パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

文科省流・働き方改革『改訂事例集』に見る「改革」の限界

2022年04月12日 | 暴走する都教委
  「モノ言う保護者」の口封じも?
 ◆ 管理統制強化を加速する 文科省流「学校働き方改革」
(紙の爆弾)
取材・文 永野厚男(教育ジャーナリスト)


今年の小池氏"祝辞"。都教委は19年3月卒業式で副校長に読上げ&掲示を、知事選前・20年3月は掲示&生徒に配布を指示。政治的中立性違反の声が多出した。

 文部科学省財務課(村尾崇(たかし)課長)は二月二十五日、「学校働き方改革フォーラム」をオンライン開催した。同フォーラムは「改訂版全国の学校における働き方改革事例集のご紹介~ICTを活用した校務効率化&教員業務支援員活用のポイント」と題する通り、〝改革実践〟三校のドキュメンタリー映像を上映。三校の校長・教諭らによるディスカッションも行なった。
 しかし、この文科省推奨の働き方改革は、〝時間短縮・効率化〟に終始。

 児童生徒に国家主義教育を刷り込み、上意下達の学校作りを謀む行政による〝調査〟・報告書提出強制等、多忙化の元凶を減らす内容はゼロ。
 「児童生徒・保護者はもとより読者にも悪影響が」との心配からレポートする。

 ◆ 文科省流・働き方改革

 ドキュメンタリー映像とほぼ同内容の、『改訂版全国の学校における働き方改革事例集』(二月二十五日に文科省HPで公表。以下『改訂事例集』)所収のレポートから順次、同省がPRしたい内容を紹介する。
 1校目
 福岡県久留米市立篠山(ささやま)小(楢橋閲子校長)は、
 ①児童の出欠席連絡は職員室にいる教頭等が保護者からの電話伝言を各教室のインターフォンを使い担任に伝達
 ②教員への伝達事項はホワイトボードに手書きで記載
 ③特別教室の利用予約も手書きのため予約漏れ・ダブルブッキング等トラブル頻発―だった。
 だが、二〇二一年度から「Google Workspace for Education」を導入、児童・教員とも一人一台の端末を配布し、授業から校務まで幅広くICT化を進め、
 ①はGoogle チャット活用で教頭が担任に「A君は腹痛で欠席」と連絡(インターフォン対応での学級指導中断が減。担任が児童と向き合う時間増)、
 ②は各教員が持つ端末や職員室にあるモニターでいつでも見られ共有、
 ③はGoogleカレンダー活用移行でトラブル減少―等、〝改善〟した。

2校目
 岐阜市教育委員会はアプリ「MicrosoftTeamsforEducation」の入ったタブレットを、二〇年七月に市立中3年全員に、九月に中2~市立小1年全員に配布。授業のオンライン化を進めている。
 導入当初はコロナ下、岐阜市立岐阜中央中(上松英隆校長)は、生徒の学びを止めないことのみを目的に同アプリをグループウェアとして授業で利用してきた。二一年度は「学びを止めない→働き方改革のICT」へ。
 これは「足並みを揃えスタートする必要性」から、上松校長が「職員会議はペーパーレスにする」と方針を明確化。「ペーパーレス化宣言」まで出し、「Teamsのフォルダ共有機能を活用してファイルを共有。フォルダ名を職員会議の日付に統一し、ルール化」と管理職主導で徹底した。
 同校は『改訂事例集』で、「生徒・教師向け等各種アンケートICT化」の〝成果〟を次のようにPR。
 <Before=紙で配布し回収。結果はパソコンに手入力。配布時不在の生徒や紙をなくした生徒の対応にも時間を使った。
After=Formsを使いアンケートを作成・発信し回答を集め、データを自動集計。自分の学級のチームに投稿することで、以前の生徒対応の手間が減った。>
3校目
 文科省は一八年度から各自治体を通じ、公立小中に「教師が一層児童生徒指導・教材研究等に注力できるよう、教師の業務を支援、負担軽減を図る」と称するスクール・サポート・スタッフ(二一年度から教員業務支援員と改称。以下〝支援員〟)の配置を支援。千葉市立加曽利(かそり)中(内山俊雄校長)は一八年度から「当時娘が同校生だった」女性を〝支援員〟に雇用している。週四日勤務の女性の「ある一日」を、『改訂事例集』は次のように紹介。
 <午前8時30分→勤務開始。米倉秀明教頭から業務依頼書を受領。以前から期日設定ある依頼内容と合わせ確認。一日の業務の流れを組む。
 1・2校時目→授業用プリントだけでなく、学校便り各種行事の資料など多種、印刷。
 3・4校時目→自身の机のある事務室で電話対応・書類作成(この日は、生徒が記入した新体力テストの記録を指定業者のシートに鉛筆で転記)。
 5校時~退勤時の15:30→教材準備補助(国語で使う葉書・関連冊子の仕分け、英語で使うカードのラミネート加工)。>
  ◆ 三校の取組みの陥穽

