果をもたらしている。可変データに基づくパーソナライズ化が可能になるなど、顧客との交渉、製品・サービスの販売で究極的な相互作用を発揮できる。顧客管理用のデータベースはソリューションの中核とみなされ、そこから出力された個別の情報はマーケティング・キャンペーンの基盤として使われる。新たに得た顧客情報はCRM(顧客維持管理)のためにデータベースに追加され、次のキャンペーンに活かされる。そうはいいながらも、「マーケティング・オートメーションは、こんな方法で(止まっていて)よいのだろうか? マーケティング・キャンペーン(そのもの)を立ち上げ、そのライフサイクル全体を管理することを支援すべきではないか」というのが、この論文の言い分なのである。
●印刷メディアとシームレスにつなぐ統合化技術で
「マーケティング・オートメーション」を通して顧客にソリューションを提供するとき、印刷メディアがその中核技術として使われることはあまり想定されていない。しかし印刷会社には、印刷メディアを製作するためのワークフローと顧客のパーソナルデータとがお互いに補足し合えるよう、両者をシームレスに結びつけることのできる技術がある。その技術的なハードルこそ、他産業からの参入障壁となる。印刷会社が「マーケティング・オートメーション・ソリューション」用に完全に統合化された印刷システムをもつことの重要性がわかる。そうすることで、印刷会社と顧客との間の“クローズド・ループ”のコラボレーションが確立でき、デジタル印刷による効果的なワントゥワン・マーケティングが可能になる。キャンペーン効果を最大限にするためのプログラムの作成コストも、ワークフロー工程間の処理時間の標準化で削減できる。雑多な多くの繰り返し作業が自動化され、スピードアップを実現してくれるのだ。
●顧客ニーズに対応できる中核機能となるだろう
「マーケティング・オートメーション・システム」は印刷産業にビジネスの合理化の機会を与えることだろう。印刷会社が手掛けるべきキャンペーンを自動化することで、増収をもたらすだろう。マーケティングの創造力、キャンペーンの効率的な設計、購買行動への呼び掛けは、マーケティング・オートメーションがもつ可能性への理解を深め、顧客にソリューションを提供するうえで不可欠な要素となる。「このシステムは情報伝達の手段を変え、顧客ニーズに的確に対応する(印刷会社がもつべき)ワークフローの中核機能となるだろう」と、論文は結論づける。
※参考資料=The Magazine Feb. 2015, PIA; Dr. Mark Bohan (Vie President)
●印刷関係から「QRコード」の活用を考えてみたら
顧客情報のデータベース化、メディア(印刷物やEメール)の作成、顧客への販売促進をクローズ・ループで結ぶ、マーケティング・オートメーションのワークフローを構築する場合、PURL(個人用アクセス手段)が浸透し始めたアメリカでは、顧客に買い物など生活上の出来事、ニーズやウオンツを自らネット上に書き込んでもらえるよう、個人々々の書き込みページを用意(自動的に設定)して、それをワークフローの起点とすることが可能だ。日本では、このPURLが普及していないため、顧客情報が把握しにくい。そこで印刷関係からワークフローを動かす何かがないかを考えたとき、思い浮かぶのが印刷物にQRコードを掲載することである。取り扱うのがビッグデータでない以上、QRコードを活用することから始めると効果的だろう。クローズド・ループを比較的容易に回すことができる。
●印刷産業が音頭を取るためにも積極的な対応を
日本では「マーケティング・オートメーション」という“単語”だけが一人歩きしていて、ビジネスとして使いこなせる考え方、具体的な方法を示す“用語”にはまだ育っていないようだ。QRコードは、情報を集め紙メディアと電子メディアをつなぐツールとなる。積極的に提案することで、ネットの世界で印刷産業がリーダーシップを発揮していける強みにできる。音頭を取れる仕掛けとなり得る。溢れかえっている電子情報も、さすがに“天井”にきたという見方さえある。印刷メディアの効用を主張して再び打って出るためにも、QRコードを切り口に「マーケティング・オートメーション」の意義を正確に捉えていきたい。
以上