恐らく1992年頃だったと思う。
当時、パリでヨーロッパ駐在員をしていたが、本社から副社長が出張して来ることになった。英国でも日本から輸出した商品を販売していたが British Railways での社品の取り扱いが始まったための現地視察であった。
鉄道を利用して英国北東部にあるダラム大聖堂(DURHAM CATHEDRAL)へ行くことになった。副社長は何度も英国を訪れていたので当時としてはあまり知られていなかった所を選んだのである。
現在もまだ走っているのかどーなのか確認していないが、当時の英国鉄道には食堂車があり、とてもいい雰囲気であった。白のテーブルクロスがかけてあり、テーブルには生花が飾られていた。給仕がメニューを置いていったので車窓の田園風景を眺めながら注文する料理とワインを相談する。高い山はぜんぜんなく低い丘と緑に染まる牧草地帯。とても女性的なラインが続く。
「英国鉄道への売り込みはどーやったのかね。」副社長が訊ねる。
「輸入代理店のPの手柄です。それに社品の商品力。だいぶ業界紙にも取り上げられましたからね。ちょうど伸びる時期に担当させていただきましたから。運が良かったんです。」
「ずいぶん謙虚じゃないかね。いいかね、君。運も実力のうちだ。よし、エールを頼んで乾杯しようじゃないか。」
ダラムに着くころにはワインとエールで出来上がってしまった。
ダラム大聖堂はパリのノートルダムやシャルトルの大聖堂とは違って暗く、不気味な印象であった。お土産に大聖堂の絵が描かれているテーブルマットを求める。
運転する必要がないので鉄道の旅は風景をゆっくりと楽しめる。また近くの住まいや廻りを取り巻く囲いなどの様子が良く分かる。
帰りはロンドンまでうとうとと寝てけば良い。
大事件はロンドンまで後2時間位の所で起こった。切符とパスポートを入れた皮のアタッシュケースの鍵が開かなくなってしまったのだ。
このバッグは1980年にサンフランシスコで買ったものだが左に3桁、右に3桁の数字合計6つの数字が合わないと鍵が開かない構造になっている。当然番号は記憶しているのだが、その時は右の鍵の方が番号通りにしても閉まったままなのだ。
「君、さっきからうるさいが何をやっているんだ。」副社長が目を覚ます。
「はい、すみません。カバンの鍵が開かなくなったのです。」
「どれどれ。なるほど。番号を忘れたのかね。」
「いえ、もー10年以上使っており忘れるはずはありません。」
「じゃ、どーして開かないんだ。」
それはこちらが聞きたいところだが副社長に要らぬ心配をかけても埒はあきません。
「ちょっとど忘れしたのかも知れません。ロンドンまでまだ暫くかかりますのでおやすみになっていて下さい。」
腹を決めた。残された時間で3桁の数字を000から999まですべての数字の組み合わせをトライしてみよう。駄目だったら最後はカバンを壊せばいい。
約30分の必死の努力でパチンと音がして開錠したときの嬉しさは忘れられない。
僕は物にあまり執着しない方と思っていた。車は走れば良い。服は窮屈でなければ良い。その他の物もそーだと思っていたのだが、皮製品だけは違うようだ。そー云えば財布も名刺入れもお気に入りがあり何故かとても大切にしている。あのしっとりとした肌触りが自分の身体の一部になっているような感じがするんですね。
「おい、開いてよかったじゃないか。突然鍵の組み合わせが狂うことがあるのかね。」
「気がついておられたんですか?偶然開いて助かりましたが、このカバン愛着がありましてね。」
「いいカバンじゃないか。開かなかったらどーなるかと思って俺も心配したよ。パスポートが入っているから出してもらわなくちゃ日本へ帰れなくなるからね。壊させたら俺もなんぼかカンパしなくちゃならんからな。ロンドンに着いたらホテルの近くのパブでバッグを壊さずに済んだお祝いにギネスの生でもおごってやるよ。何杯飲まれようがそのバッグに比べりゃ安いもんだ。はっはっは。」
この度、調べてみてダラム大聖堂が世界遺産に登録されていること、「ハリー・ポッター」のホグワーツ魔術学校の撮影に使われたのだと分かりました。今一度あのカバンとともに訪ねたいものです。果たして鍵はまた壊れるのか?
