満天横丁に住まう妖怪のひとり言

満天横丁に住む満天と申します
最近、猫妖怪化してきており更新は不定期ですが…
ひとり言にお付き合い頂ければ幸いです。

納棺夫日記感想

2009-04-03 | 本の紹介
 作:青木新門
あの、映画「おくりびと」の原作となった本である

「おくりびと」の映画は、まだ見ていない
DVDを借りる前に、TV放映されたら「ありがたい」とも思っている
映画のCMで広末涼子演じる妻が
「ケガラワシイ」という言葉を発するシーンを見て、躊躇してしまった
どちらにしても…映画を見るのはまだ先になりそうなので
まず、もととなった本を読んでみることにした(笑)

本を読んで、なぜ妻が「ケガラワシイ」と口走ったのか理解できた(笑)
この状況なら解る。
「ケガラワシイ」という言葉には、夫の職業に対する思いもあるが
それ以前の、夫と妻の関係も深く、深く、念じ込まれていた言葉であった
多分、私は一生口にしない言葉だと思うが
この言葉を発した妻の気持ちは、痛いほど解る。

映画が先に有名になってしまったせいで
近所の主婦の方にも、「あなた、あんな言葉をダンナさんに言ったの?」と
奥様は言われているそうだが、少々可哀想な気もする

私の父が浮気を何度も重ね、散々3番目の妻である「継母さん」を翻弄していた時
「継母さん」が、父の下着を手にし
「ケガラワシイ」とゴミ箱へ捨てていた事があった
父の下着が「ケガラワシイ」のではなく
父自身が継母さんにとって、「ケガラワシイ」存在であったと知ったのは
それから、何年も経ってからである
人が発する言葉というのには、深い、深い意味がある場合がある

しかし、その言葉を文字通り受け取るしかなかった中学生の私は
「ケガラワシイ」と言った「継母さん」の方を嫌悪した
だから、広末涼子演じる妻が映画の中で「ケガラワシイ」と言った言葉を聴いて
映画の広告の一部であったにもかかわらず、見るのを躊躇してしまったのである

本では映画とは異なり、作者は「詩人」であった
人に薦められて「小説」も書いていたようだが
生計が立つほどではなかったらしい

その後、店を開いたが、道楽の延長のような状況になってしまい
多大な借金も抱えてしまった
そんなときに、新聞広告に載っていた仕事にフラフラと応募して
あれよ、あれよと言う間に、気が付けばこの職業についていたらしい(笑)
ここのところは映画と一緒か?

人は自分の理解を超える存在からは、目を背けたがる
特に「死」に対しては、古今の東西を探っても忌み嫌う存在であろう

いずれは、誰もが対峙しなければならない「死」ではあるが
その時がくるまでは、できるだけ目を背けたいのが人情であろう
作者自身もそんな気持ちを持って仕事をしていた

ある日、火葬場職員と話をしていて
彼らも自身の仕事を卑下し、死から目を背けているのを感じる
ここで普通なら、「大変な仕事だけどさ、金がイイからね~」なんぞと
お互いの傷を舐め合うような雰囲気になるのだが、作者は疑問を抱く

誰もが必ず体験する「死」に対し、何故そんなに忌み嫌うのであろうか?

彼は自身も死をタブー視していたことを痛烈に感じ、変わろうと努力する
この職業に自信を持って真摯に死者と接していくのである
そうするとだんだん周囲の目が変わってくる
「あんな仕事」だったものが「ありがたい仕事」へと変貌したのである

これは、どんな職業にも言えることだと思う
どんなささやかな仕事であっても、自分の仕事に誇りと自信を持っている人は
やっぱり素晴らしいし、尊敬できる。
自身の受け止め方一つで、世界が開かれる場合もある

「嫌な仕事だが金になるから、という発想が原点であるかぎり
どのような仕事であれ世間から軽蔑され続けるであろう」

と作者は言っている。

また、作者の伯母が82歳で亡くなった時に、葬式に集まった親類縁者たちが
先に夫を亡くし、頼りにしていた一人娘にも先立たれていた伯母に対し
「孤独な死」的な発言をしていたそうだが
作者自身は、82歳の年齢で亡くなった伯母に「見事な死」だと思ったそうだ

※以下本文より抜粋
普通一般に、人が孤独な死とか淋しい死という時
それは生の世界での発想であって、どんなに多くの親族や友人に恵まれていても
死ぬのは本人唯一人なのである
病院のICUの前の廊下に、何十人の親族や友人知人が集まっていても
ベットに寝かされ、死と向かい合っているのは一人なのである
死とはもともと孤独なものであって、孤独な死という表現自体不思議な気がする

と述べている

この一文を読んだ時に、私の脳裏には
尾崎紅葉のもとで修行した作家の「田山花袋(タヤマ・カタイ)」の言葉が蘇った
「人間は元来、一人で生まれて一人で死んでいくものである。
大勢の中に混じっていたって、孤独になるのは分かりきったことだ」

作者もきっと、日々死者と触れ合ううちに
死を意識した目を持つようになったのだろうか

とても、不思議な本でした。
小説とは程遠い、どちらかと言えばブログっぽい本です(笑)
宗教的な話が多いので、興味のある方は面白いかも
ただし、可なり知識が豊富なので、ある程度の素地が必要かもです
特に親鸞上人の話が多かったです

作者の青木新門さんはHPを開設されています
「sinmonの窓」
ココを見ると、この小説のイメージがつかめると思います

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