◆ 都立高校改革の破綻
◆ 今春の混乱
この4月の定時制追加募集をめぐる混乱は、新聞やテレビでも何回か報道されました。報道で、中学新卒者が高校から溢れ出た理由として語られているのは、「経済環境の悪化」「不況の影響」など経済的な側面からが専らです。保護者の収入が減り私立に行かせられる家庭が少なくなってきたこと、そこへ公立高校が無償化されたことから公立志向が強まり、定時制でも収容し切れなかったという訳です。
もっともらしく聞こえますが、果たして本当でしょうか。都教委もとても予測できないほど家計の状況が悪化し、まるでゲリラ豪雨のように公立高校志望者が増加したのでしょうか。
◆ 高校就学計画の枠組み
都教委は、毎年10月段階で、私立高校側との確認の上、「高等学校就学計画」を発表しています。翌年3月の公立中学校卒業者に対する、都立高校と私立高校の割り当て(公私比率)を公表するのです。
例年、中学卒業後、高校に進学する者の割合、すなわち計画進学率を96%に設定して高校進学者数を算出し、ここから国立や他府県の高校へ流れる数を差し引いた上で、都立が59.6%、私立が40.4%と割り振ります。この数字はずっと維持されてきました。
但し、これは全日制を対象にした計画上の数字であり、夜間定時制の募集数はここには含まれていません。夜間定時制高校からすれば、全日制高校への進学を補完するものとして位置づけられていることになります。
計画に対する実績で見ると、2004年度は進学率92.3%、都立102.5%、私立87.1%に、2009年度は進学率91.4%、都立102.5%、私立84,1%になります。
多少の波はありますが、この6年間で全日制高校への進学率が僅かに低下する傾向にあること、また都立への進学割合は変わらないけれども、私立の進学割合が3%低下したことが分かります。その分、夜間定時制への進学が増えたことが推測できます。
実際に、午前・午後に授業のある昼間の定時制も含めて、都立定時制全体で新1年生はこの6年間で4136人から4648人へと約500人増加しています。
実は昨年までの段階で、都立の定時制はほぼ定員一杯の状態に達していたのです。
また、就学計画よりも都立が多めに私立が少なめに受け入れている状況は、2004年度以前から長く続いてきたことです。
私立としては、計画枠に満たないからと言って、どんな生徒でも受け入れることはできないという経営上の判断があると、私立中学高校協会の関係者から伺いました。
にわかに私立が計画よりも少なく受け入れるようになった訳ではありません。
ただ、それでも私立への進学割合が少しとはいえ低下する傾向にあるのを見ると、背景に家計の問題があることが推測できます。しかし、この春、どこにも行く高校のない中学新卒者が続出した理由を、経済的な問題にのみ集約できるでしょうか。というのも、昨年度から都立全日制普通科の商校では増学級が進行し、今後も継続すると見込まれているからです。
◆ 都立高校改革推進計画の誤り
この春、都立定時制高校が溢れかえる前に、都立全日制普通科では昨年度14校計15学級(600人)、これに加えて今年度43校44学級(1760人)の「臨時」増学級がありました。
計画進学率も公私比率もこれまでどおりでした。つまり増学級分もこの中に含まれていたのです。
もし、私立を避け都立の志望者が増えると見越したのなら、私立高校側と協議してこの比率を変え、都立の割り当てを増やさなければなりません。そうではありませんでした。
増学級は、2008年度を基準として、2009年度は+1035人、2010年度はさらに+3879人と、都内公立中学卒業予定者が増加したために採られた措置でした。
筆者の当時の勤務校で、校長が教職員に説明するために配布した資料(昨年6月30日付け都立高校改革推進担当作成のグラフ「今後の都内公立中学校卒業者数の増加に伴う臨時増学級について」)によれば、公立中学校卒業者が2009年度からは増減の波があるものの著しく上昇をはじめ、少なくとも2014年度から6年間は今年度以上の増学級の必要が見込まれています。
1997年度に始まる「都立高校改革推進計画」は、高校中退者の増加や少子化の進行を前に、総合学科や単位制の導入など教育課程の弾力化を図る(特色ある学校づくり)と共に、全日制定時制を抱き合わせにして「都立高校の規模と配置の適正化」を図るものでした。
同時に、従来のように職員会議中心の学校運営から、都教委の意を呈した校長中心の学校経営(開かれた学校づくり)への転換が組み合わされていました。
当初計画では、完成年度の2011年度には、全日制208校が178校程度に、103校あった定時制は19校程度が6校の昼間の定時制へと統廃合される予定でした。
