満天横丁に住まう妖怪のひとり言

満天横丁に住む満天と申します
最近、猫妖怪化してきており更新は不定期ですが…
ひとり言にお付き合い頂ければ幸いです。

どぶどろ 作:半村良

2008-06-09 | 本の紹介

2002年に69歳で亡くなってしまったSF作家である
69歳ったらまだ若いよな~~
もそっと長生きして沢山の作品を世に出して欲しかった…残念である

「半村良」っと言えば有名なのは「戦国自衛隊」(1971)かと思う
映画にもなっているし2005年にリメイクもされておるでの

私が「半村良」っと最初に出会った作品は「妖星伝」(1973)である
徳川吉宗の時代に現れた鬼道衆らが巻き起こす超常現象オンパレードのお話は
あまりの面白さに食い意地の張った私が、飯を食うのを忘れたほどである(笑)
SFと時代小説を旨くミックスした絶品小説だと思う

「半村良」の作品はほぼこのようなSF超大作が多いのだが
時々ほろりとした「人情話」を書く。これも実に良い。
現に彼の書いた人情話「雨やどり」(1974)では直木賞も受賞している

さて今回紹介する作品は、
この江戸物「人情話」の作品〔どぶどろ〕(1976)である(2001年再販)

この作品は実に面白い作りとなっている
普通、物語は「起承転結」の流れを踏まえて進んでいく

まあ「起」を飛ばして書いたり「承」を飛ばして書いたりする作家は居るが
「転」と「結」はまず書く

ところがこの「どぶどろ」では八編の短編集の様相を呈しているにも係わらず…
「完結しないで進んでいくのである」
お店のお金を集金していて、使いこんでしまった奉公人の話
真面目一徹の大店の主人だった男が中年になり
思いついたかのように放蕩し、夜鳴き蕎麦屋になってしまった話
亭主に先立たれ、自分達の店を乗っ取った男の囲い者になって暮らす女の話
子供の頃から奉公に上がり衣食住をあてがわれ、挙句に妻まであてがわれた男の話
等々、み~んな良いトコロで切れた凧みたいに飛んで行ってしまう
「え~~!こっからが良いトコロじゃろう~」
って所で終わるのである(笑)

ところが…一偏、二編と読み進んで行くと
一偏目に出て居た男が三編目にも出てきたりっと微妙な絡まりが見えてくる
そうして七編目が終わったところで始まるのが
少々長編の八編目「どぶどろ」なのである

この「どぶどろ」では前半七編の短編に登場していた者達が
一人、二人と脇役として登場してくるのだ
長編小説にありがちな一人一人が登場するたびにその人となりを説明しなくても
出てくる人、出てくる人が読者にとっては、既に知った人なのである

読者は見事な手法の網に絡めとられ、食卓にのぼった所で気が付くのである

時代は天明末から寛政の世
銀を取り扱う座人の集まり銀座衆。
銀座衆を束ねている岩瀬伝左衛門に拾われた平吉は背が低くガニ股
「山東京伝」の元で下働きをしながら岡引のような仕事もしている
そのガニ股な容姿で若い女子にはモテナイが
どこか人好きのする20歳の男である

彼が活躍し胸がスカッとするような「捕り物時代劇」っと紹介したいが
実は違う。
偉い人が悪いことをしても地位も名誉も無い人はどうする事も出来ない
押しつぶされて消えてしまうのが落ちである
空に向ってツバを吐いても、ツバが下に落ちて被るのは自分である
そんな事は解っちゃいるんだが…
でも、でも、でも、でも。見て見ないフリをして生きては行けない
知ってしまった以上は言うだけの事は言ってやる
そんな平吉の心情が痛いほど良く出ている作品である

同じく半村良の作品に「およね平吉時穴道行」(1971)という本がある
江戸時代の文人「山東京伝」好きのコピーライターが
京伝の下で働いていた平吉という岡引の日記を手に入れるのだが
どうも京伝の妹「およね」は土蔵に出来たタイムトンネルの穴を伝って
江戸から現代へ来ているらしい…
その「およね」を好きな日記の作者「平吉」も
「およね」を追いかけ現代へ…ってなお話である

「どぶどろ」より遡ること5年前の作品であるが
ココに平吉が登場している
同じ名前に同じ容姿、同じ主従に同じ職業
違うかもしれないし、違わないかもしれない
でも…平吉にこんな別な人生があったかもしれないっと思わせる
半村良独特のSFが5年の空間を越えて堪能できる仕組みになっている(笑)

そうだな~できれば両方読んで欲しいな~
一人の男の別の人生。
これぞSFの最大の魅力だと思うから…(笑)

久々に半村良を懐かしく読んだ
やっぱり面白い。本当に惜しいSF作家を亡くしたの~~。

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