37歳で夭折した韓国の映画作家ハ・ギルチョン(河吉鐘 1941-1979)の代表作『馬鹿たちの行進』(1975)を、学生時代以来久しぶりに再見した。37歳での死というのはまさにライナー・ヴェルナー・ファスビンダーと同じ享年であるが、その作風もどこか共通する点もなくはない。狂騒感とその裏腹の倦怠感。合コンで知り合った大学生カップルたちの愚行を追った『馬鹿たちの行進』は、単なる明朗快活な青春映画ではない。UCLA映画学科でフランシス・F・コッポラの後輩学生だったハ・ギルチョンによる、1970年代の閉塞せる韓国社会の自画像である。泥酔した大学生が帰りそびれて警察に逮捕されるという、他の国では見られない珍しい戒厳令の様子がリアルタイムで描かれる。
主人公の大学生ピョンテと合コンで知り合った女子大生ヨンジャの恋の進展は、はかばかしくない。泥酔に終わるダブルデート、ミスで敗れるサッカー大会、学部対抗のイッキ飲み大会など、大学生の滑稽な日常がさしたる脈絡もなく語られ、最後には親友の自殺、徴兵による主人公の入隊で、青春の時間は不意に終わりを迎える。検閲でめった斬りにされた本作だが、それでも「社会の矛盾が遠回しに表現された」とも評された。ハ・ギルチョンに関する秀逸な言及は、四方田犬彦の『われらが〈他者〉なる韓国』にあったか、それとも『リュミエールの閾』だったか。私は大学生当時、その文章を熱狂しながら読んだ思い出があるが、現在は両書とも手元にはない。それにしても、本作に写るソウルの街並みは、とても現在のソウルと同じ街とは思えないほどみすぼらしい。本作の続編にしてハ・ギルチョンの遺作となる『ピョンテとヨンジャ』(1979)もいつかまた、再見できる日が来るだろうか?
この『馬鹿たちの行進』『ピョンテとヨンジャ』は共にチェ・イノ(崔仁浩)の原作・脚本である。チェ・イノはまた、1980年代の韓国映画をリードしたペ・チャンホ監督の『鯨とり コレサニャン』『ディープ・ブルー・ナイト』『天国の階段』の原作・脚本家でもある。民主化以前の鬱々たる韓国の青春映画ジャンルは、チェ・イノなくして語れまい。
ついでに言い足しておくと、イム・グォンテクの傑作で、韓国映画史上の傑作でもある『族譜』(1978)で主人公の日本人役人を演じた俳優のハ・ミョンジュンは、ハ・ギルチョンの弟である。ミョンジュンは兄の死後、兄の遺志を継いで監督に進出している。世代交代の波が苛酷で、ベテラン監督がすぐに過去の遺物扱いを受けてしまう韓国映画界で、今なおかろうじて活動し得ている数少ない人だが、傑作の誉れ高い『胎(テ)』(1985 ビデオ邦題『愛に流されて』)は残念ながら未見である。韓国文化院への要望として、こんどはこのハ兄弟の特集をやっていただきたい。
韓国文化院(東京・四谷)の〈1960・1970年代日韓名作映画祭〉にて上映
http://www.koreanculture.jp/
主人公の大学生ピョンテと合コンで知り合った女子大生ヨンジャの恋の進展は、はかばかしくない。泥酔に終わるダブルデート、ミスで敗れるサッカー大会、学部対抗のイッキ飲み大会など、大学生の滑稽な日常がさしたる脈絡もなく語られ、最後には親友の自殺、徴兵による主人公の入隊で、青春の時間は不意に終わりを迎える。検閲でめった斬りにされた本作だが、それでも「社会の矛盾が遠回しに表現された」とも評された。ハ・ギルチョンに関する秀逸な言及は、四方田犬彦の『われらが〈他者〉なる韓国』にあったか、それとも『リュミエールの閾』だったか。私は大学生当時、その文章を熱狂しながら読んだ思い出があるが、現在は両書とも手元にはない。それにしても、本作に写るソウルの街並みは、とても現在のソウルと同じ街とは思えないほどみすぼらしい。本作の続編にしてハ・ギルチョンの遺作となる『ピョンテとヨンジャ』(1979)もいつかまた、再見できる日が来るだろうか?
この『馬鹿たちの行進』『ピョンテとヨンジャ』は共にチェ・イノ(崔仁浩)の原作・脚本である。チェ・イノはまた、1980年代の韓国映画をリードしたペ・チャンホ監督の『鯨とり コレサニャン』『ディープ・ブルー・ナイト』『天国の階段』の原作・脚本家でもある。民主化以前の鬱々たる韓国の青春映画ジャンルは、チェ・イノなくして語れまい。
ついでに言い足しておくと、イム・グォンテクの傑作で、韓国映画史上の傑作でもある『族譜』(1978)で主人公の日本人役人を演じた俳優のハ・ミョンジュンは、ハ・ギルチョンの弟である。ミョンジュンは兄の死後、兄の遺志を継いで監督に進出している。世代交代の波が苛酷で、ベテラン監督がすぐに過去の遺物扱いを受けてしまう韓国映画界で、今なおかろうじて活動し得ている数少ない人だが、傑作の誉れ高い『胎(テ)』(1985 ビデオ邦題『愛に流されて』)は残念ながら未見である。韓国文化院への要望として、こんどはこのハ兄弟の特集をやっていただきたい。
韓国文化院(東京・四谷)の〈1960・1970年代日韓名作映画祭〉にて上映
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