「適正規模・適正配置」の根拠となったのは、1996年度の時点で推計した2010年度の都内公立中学3年生の在籍推計でした。この数が計画完成年度である2011年度に高校進学を迎えるからです。
1996年度に90,656人いた公立中学3年生が、この段階で70,214人に減少すると推計されていました。先の計画進学率と公私比率をそのままにして、この内の都立の割り当て分を受け入れられるよう全日制高校を「適正配置」する計画だったのです。
学校の「適正規摸」は、普通科や総合学科は40人学級6クラス3学年で720人、専門学科は35人学級6クラス3学年で630人とされました。
しかし、一昨年からの増学級で、全日制普通科では今や1学年6クラスの高校はほとんどありません。しかもこの状態が決して「臨時」ではなく、今後10年以上にわたって継続することを考えれば、都立高校改革推進計画は、少なくとも「適正規模・適正配置」としては破綻したと言わなければなりません。
しかもこの破綻は、「経済環境の悪化」「不況の影響」によって突発的にもたらされたものではありません。東京において、中学3年生に当たる15歳世代が今後著しい増加傾向を迎えていることに問題の根本があるのです。これは、1990年代後半からの「東京再集中」とよばれる都内の人口増加を背景としたものです。
都道府県間の所得格差の拡大を反映して、バブル期以来の東京圏(特に東京23区内)への人ロ集中が続いてきたのです。従って全国的には少子化が進むものの、東京ではむしろ子どもは増えてきました。そして90年代後半以降東京で生まれた世代が、15年経って続々と高校進学の時期を迎え始めたのです。
都立全日制高校の継続的な増学級はこの事態への対応であり、この春は、それでも吸収しきれず、すでに満杯状態であった定時制高校で溢れかえったと捉えなければなりません。
◆ 計画の強行
では、都教委は、いったい何時の時点でこの増加傾向を認識したのでしょうか。
昨年、増学級に際して配布された資料には、13年先の2022年度の都内公立中学卒業者の推計まで載っていました。これは都教委が作成している『教育人口等推計報告書』に基くものです。こうした報告書が毎年出ていることからも、中卒者の増加傾向が、直前になるまで分からなかったということはあり得ません。
実は、2002年10月に、都立高校改革推進計画の総仕上げとして策定された「新たな実施計画」の報告書において、都内公立中学3年生の在籍推計が、2010年時点で当初見込みから5300人ほど増加することが、図表入りで示されているのです。
計画立案の根拠とされた1996年段階の教育人口推計は、バブル経済崩壊後、東京への人口集中が最も低下した時点のもので、その後の人口増加を踏まえて修正を余儀なくされていたのです。
さらに本文中には「生徒数の推計値の変動への対応が必要となります」と書かれています。
これにともなって「全目制高校の適正化計画の変化」が表として示され、178校程度の当初計画を専門学科から普通科への変更も含めて180校程度に改めています。
しかしこれを先の「適正規模」で考えると、1年生の数としては差し引き約600人の増加に過ぎません。計画進学率96%、公私比率で約6割が都立全日制に進学するものとすると、推計の上では、5300人の内3050人ほどの受け入れ枠を用意しなければならないはずでした。これは1学年240人規模で*約13校の全日制高校に当たります。
また他方で『新たな実施計画』には、夜間定時制高校23校と全日制高校4校を統廃合して、「新たなタイプの昼夜間定時制高校」4校を設置することが追加されました。定時制は全部で55校に集約されることになりました。つまり生徒増に備えて計画を修正するよりも、当初計画をの統廃合をさらに進めて都立高校のリストラを優先したのです。
勿論、都教委による1997年の計画発表時から、都立高校教職員組合の定時制部、保護者や卒業生による定時制を守る会、また全日制該当校の根強い反対闘争がありました。生徒数の長期予測が危ういものであることも指摘されていたのです。にもかかわらず計画は、若干の変更はあるもののさらに拡大して強行されました。その結果が今界の混乱なのです。
◆ 問題はどこにある
300人の定時制追加募集について、4月6日の朝日新聞朝刊には、都教委関係者の説明として「定時制は高校教育の最終的な安全網の役割も果しているため、救済措置が必要と考えた」と載っています。
確かに夜間定時制は全日制に併置されて都内の至る所にあり、高校教育の遊水地のような役割を果たしてきました。定員に満たないことで、全日制中退者や不登校経験者、日本語がまだ十分ではない外国人の若者、あるいは障害のある生徒など、多様な生徒を随時受け入れることができたのです。
都内に100校以上あったその定時制を大幅に整理統合して、どこも定員を溢れるような状態をつくりだしたのは都教委に他なりません。常に定員一杯ではセーフティネットの役割を果たせないのです。