 こうして働き方改革に取り組む三校だが、四点の陥穽(かんせい)を指摘したい。
 ① 篠山小と岐阜中央中は以前から、授業でのICT(情報通信技術)活用を先進的に進めているが、ICTの負の側面への対応が不明だ。
 育鵬(いくほう)社との分裂前の、扶桑社版”新しい歴史教科書をつくる会”系公民教科書は、サッカー元日本代表のラモス瑠偉(るい)氏の手記にある「君が代を聞く。最高だ。武者震いがするもの」等の言葉を引用し、ファンらが巨大な日の丸とともにウェーブする”国威発揚”の写真を載せていた。
 このような改憲”教科書”がデジタル版になれば、動画や写真のリンク等により”愛国心”教化の危険性がますます高まる(詳細は本誌二一年五月号)。政治的中立性が心配だ。
 また、千代田区立麹町(こうじまち)中が工藤勇一校長の在職当時、民間企業と連携し導入した「生徒を正答に導くAI教材」は、全国の学校に広がっている。
 これは正答が一つの数学等では一定の効果があろうが、社会科公民分野の自衛隊・米軍基地等世論の分かれる政治問題の学習で「自衛隊や日米安保条約は合憲。役立つ」という具合に、保守政党や政府見解だけを”正答”だと誘導しないか、要警戒である。
 ② 岐阜中央中で実施のICTアンケートは、生徒向け・保護者向けとも「クーラーやロッカー等、学校施設・設備に関して」の調査なら、○×や数値等での調査・集計は時間節約になり、良いだろう。
 しかし、「道徳の授業は役立つ?楽しい?」「お子さんの学校は道徳教育に熱心に取り組んでいるか」「修学旅行の行き先はどこがいい」等、思想・良心の自由等に関係するテーマでは、ICTでの○×等だけの調査・集計は不適切だ。
 なぜなら、「愛国心や行き過ぎた公共心の強調には反対だが、生命尊重・寛容、国際理解等の道徳教育は大切」と考える人は、○×等で一緒くたに回答できないからだ。
 また、修学旅行の例では、行先の回答だけでなく、たとえば沖縄なら「日本軍の蛮行の歴史と米軍基地の危険性を学ぶため」等の理由を明記したい保護者もいるだろう。生徒・保護者の多様な考え・意見を学校が正確に把握するには、ICT調査の場合も、「自由記述欄」を必ず設け、書かれた意見を校長を含む教員が尊重することが重要だ。
 なお中2の職場体験で、教員が体験先アンケートの選択肢に自衛隊を入れた学校が一部にあった。校長を含む教員は”多忙さ”のあまり、憲法に照らした正常な判断力を失ってはならない。
 ③ 岐阜中央中の職員会議ペーパーレス化への危惧。校長を含む教員が職員会議に出す資料は、分量が多い時もあり、データをしっかり保存できるなら、筆者は電子化を完全には否定はしない。
 しかし近年、少なからぬ国家権力側(教委や校長等)が働き方改革に便乗し、「会議の時間短縮」と称し、職員会議を教委の政策の伝達機関だけの場にしようとしている。職員会議が伝達機関に成り下がってしまうと、たとえば担任教員が、卒業式の”君が代”に反対意見を持つ(起立したくない等の)児童生徒への配慮を、校長や他の教員らに求める等すら難しくなり、学校教育の全体主義化が進んでしまう。
 ④ 前二校に比しICT化・ペーパーレス化が遅れている感のある加曽利中について、『改訂事例集』は”支援員”がすごく役立つ、とPRする。しかし、筆者が首都圏の小中高等の教員約十人に取材すると、「週あたりの授業の持ちコマ数が多すぎ、教材研究やワークシート添削は勤務時間外にやっている。パートのような”支援員”(教員免許を持たず授業はできない)の配置でなく、とにかく国・文科省が正規の教員定数を増やしてほしい」と口を揃える。特に一七年の学習指導要領改訂で、「5・6年生に週ニコマもの教科・英語、3・4年生に週一コマの外国語活動」が入った小学校教員からは、「専科教員を早く全校に配置して!」と悲痛な声が。
 ところで『改訂事例集』は、加曽利中の”支援員”について「一番多い業務は印刷」としている。同校では”支援員”に印刷を依頼するには、教頭の机上の業務依頼書に、「教員名・内容・仕上がり日」等詳細を手書きで記入しなければならない。だが同校は各学年四クラスだ。一般教員が印刷するプリントは、担任作成の学級通信ならわずか三五人分で、教科担当教員の授業用プリントなら、せいぜい一四〇枚(四クラス分)だ。これくらいなら、教員自らが印刷した方が遥かに速い。
 一方、『改訂事例集』が同校の印刷物に挙げている「学校便りや各種行事等の資料」は、主に校長・教頭が作成するもの。となると、”支援員”は一般教員より、主に管理職を楽にするために配置しているのではないか。
 なお東京都教委も後述通り、一般教員ではなく副校長を楽にするだけの学校マネジメント強化事業を二月十七日、HPに載せた。
 ◆ 政治色濃い”調査”ものや報告書が多すぎる

