◆ 「1円から」当たり前
国会議員の経常経費領収書 「5万円」からでいいの?
政治資金規正法を知らなくたって「ナントカ還元水問題」と言えば、今や子どもたちでも知っている。事務所費、光熱水費など国会議員の「経常経費」は領収書添付も不要な"パラダイス"だ。与党も添付義務を論議し始めたが「一件五万円以上」の条件付き。政治家たちが、こともなげに言う「五万円」の価値とは?
■国会議員の経費領収書は5万円からの是非
まず、問題化した政治資金規正法上の「経常経費」は、どんな費用なのか。
政治資金収支報告書をめくると、政治団体の支出が経常経費と政治活動費に分けて書かれている。
経常経費は事務所費、光熱水費など四項目。事務所費にあたるのは家賃や火災保険料、電話代などとされる。この問題は、光熱水費無料の議員会館にある松岡利勝農相の資金管理団体が、十一年間で四千四百万円の光熱水費を計上していたことなどでクローズアップされた。
同法では、政治活動費を五万円以上使った場合、報告書に支出先や支出目的、金額、月日を記載し、領収書も添付しなくてはならない。
一方の経常経費は、領収書を三年間保存する義務があるだけ。いくら使っても、収支報告書に書いたり、領収書を提出する必要はない。しかも総額は青天井で、何千万円でも計上が可能。「公表したくない金が流れ込んでいるのでは」といわれるゆえんだ。
政治活動費は組織活動費、選挙関係費など六項目からなるが、経常経費との境目はあいまい。
高級クラブやゴルフに使った金はどこに書くべきなのか。食料費や冠婚葬祭費はどの費目になるのか。総務省政治資金課に聞いても「会計責任者が事実に従って支出を分類し、該当項目に記載していただくことになっている。こちらには、中身を判断する権限が与えられていない」と繰り返すばかり。事実上、政治団体側のさじ加減ひとつだ。
■政治活動の妨げ 自民は拒否反応
夏の参院選を控え、自民・公明両党は政治資金改革プロジェクトチームを設置。公明党は四月、一件五万円以上の経常経費(人件費は除く)に領収書の添付を義務付ける改正案骨子をまとめた。
これに対し、自民党内から拒否反応が噴出。事務作業の煩雑化を恐れる声と並び、「会食の場所や日時が分かると、政治活動の自由が妨げられる」という理由が目立つ。
しかし、そもそも政治活動は、政治活動費で賄われるもの。「事務所の維持に通常必要とされる費目」である経常経費にするのは、"虚偽記載"の疑いもあるのだが…。
公明党が「五万円以上」にこだわるのは、政治活動費の公開基準も五万円だから。ちなみに民主党は「1万円以上」に領収書を添付する改正案を出している。こうした案でも一歩前進には違いないが、線引きは各党の妥協の産物。基準額「未満」に小分けして、チェックを免れることもできる。「1円」からすべて収支報告するのが真のガラス張りだが、与野党どこからもそんな声は上がらない。
果たして、国会議員たちは、来月二十三日までの今国会中に、けじめをつけられるのだろうか。
■こんなこと出来ます
ということで、五万円以上の使途は公開されるかもしれないが、ちょっと、ちょっと、ちょっと!五万円以下は「わずかな出費」と片づけていいの?世間一般の五万円の価値とは?
「お父さんの一カ月半のお小遣い」。即答するのは経済ジャーナリストの荻原博子氏。「お小遣いは平均、三、四万。二万円の人もいる。五万ももらう人は、かなり収入がいい。食費でいえば、若い両親と子二人の家族で一カ月四万がスタンダードになりつつある。一般家庭には大金です」
では、もし五万円を自由に使えたら?情報公開に詳しい清水勉弁護士は「うーん、不正にお金を使いたいという動機付けがないからねー」と笑いながら「時間さえあれば近場の旅行に行きたい。韓国も、安い時期なら北海道も鹿児島も行ける。平日のビジネスパックなら、飛行機代と宿泊代付きで北海道も鹿児島も行ける」
漫画家のやくみつる氏は「かなり、うまいもんが食えます。宿泊料金なら、かなり高級な旅館ですよね。日本旅館だけはいいところに行きたいと思っているので、五万円は何年かに一度、「えいや!」と泊まるときの値段。次の間が付いた部屋に泊まれます」。お大臣、もとい、お大尽気分が満喫できるお値段だ。
「世の中には、していい賛沢と悪い督沢があって、何かの機会に張り込んでというのは別として、一人や二人で食べて五万円が高額なことは間違いない」と言うのはジャーナリストの大谷昭宏氏。「四万五千円の接待費を領収書なしで通す会社なんてない。政治家に、会議でコンビニ弁当を食べろという気はないが、五万円以上でいいというのは基本的に社会通念から外れている」
■小分けにすれば結局不問
五万円以上の接待費や交通費を複数の領収書にわけてもらう手口は、政治家でなくてもすぐに思いつく。法改正の効果について清水弁護士は「今までごく一部のお金しか表に出なかったのが少し透明になるということだろうが、変な飲食費を防ぐという意味では機能しない。なぜ五万以上なのか。処理が大変だといっても、政治家が自分でやるわけじゃないでしょ」とチクリ。