4月9日の東京新聞朝刊では、定時制2次募集で不合格者が多数に上った理由として、「都立高校改革による都立志向の高まり…が考えられる」と都教委の説明が載っています。牽強付会とはこのことでしょうか。
あくまでも定時制の問題に集約して、都内公立中学3年生の増加への対策が不十分であったことを認めないのです。
それは今後もずっと継続するにもかかわらず、全日制の増学級に「臨時」と付けたことともつながっています。「臨時」とすることで、突然の事態に緊急対応しているのだという印象が与えられます。
都立高校改革推進計画が少なくとも数合わせの上では、誤っていたこと、しかもそれを承知しながら強行したことが見えなくなるのです。
同時に根本的な対応よりもその場しのぎの対応がとられることになります。増学級はその際たるものです。
「ハコモノ」である学校を新設するよりははるかにコストはかからないでしょう。しかしその結果、例えば教員の持ち時数や科目は増え、かろうじて残っていたかもしれない職場の余裕が奪われるのです。
さらに全日制の増学級でも対応しきれないとなれば、定時制の増学級、あるいは1学級30人の生徒定員を、国基準の40人に近づけることも予想されないではありません。現在でも都教委は、定時制に定員以上に入学させることを求めているのです。
増学級ならば教員も教室も増やす必要は出てきます。しかし学級定数増だとそうコストはかからないでしょう。
教育人口推計の誤りを認識しながらも計画を強行したこと、増学級に「臨時」をつけていること、定時制に強引な追加募集を命じたことなど、ここに共通しているのは都教委自身の責任を認めない姿勢です。計画破綻の責任をひたすら学校現場に押し付ける態度です。これではますます教職員は疲弊していくに違いありません。
また他方では、高校の受け入れ枠が十分確保されないために、中学生に対する受験圧力はますます高められます。勉強しなければ、少しでもテストの成績をあげなければ、本当に行くところはなくなるよと、保護者も中学校の教員も口をそろえて責め立てざるを得なくなるのです。
しかし、これこそが学校教育に競争と効率化、上意下達の組織編制を求める都立高校改革推進計画の狙いなのです。
『YOU SEE!』(2010/8/28 夏特集号)
元気・勇気・連帯 新しい都高教をめざす会
岡山輝明(稔ケ丘)
◆ 今春の混乱
この4月の定時制追加募集をめぐる混乱は、新聞やテレビでも何回か報道されました。報道で、中学新卒者が高校から溢れ出た理由として語られているのは、「経済環境の悪化」「不況の影響」など経済的な側面からが専らです。保護者の収入が減り私立に行かせられる家庭が少なくなってきたこと、そこへ公立高校が無償化されたことから公立志向が強まり、定時制でも収容し切れなかったという訳です。
もっともらしく聞こえますが、果たして本当でしょうか。都教委もとても予測できないほど家計の状況が悪化し、まるでゲリラ豪雨のように公立高校志望者が増加したのでしょうか。
◆ 高校就学計画の枠組み
都教委は、毎年10月段階で、私立高校側との確認の上、「高等学校就学計画」を発表しています。翌年3月の公立中学校卒業者に対する、都立高校と私立高校の割り当て(公私比率)を公表するのです。
例年、中学卒業後、高校に進学する者の割合、すなわち計画進学率を96%に設定して高校進学者数を算出し、ここから国立や他府県の高校へ流れる数を差し引いた上で、都立が59.6%、私立が40.4%と割り振ります。この数字はずっと維持されてきました。
但し、これは全日制を対象にした計画上の数字であり、夜間定時制の募集数はここには含まれていません。夜間定時制高校からすれば、全日制高校への進学を補完するものとして位置づけられていることになります。
計画に対する実績で見ると、2004年度は進学率92.3%、都立102.5%、私立87.1%に、2009年度は進学率91.4%、都立102.5%、私立84,1%になります。
多少の波はありますが、この6年間で全日制高校への進学率が僅かに低下する傾向にあること、また都立への進学割合は変わらないけれども、私立の進学割合が3%低下したことが分かります。その分、夜間定時制への進学が増えたことが推測できます。
実際に、午前・午後に授業のある昼間の定時制も含めて、都立定時制全体で新1年生はこの6年間で4136人から4648人へと約500人増加しています。
実は昨年までの段階で、都立の定時制はほぼ定員一杯の状態に達していたのです。
また、就学計画よりも都立が多めに私立が少なめに受け入れている状況は、2004年度以前から長く続いてきたことです。
私立としては、計画枠に満たないからと言って、どんな生徒でも受け入れることはできないという経営上の判断があると、私立中学高校協会の関係者から伺いました。
