『日本アニメを支える女職人の凄さ』 久保野和行

スタジオジブリ・宮崎駿作品「風立ちぬ」が7月20日に公開された。「崖の上のポニョ」から5年ぶりの作品に引かれて、さっそく映画鑑賞に出かけた。今までと違うのは実際の登場人物がいることであり、それがどうしてアニメーション化されるかも興味があった。
大正時代の作家・堀辰雄の作品名を取り上げ、同時に同じ時代を過ごした堀越二郎さんの生涯を描いている。私自身、堀越二郎さんという名前すら知らなかった。知る人ぞ知る「零戦の設計者」であった。今年は生誕110年を迎える。当時の状況、特に航空業界は欧米諸国から、遅れること20年といわれた時代に、東大出たての人物に、三菱重工が期待をかけて双肩にかけたのが「零戦の設計」だった。
この人物を取り上げた宮崎駿監督が、どうして実在人物に興味を抱いたのかを調べてみたら、宮崎駿さんの一族が経営する「宮崎航空興学」の役員を務める一家の4人兄弟の次男だった。幼少時代は身体が弱かったので運動が苦手だったが、ずば抜けて絵は上手であった。同時に熱心な読書家でもあり、手塚治虫のファンでもあった。
学習院大学卒業後、東映動画に入社して、この業界のスタートを切るが、なかなか思うような人生を送れない時代が続く、しかし、きっかけはテレビアニメ「アルプスの少女ハイジ」が最高視聴率を上げる成功で地位を確保した。その後、徳間書店の出資を得て「スタジオジブリ」を創設した。
そこから「もののけ姫」が生まれ、「千と千尋の神隠し」は興行成績を塗り替え、観客動員2300万人の空前絶後の金字塔を立てた。

しかし、そんな宮崎作品を支えた、かけがえのない女性がいる。東映動画では1年先輩格にあたる保田道世さんです。この方は宮崎作品全ての色彩設計を担当している。なんととなく眺めている映像の、背景の色や、登場人物の着物や洋服の配色など、それこそ多種多彩な彩を、絢爛豪華にも、詩情ゆたかな静かさも表現できる、裏方の職人芸でもある。
これほどの作品群に、たった1人のアーティスト保田道世さんが支えきっているからこそ、宮崎駿さんから「戦友」の呼び名で作品を作り続けている。
印刷業界に長くいると分かるが、これほど多くの色を扱うことが、いかに困難かを体験しているからこそ、その能力と努力には頭が下がる。エンディングには多くのスタッフの名前が並ぶが、その中で、たった一行の中に見つけた『色彩設計 保田道世』は別の面での感動を覚えた。
零戦設計者の堀越二郎さんもこんな言葉を述べている。
「私は一瞬、自分が、この飛行機の設計者であることを忘れて『美しい!』と、喉咽の底で叫んでいた」
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