 元文部事務次官の高石邦男氏(二一年九十歳で死去。リクルート事件で逮捕、〇二年最高裁で懲役二年六カ月、執行猶予四年等の有罪判決が確定)が初等中等教育局長だった一九八五年八月二十八日、都道府県等教育長に宛て”徹底通知”を出して以降、旧文部省は入学・卒業式での日の丸掲揚や、「君が代を斉唱した」「メロディだけ流した」等の調査を続けてきた。だが、全国の公立学校で〇二年四月、入学式の”君が代”斉唱の実施率が小・中で九九・九%、高校一〇〇%になったのを機に、文科省はこの調査をようやくやめた(本誌一九年一月号参照)。
 しかし都教委は、そこから二十年経った今年もいまだに、国旗掲揚、”君が代”起立・斉唱の実施状況調査を学校現場に強制している。
 藤井大輔指導部長が今年一月二十五日に出した調査指示文書は、本誌二〇年六月号の画像で暴いた、根掘り葉掘り問う様式とほぼ同じ報告書の提出を、”依頼”と称し強制している。
 しかも卒業・入学式終了後の繁忙な時間なのに、①都立学校校長に対しては「式終了次第(注、直後の意)」と時間指定し、調査統計システムにより当該指導課に宛て、②区市町村教委教育長(小中を管轄)に対しては「式当日午後三時まで」と時間まで指定し、電子メールで都教委義務教育指導課に宛て、報告書を提出せよと強制している(②は重ねて電話報告も要求)。
 しかし都教委は、前述の二月十七日付「令和3年度学校働き方改革」の報告の「学校マネジメント強化モデル事業実施」の項で、「副校長を直接補佐する会計年度任用職員(注・退職した副ヘへ校長等を想定)を配置し、同職員が行政機関からの調査対応や教職員の服務管理、来客対応等の業務を…実施→副校
長の在校等時間が縮減」(下線は筆者)と明記。この副校長補佐要員配置を二二年度は「都立学校134校、小中894校」に拡充すると宣言している。
 こうした児童生徒の教育に有害な政治色の濃い”調査”や報告書作成”対応”の要員を増やしたり、嘘を教える「五輪教育」(五輪憲章は表彰式では各国・地域のNOCの旗・歌を使うと規定。しかし都教委の五輪読本は「国旗・国歌を使う」と嘘を教える)のように次々と増やしてきた”××教育”、さらに管理統制強化の側面も持つ”研修”等の予算こそ大幅削減し、児童生徒のためになる政策を実行する予算に組み替えなければならない。
 そのためには、都議会はもとより衆参両院で立憲主義のリベラル野党の議席を増やして政権を変える、私たちの努力が必要だ。
 ※ 永野厚男(ながのあつお)文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。
コメント    この記事についてブログを書く
« なり手がいない教職。全国で... | トップ | 明けない夜はない(119)<杉... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

暴走する都教委」カテゴリの最新記事