にわかに私立が計画よりも少なく受け入れるようになった訳ではありません。
ただ、それでも私立への進学割合が少しとはいえ低下する傾向にあるのを見ると、背景に家計の問題があることが推測できます。しかし、この春、どこにも行く高校のない中学新卒者が続出した理由を、経済的な問題にのみ集約できるでしょうか。というのも、昨年度から都立全日制普通科の商校では増学級が進行し、今後も継続すると見込まれているからです。
◆ 都立高校改革推進計画の誤り
この春、都立定時制高校が溢れかえる前に、都立全日制普通科では昨年度14校計15学級(600人)、これに加えて今年度43校44学級(1760人)の「臨時」増学級がありました。
計画進学率も公私比率もこれまでどおりでした。つまり増学級分もこの中に含まれていたのです。
もし、私立を避け都立の志望者が増えると見越したのなら、私立高校側と協議してこの比率を変え、都立の割り当てを増やさなければなりません。そうではありませんでした。
増学級は、2008年度を基準として、2009年度は+1035人、2010年度はさらに+3879人と、都内公立中学卒業予定者が増加したために採られた措置でした。
筆者の当時の勤務校で、校長が教職員に説明するために配布した資料(昨年6月30日付け都立高校改革推進担当作成のグラフ「今後の都内公立中学校卒業者数の増加に伴う臨時増学級について」)によれば、公立中学校卒業者が2009年度からは増減の波があるものの著しく上昇をはじめ、少なくとも2014年度から6年間は今年度以上の増学級の必要が見込まれています。
1997年度に始まる「都立高校改革推進計画」は、高校中退者の増加や少子化の進行を前に、総合学科や単位制の導入など教育課程の弾力化を図る(特色ある学校づくり)と共に、全日制定時制を抱き合わせにして「都立高校の規模と配置の適正化」を図るものでした。
同時に、従来のように職員会議中心の学校運営から、都教委の意を呈した校長中心の学校経営(開かれた学校づくり)への転換が組み合わされていました。
当初計画では、完成年度の2011年度には、全日制208校が178校程度に、103校あった定時制は19校程度が6校の昼間の定時制へと統廃合される予定でした。
「適正規模・適正配置」の根拠となったのは、1996年度の時点で推計した2010年度の都内公立中学3年生の在籍推計でした。この数が計画完成年度である2011年度に高校進学を迎えるからです。
1996年度に90,656人いた公立中学3年生が、この段階で70,214人に減少すると推計されていました。先の計画進学率と公私比率をそのままにして、この内の都立の割り当て分を受け入れられるよう全日制高校を「適正配置」する計画だったのです。
学校の「適正規摸」は、普通科や総合学科は40人学級6クラス3学年で720人、専門学科は35人学級6クラス3学年で630人とされました。
しかし、一昨年からの増学級で、全日制普通科では今や1学年6クラスの高校はほとんどありません。しかもこの状態が決して「臨時」ではなく、今後10年以上にわたって継続することを考えれば、都立高校改革推進計画は、少なくとも「適正規模・適正配置」としては破綻したと言わなければなりません。
しかもこの破綻は、「経済環境の悪化」「不況の影響」によって突発的にもたらされたものではありません。東京において、中学3年生に当たる15歳世代が今後著しい増加傾向を迎えていることに問題の根本があるのです。これは、1990年代後半からの「東京再集中」とよばれる都内の人口増加を背景としたものです。
都道府県間の所得格差の拡大を反映して、バブル期以来の東京圏(特に東京23区内)への人ロ集中が続いてきたのです。従って全国的には少子化が進むものの、東京ではむしろ子どもは増えてきました。そして90年代後半以降東京で生まれた世代が、15年経って続々と高校進学の時期を迎え始めたのです。
都立全日制高校の継続的な増学級はこの事態への対応であり、この春は、それでも吸収しきれず、すでに満杯状態であった定時制高校で溢れかえったと捉えなければなりません。
◆ 計画の強行
では、都教委は、いったい何時の時点でこの増加傾向を認識したのでしょうか。
昨年、増学級に際して配布された資料には、13年先の2022年度の都内公立中学卒業者の推計まで載っていました。これは都教委が作成している『教育人口等推計報告書』に基くものです。こうした報告書が毎年出ていることからも、中卒者の増加傾向が、直前になるまで分からなかったということはあり得ません。
実は、2002年10月に、都立高校改革推進計画の総仕上げとして策定された「新たな実施計画」の報告書において、都内公立中学3年生の在籍推計が、2010年時点で当初見込みから5300人ほど増加することが、図表入りで示されているのです。
