荻野洋一 映画等覚書ブログ

http://blog.goo.ne.jp/oginoyoichi

『マッハ!無限大』 プラッチャヤー・ピンゲーオ

2015-01-19 23:59:01 | 映画
 タイのスター、トニー・ジャー主演のムエタイ活劇『トム・ヤン・クン!』(2005)の続編『マッハ!無限大』が、まもなく日本公開される。トニー・ジャーは往年のジャッキー・チェンのように小柄な体と親しみやすい顔を持ち、スタント抜きのアクションを持ち味とする。タイトルに「マッハ!」と入っているが、初期作品『マッハ!』(2003)とはストーリー上の関連はない。主演トニー・ジャー、監督プラッチャヤー・ピンゲーオ、アクション監督パンナー・リットグライのトリオによる同工異曲と言おうか、正直言って『トム・ヤン・クン!』を未見の私からすると、どれがどれであろうと何の問題もない。
 前作『トム・ヤン・クン!』も、主人公の可愛がっていた象が盗まれることからストーリーが始まるそうだが、今作でも再び、象が動物密輸組織の陰謀によって盗まれる。まずマフィアみたいな一行が、田舎に住む主人公(トニー・ジャー)のもとにやってきて、「大金を出すから、その象を譲ってくれないか」と迫る。主人公が断ると、一行はいったん引き下がるが、主人公が何かの用事で家を離れた隙に、かんたんに象を盗んでいくのである。
 まるで象という動物が映画においては盗まれるために存在しているかのごとく、とにかく盗まれる(主人公が何かの用事をおこなうのは、象を盗んでもらうためであるかのように)。そして、これでストーリーは終わりなのである。上映開始数分も経過していないだろう。主人公の愛象(?)が盗まれた。彼は象を取り返すための旅に出る。あとはもう、旅の先々で、動物密輸にからむ組織の戦闘員と肉弾アクションを展開するのみである。盗まれた象は、この無償のアクションの持続を作動させるための「百万両の壺」ということになるが、古今東西のすぐれた作品で扱われたマクガフィンのようにはうまく扱われていない。
 この安直さを補って余りある超絶的なアクションの連続に、私たち観客は立ち会う。主人公を伯父の仇と勘違いした可憐なムエタイ少女が戦いを挑んでくるが、いつの間にやら組織相手に共闘している。私のような門外漢的な観客からすれば、少女はもっとツンデレであってほしいし、トニー・ジャーとラヴシーンのひとつくらい披露してほしいと思ってしまうが、私の知らない原則によって、そんな甘っちょろいシーンは除外されていったのだと推測される。象を盗む組織、盗まれた象を取り返す青年、伯父の仇を討つ少女──彼らにはひとつずつの行動原理しか与えられない。


2/14(土)より新宿武蔵野館ほか全国で公開予定
http://mach-infinite.com