お土産の一枚。すべて違う絵柄の6枚セット。
皮製品のカタログを最近入手。欲しい商品がかなりあったが余裕が出来たら買ってみたいのはこのバッグだ。
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当時、パリでヨーロッパ駐在員をしていたが、本社から副社長が出張して来ることになった。英国でも日本から輸出した商品を販売していたが British Railways での社品の取り扱いが始まったための現地視察であった。
鉄道を利用して英国北東部にあるダラム大聖堂(DURHAM CATHEDRAL)へ行くことになった。副社長は何度も英国を訪れていたので当時としてはあまり知られていなかった所を選んだのである。
現在もまだ走っているのかどーなのか確認していないが、当時の英国鉄道には食堂車があり、とてもいい雰囲気であった。白のテーブルクロスがかけてあり、テーブルには生花が飾られていた。給仕がメニューを置いていったので車窓の田園風景を眺めながら注文する料理とワインを相談する。高い山はぜんぜんなく低い丘と緑に染まる牧草地帯。とても女性的なラインが続く。
「英国鉄道への売り込みはどーやったのかね。」副社長が訊ねる。
「輸入代理店のPの手柄です。それに社品の商品力。だいぶ業界紙にも取り上げられましたからね。ちょうど伸びる時期に担当させていただきましたから。運が良かったんです。」
「ずいぶん謙虚じゃないかね。いいかね、君。運も実力のうちだ。よし、エールを頼んで乾杯しようじゃないか。」
ダラムに着くころにはワインとエールで出来上がってしまった。
ダラム大聖堂はパリのノートルダムやシャルトルの大聖堂とは違って暗く、不気味な印象であった。お土産に大聖堂の絵が描かれているテーブルマットを求める。
運転する必要がないので鉄道の旅は風景をゆっくりと楽しめる。また近くの住まいや廻りを取り巻く囲いなどの様子が良く分かる。
帰りはロンドンまでうとうとと寝てけば良い。
大事件はロンドンまで後2時間位の所で起こった。切符とパスポートを入れた皮のアタッシュケースの鍵が開かなくなってしまったのだ。
このバッグは1980年にサンフランシスコで買ったものだが左に3桁、右に3桁の数字合計6つの数字が合わないと鍵が開かない構造になっている。当然番号は記憶しているのだが、その時は右の鍵の方が番号通りにしても閉まったままなのだ。
「君、さっきからうるさいが何をやっているんだ。」副社長が目を覚ます。
「はい、すみません。カバンの鍵が開かなくなったのです。」
「どれどれ。なるほど。番号を忘れたのかね。」
「いえ、もー10年以上使っており忘れるはずはありません。」
「じゃ、どーして開かないんだ。」
それはこちらが聞きたいところだが副社長に要らぬ心配をかけても埒はあきません。
「ちょっとど忘れしたのかも知れません。ロンドンまでまだ暫くかかりますのでおやすみになっていて下さい。」
腹を決めた。残された時間で3桁の数字を000から999まですべての数字の組み合わせをトライしてみよう。駄目だったら最後はカバンを壊せばいい。
約30分の必死の努力でパチンと音がして開錠したときの嬉しさは忘れられない。
僕は物にあまり執着しない方と思っていた。車は走れば良い。服は窮屈でなければ良い。その他の物もそーだと思っていたのだが、皮製品だけは違うようだ。そー云えば財布も名刺入れもお気に入りがあり何故かとても大切にしている。あのしっとりとした肌触りが自分の身体の一部になっているような感じがするんですね。
「おい、開いてよかったじゃないか。突然鍵の組み合わせが狂うことがあるのかね。」
「気がついておられたんですか?偶然開いて助かりましたが、このカバン愛着がありましてね。」
「いいカバンじゃないか。開かなかったらどーなるかと思って俺も心配したよ。パスポートが入っているから出してもらわなくちゃ日本へ帰れなくなるからね。壊させたら俺もなんぼかカンパしなくちゃならんからな。ロンドンに着いたらホテルの近くのパブでバッグを壊さずに済んだお祝いにギネスの生でもおごってやるよ。何杯飲まれようがそのバッグに比べりゃ安いもんだ。はっはっは。」
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