荻原氏も「ふざけてます。全部出せばいいじゃないですか。一本五千円のペットボトルなんて飲んでいるから、政治不信につながる。サラリーマンだってあくせく経費の伝票をつけているんだから『手間がかかる』というのは通らない」と一刀両断。
やく氏にいたっては「政治家の先生は、おのれに関する法律を作るときは脱法の道を用意しますからね。当然、五万以下の領収書に分けたらどうなの、と考えてるだろうし、また、その通りのことをやってくださいますからね。巧みにではなく、あからさまに」という達観ぶりだ。
大谷氏は「表に出せない経費」に一定の理解は示しつつも、大阪府知事時代の横山ノック氏から聞いた話を明かす。あるとき、ノック氏は、有能な官僚を副知事に口説こうと、東京・赤坂の料亭で一席設けた。「これは領収書では処理できない」とノック氏は言った。口説かれたとばれるだけで相手の出世に響くからだ。
「じゃあ、知事を辞めて十年後に公開すればいい、それなら相手に迷惑をかけない、と知事には話した。有名無実な金額の基準よりも、内容によって五年後、十年後、二十年後に公開する、と決めればいい。人間には恥じらいやプライドがある。八十歳を過ぎて勲章をもらったころに、愛人と食事したときの領収書が出てくる制度なら不正はしなくなる。大したこともせずに五千円の還元水をガバガバ飲んだことが二十年後に明らかになったら『これが本当の水増し』と赤っ恥かくからね」
≪デスクメモ≫
公表すると政治活動の自由が阻害されるって?ちょっと待った。誰とどう付き合ってるかも、投票のポイントなんだから。そんなに、こそこそしたいかなあ。やつぱ、おいしい思いしてんでしょ。はいはい、自浄作用に期待した私がばかでした。検事さーん、そろそろ国会の大掃除、頼みますわ。(隆)
『東京新聞』(2007/5/3こちら特報部)
国会議員の経常経費領収書 「5万円」からでいいの?
政治資金規正法を知らなくたって「ナントカ還元水問題」と言えば、今や子どもたちでも知っている。事務所費、光熱水費など国会議員の「経常経費」は領収書添付も不要な"パラダイス"だ。与党も添付義務を論議し始めたが「一件五万円以上」の条件付き。政治家たちが、こともなげに言う「五万円」の価値とは?
■国会議員の経費領収書は5万円からの是非
まず、問題化した政治資金規正法上の「経常経費」は、どんな費用なのか。
政治資金収支報告書をめくると、政治団体の支出が経常経費と政治活動費に分けて書かれている。
経常経費は事務所費、光熱水費など四項目。事務所費にあたるのは家賃や火災保険料、電話代などとされる。この問題は、光熱水費無料の議員会館にある松岡利勝農相の資金管理団体が、十一年間で四千四百万円の光熱水費を計上していたことなどでクローズアップされた。
同法では、政治活動費を五万円以上使った場合、報告書に支出先や支出目的、金額、月日を記載し、領収書も添付しなくてはならない。
一方の経常経費は、領収書を三年間保存する義務があるだけ。いくら使っても、収支報告書に書いたり、領収書を提出する必要はない。しかも総額は青天井で、何千万円でも計上が可能。「公表したくない金が流れ込んでいるのでは」といわれるゆえんだ。
政治活動費は組織活動費、選挙関係費など六項目からなるが、経常経費との境目はあいまい。
高級クラブやゴルフに使った金はどこに書くべきなのか。食料費や冠婚葬祭費はどの費目になるのか。総務省政治資金課に聞いても「会計責任者が事実に従って支出を分類し、該当項目に記載していただくことになっている。こちらには、中身を判断する権限が与えられていない」と繰り返すばかり。事実上、政治団体側のさじ加減ひとつだ。
■政治活動の妨げ 自民は拒否反応
夏の参院選を控え、自民・公明両党は政治資金改革プロジェクトチームを設置。公明党は四月、一件五万円以上の経常経費(人件費は除く)に領収書の添付を義務付ける改正案骨子をまとめた。
これに対し、自民党内から拒否反応が噴出。事務作業の煩雑化を恐れる声と並び、「会食の場所や日時が分かると、政治活動の自由が妨げられる」という理由が目立つ。
しかし、そもそも政治活動は、政治活動費で賄われるもの。「事務所の維持に通常必要とされる費目」である経常経費にするのは、"虚偽記載"の疑いもあるのだが…。
公明党が「五万円以上」にこだわるのは、政治活動費の公開基準も五万円だから。ちなみに民主党は「1万円以上」に領収書を添付する改正案を出している。こうした案でも一歩前進には違いないが、線引きは各党の妥協の産物。基準額「未満」に小分けして、チェックを免れることもできる。「1円」からすべて収支報告するのが真のガラス張りだが、与野党どこからもそんな声は上がらない。
果たして、国会議員たちは、来月二十三日までの今国会中に、けじめをつけられるのだろうか。
■こんなこと出来ます
ということで、五万円以上の使途は公開されるかもしれないが、ちょっと、ちょっと、ちょっと!五万円以下は「わずかな出費」と片づけていいの?世間一般の五万円の価値とは?
