印刷図書館倶楽部ひろば

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フィルム各社が創生した懐かしの芽生えカメラ市場

2016-04-22 13:43:56 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
「フィルム各社が創生した懐かしの芽生えカメラ市場」
 
印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-19
印刷コンサルタント 尾崎 章


第二次世界大戦終了直後より軍需用光学製品の生産を担当した国内外の光学各社は一斉に民生用製品へと生産体制をシフト、国内では1947年発売の距離計連動カメラ・ミノルタ35-Ⅰ型(千代田光学精工)を筆頭にニコンⅠ型(日本光学工業・1948年)オリンパス35-Ⅰ型(高千穂光学工業・1948年)コニカⅠ型(小西六写真工業・1948年)等々が相次いで発売される展開に至っている。

続いて1950年に理研光学工業が発売したリコーフレックス(5800円)が二眼レフ市場を創生、アルファベットのAからZまで有ったとされる製品名の普及型二眼レフ製品が各社より次々と発売され国内のカメラ保有率は飛躍的な高まりを見せている。

当時、写真大国で有った米国では、新規需要開拓として1950年代より「初めてカメラを持った子供が、写真を簡単に撮影出来る・芽生えカメラ」の需要創生が注目され、主役のコダックは「コダック・ポニー」ブランドでプラスチックボディのビギナー製品展開を開始して市場創生に成功している。
「コダック・ポニー」の成功を見てアグファ、富士写真フィルム、小西六写真のフィルム各社がこれに追随、フィルム需要を創生する「芽生えカメラ」グローバル市場が形成される事になった。


コダック・ポニー135



イーストマン・コダックの「コダック・ポニー」

イーストマン・コダックが製品化した芽生えカメラの代表的機種に「Kodak Pony 135」がある。35mmパトローネ入りフィルムを使用する当該機は、Kodak Anaston 51mm f4.53群3枚のトリプレットレンズを搭載、前玉回転式・目測焦点調節、B,1/25~1/200秒の4速シャッター等々の仕様を有していた。
機能は最小限度に簡略化されていたが、沈胴式レンズを採用する等、芽生えカメラ~初級者向けのニーズを対象としていた。
ファインダーは単純構造のガリレイ式で生産後60年以上を経過した今日でもクリァーな視野を維持している固体が多く半世紀前のフィルムカメラを楽しむ事が出来る。


富士フィルムの「フジペット」


カメラ各社より遅れて1957年9月に富士写真フィルムは、同社初の35mmレンズシャッターカメラ「フジカ35M」を発売、同年にブローニー(120)フィルムを使用する少年・少女向け芽生えカメラ「フジペット」(1950円)を発売して注目を集めた。
富士写真フィルムは、1948年にブローニーフィルムを使用する6×6判・スプリングカメラ「フジカシックス1A」でカメラビジネス参入を開始した関係も有り、芽生えカメラ「フジペット」でもブローニーフィルムを採用した。


フジペット


「フジペット」は、単玉・1枚レンズにも関わらず6×6 cmの大型画面サイズのメリットもあり1950円の芽生えカメラとしては想像できない、高いコストパフォーマンスを発揮して大ヒットに至っている。
「フジペット」は、東京芸術大学・田中芳郎教授による「シンプルかつ、先進的」デザインも高く評価され、後継機「フジペットEE」(1961年3800円)及び35mmフィルム仕様「フジペット35」と合わせたシリーズ販売台数は当時のカメラ販売台数記録を更新する100万台超を記録している。
「フジペット」の設計は、印刷業界とも関連深い甲南カメラ研究所が担当、シャッターチャージとシャッターリリースの2アクション操作と緩曲構造のフィルム面で単玉レンズ特有の像面湾曲収差を合理的に補正する等、性能及びシンプル操作面で高い評価を得ている。また、黒、赤、青、黄、緑、グレーの5色レザーバリエーションも時代を先取りした仕様として注目を集めた。


フジペットのフィルム室


「フジペット」の大ヒットで市場規模を再認識した富士写真フィルムは、2年後の1959年6月に上位機種として35mmフィルムを使用する「フジペット35」(4100円)を発売して中学~高校生向けの需要開拓を開始している。