計画立案の根拠とされた1996年段階の教育人口推計は、バブル経済崩壊後、東京への人口集中が最も低下した時点のもので、その後の人口増加を踏まえて修正を余儀なくされていたのです。
さらに本文中には「生徒数の推計値の変動への対応が必要となります」と書かれています。
これにともなって「全目制高校の適正化計画の変化」が表として示され、178校程度の当初計画を専門学科から普通科への変更も含めて180校程度に改めています。
しかしこれを先の「適正規模」で考えると、1年生の数としては差し引き約600人の増加に過ぎません。計画進学率96%、公私比率で約6割が都立全日制に進学するものとすると、推計の上では、5300人の内3050人ほどの受け入れ枠を用意しなければならないはずでした。これは1学年240人規模で*約13校の全日制高校に当たります。
また他方で『新たな実施計画』には、夜間定時制高校23校と全日制高校4校を統廃合して、「新たなタイプの昼夜間定時制高校」4校を設置することが追加されました。定時制は全部で55校に集約されることになりました。つまり生徒増に備えて計画を修正するよりも、当初計画をの統廃合をさらに進めて都立高校のリストラを優先したのです。
勿論、都教委による1997年の計画発表時から、都立高校教職員組合の定時制部、保護者や卒業生による定時制を守る会、また全日制該当校の根強い反対闘争がありました。生徒数の長期予測が危ういものであることも指摘されていたのです。にもかかわらず計画は、若干の変更はあるもののさらに拡大して強行されました。その結果が今界の混乱なのです。
◆ 問題はどこにある
300人の定時制追加募集について、4月6日の朝日新聞朝刊には、都教委関係者の説明として「定時制は高校教育の最終的な安全網の役割も果しているため、救済措置が必要と考えた」と載っています。
確かに夜間定時制は全日制に併置されて都内の至る所にあり、高校教育の遊水地のような役割を果たしてきました。定員に満たないことで、全日制中退者や不登校経験者、日本語がまだ十分ではない外国人の若者、あるいは障害のある生徒など、多様な生徒を随時受け入れることができたのです。
都内に100校以上あったその定時制を大幅に整理統合して、どこも定員を溢れるような状態をつくりだしたのは都教委に他なりません。常に定員一杯ではセーフティネットの役割を果たせないのです。
4月9日の東京新聞朝刊では、定時制2次募集で不合格者が多数に上った理由として、「都立高校改革による都立志向の高まり…が考えられる」と都教委の説明が載っています。牽強付会とはこのことでしょうか。
あくまでも定時制の問題に集約して、都内公立中学3年生の増加への対策が不十分であったことを認めないのです。
それは今後もずっと継続するにもかかわらず、全日制の増学級に「臨時」と付けたことともつながっています。「臨時」とすることで、突然の事態に緊急対応しているのだという印象が与えられます。
都立高校改革推進計画が少なくとも数合わせの上では、誤っていたこと、しかもそれを承知しながら強行したことが見えなくなるのです。
同時に根本的な対応よりもその場しのぎの対応がとられることになります。増学級はその際たるものです。
「ハコモノ」である学校を新設するよりははるかにコストはかからないでしょう。しかしその結果、例えば教員の持ち時数や科目は増え、かろうじて残っていたかもしれない職場の余裕が奪われるのです。
さらに全日制の増学級でも対応しきれないとなれば、定時制の増学級、あるいは1学級30人の生徒定員を、国基準の40人に近づけることも予想されないではありません。現在でも都教委は、定時制に定員以上に入学させることを求めているのです。
増学級ならば教員も教室も増やす必要は出てきます。しかし学級定数増だとそうコストはかからないでしょう。
教育人口推計の誤りを認識しながらも計画を強行したこと、増学級に「臨時」をつけていること、定時制に強引な追加募集を命じたことなど、ここに共通しているのは都教委自身の責任を認めない姿勢です。計画破綻の責任をひたすら学校現場に押し付ける態度です。これではますます教職員は疲弊していくに違いありません。
また他方では、高校の受け入れ枠が十分確保されないために、中学生に対する受験圧力はますます高められます。勉強しなければ、少しでもテストの成績をあげなければ、本当に行くところはなくなるよと、保護者も中学校の教員も口をそろえて責め立てざるを得なくなるのです。
しかし、これこそが学校教育に競争と効率化、上意下達の組織編制を求める都立高校改革推進計画の狙いなのです。
『YOU SEE!』(2010/8/28 夏特集号)
元気・勇気・連帯 新しい都高教をめざす会
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