「お父さんの一カ月半のお小遣い」。即答するのは経済ジャーナリストの荻原博子氏。「お小遣いは平均、三、四万。二万円の人もいる。五万ももらう人は、かなり収入がいい。食費でいえば、若い両親と子二人の家族で一カ月四万がスタンダードになりつつある。一般家庭には大金です」
では、もし五万円を自由に使えたら?情報公開に詳しい清水勉弁護士は「うーん、不正にお金を使いたいという動機付けがないからねー」と笑いながら「時間さえあれば近場の旅行に行きたい。韓国も、安い時期なら北海道も鹿児島も行ける。平日のビジネスパックなら、飛行機代と宿泊代付きで北海道も鹿児島も行ける」
漫画家のやくみつる氏は「かなり、うまいもんが食えます。宿泊料金なら、かなり高級な旅館ですよね。日本旅館だけはいいところに行きたいと思っているので、五万円は何年かに一度、「えいや!」と泊まるときの値段。次の間が付いた部屋に泊まれます」。お大臣、もとい、お大尽気分が満喫できるお値段だ。
「世の中には、していい賛沢と悪い督沢があって、何かの機会に張り込んでというのは別として、一人や二人で食べて五万円が高額なことは間違いない」と言うのはジャーナリストの大谷昭宏氏。「四万五千円の接待費を領収書なしで通す会社なんてない。政治家に、会議でコンビニ弁当を食べろという気はないが、五万円以上でいいというのは基本的に社会通念から外れている」
■小分けにすれば結局不問
五万円以上の接待費や交通費を複数の領収書にわけてもらう手口は、政治家でなくてもすぐに思いつく。法改正の効果について清水弁護士は「今までごく一部のお金しか表に出なかったのが少し透明になるということだろうが、変な飲食費を防ぐという意味では機能しない。なぜ五万以上なのか。処理が大変だといっても、政治家が自分でやるわけじゃないでしょ」とチクリ。
荻原氏も「ふざけてます。全部出せばいいじゃないですか。一本五千円のペットボトルなんて飲んでいるから、政治不信につながる。サラリーマンだってあくせく経費の伝票をつけているんだから『手間がかかる』というのは通らない」と一刀両断。
やく氏にいたっては「政治家の先生は、おのれに関する法律を作るときは脱法の道を用意しますからね。当然、五万以下の領収書に分けたらどうなの、と考えてるだろうし、また、その通りのことをやってくださいますからね。巧みにではなく、あからさまに」という達観ぶりだ。
大谷氏は「表に出せない経費」に一定の理解は示しつつも、大阪府知事時代の横山ノック氏から聞いた話を明かす。あるとき、ノック氏は、有能な官僚を副知事に口説こうと、東京・赤坂の料亭で一席設けた。「これは領収書では処理できない」とノック氏は言った。口説かれたとばれるだけで相手の出世に響くからだ。
「じゃあ、知事を辞めて十年後に公開すればいい、それなら相手に迷惑をかけない、と知事には話した。有名無実な金額の基準よりも、内容によって五年後、十年後、二十年後に公開する、と決めればいい。人間には恥じらいやプライドがある。八十歳を過ぎて勲章をもらったころに、愛人と食事したときの領収書が出てくる制度なら不正はしなくなる。大したこともせずに五千円の還元水をガバガバ飲んだことが二十年後に明らかになったら『これが本当の水増し』と赤っ恥かくからね」
≪デスクメモ≫
公表すると政治活動の自由が阻害されるって?ちょっと待った。誰とどう付き合ってるかも、投票のポイントなんだから。そんなに、こそこそしたいかなあ。やつぱ、おいしい思いしてんでしょ。はいはい、自浄作用に期待した私がばかでした。検事さーん、そろそろ国会の大掃除、頼みますわ。(隆)
『東京新聞』(2007/5/3こちら特報部)
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