フジペット35

「フジペット35」はフジナー45mm f3.5(3群3枚)トリプレット構成のレンズを搭載、B,1/25,1/50.1/100./200の4速シャッター等、「Kodak Pony 135」に対峙する性能を有していた。デザインは「フジペット」同様に東京芸術大学・田中芳郎教授が担当、黒・赤・緑の3色カラーバリエーションが用意された。
「フジペット」「フジペット35」は、団塊世代にとって懐かしの想い出カメラである。



コニカの芽生えカメラ「コニカ スナップ」


小西六写真工業は1953年に普及型カメラ「コニレット」を発売してカメラ需要拡大を図っている。5500円の当該機は専用パトローネ入り35mm無孔フィルムを使用、画面サイズ30×36mm、12枚撮りであった。


コニカ スナップ 


小西六写真では、「コニレット」を芽生えカメラでは無く普及型・サブカメラに位置付けており、1956年に改良型「コニレットⅡ」1959年にはセレン露出計を搭載した「コニレットⅡ・M」を発売、3機種合計のシリーズ販売台数は16万台弱と報じられている。
小西六写真では、当時のライバル富士写真フィルムが「フジペット」の大ヒットに続いて35mmフィルム仕様の「フジペット35」を発売するに至って対抗機種による当該市場への参入を決定している。

小西六写真は「35mmフィルム仕様・芽生えカメラ」として1959年12月に「コニカ スナップ」(4950円)を発売、「フジペット35」より850円高い「コニカ スナップ」は当時の協力会社・大成光機(後の山梨コニカ)が1957年末に発売した入門用カメラ「ウェルミー35M2」をベースに短期間で製品化を行ったカメラで、45mm f3.5のレンズにB.1/25.1/50.1/100.1/200の4速シャッターを搭載、ダイカストボディで「フジペット35」よりも大人びたデザインであった。
しかしながら、「ペット~ペット♪、フジペット♪、僕のカメラはフジペット、兄さんペット35,フジフィルムのフジペット~♪」のCMソングまで登場させた富士写真フィルムの「芽生えカメラ」ビジネスに対抗出来ず、「コニカ スナップ」は数年で市場から姿を消す展開に至っている。



アグファの芽生えカメラ・クリック

海外カメラ市場では、コダックの芽生えカメラ「コダック・ポニー」「コダック・ブローニー」に対抗してアグファ「クリック」(Click)が健闘した。


アグファ・クリック


富士写真フィルム「フジペット」と同様にブローニー・120フィルムを使用する画面サイズ6×6cmのプラスチックボディのカメラである。
搭載レンズは、72.5mm f8 固定焦点の単玉1枚レンズ、シャッター速度は1/50秒単速、2.5~4mの近接撮影を可能とするクローズアップレンズを内蔵、専用フラッシュガンもラインナップされていた。
1959年に発売された当機は1970年頃まで欧州で広く販売され、現在でも欧州各地の中古カメラ店で見かけるケースが多い。国内でも新宿の中古カメラ店で6000~8000円程度で販売されているアグファ「クリック」を見かけるケースが有る。



富士フィルムのキャラクターカメラ

富士写真フィルムは、東京ディズニーランドの開設に合わせて1983年頃より「ミッキーマウス」のキャラクターカメラを芽生えカメラとして数多く発売している。


フジ ハイ!ミッキーマウスMD

一例としては、「フジ ハイ!ミッキーマウス」(1989年5800円) 「フジ ハイ!ミッキーマウスMD」(1995年6300円)があり、1994年にはジャイアンツ、タイガース等の人気球団マークをプリントした「フジスマートショット ジァィアンツ」(3800円)に代表される「スマートショット」シリーズを発売、何れも33~35mm f8~9.5の広角レンズ、固定焦点、1/100単速シャッター、ストロボ搭載を基本仕様としていた。
当該製品は、レンズ付きフィルム「写ルンです」(1986年発売)とのオーバーラップも有り短期間で姿を消しているが小学生の「芽生えカメラ」としてニーズを満たしていた。
ジャイアンツ仕様の「フジスマートショット ジャイアンツ」阪神タイガース仕様の「スマートショット タイガース」は、巨人・阪神ファンにとって「垂涎の存在」となっている。


フジ スマートショット ジャイアンツ

(以上)