荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『ハッピー・イヤーズ』 ダニエレ・ルケッティ@東京国際映画祭

2013-10-21 03:04:06 | 映画
 東京国際映画祭のコンペティション部門、ダニエレ・ルケッティの『ハッピー・イヤーズ』。作者の両親をもとに産みだされたカップル像──グイドとセレーナ──が、1970年代のローマという場所でいかにして愛しあい、傷つけあったか。祖母よりプレゼントされたキヤノン製スーパー8カメラを持った少年(作者の自画像)の視点から見えてくる男と女の容赦のない性的肖像といったところである。
 ミラノ在住の辛辣な美術評論家との確執と、ラスト近くの和解の経緯が非常にいい。『君の不在』と名づけられた、肥大化し、横たわり、絶え間なく涙のようなミストを浴び続ける粘土の像が、見る者の心に響く。夫としても、子どもの父親としても、ひとりの美術作家としても、いずれにおいても未熟なまま苦悶する夫(キム・ロッシ・スチュワート)は、いったいどこへ行くのか? 少年はおそらく、自分が父母の決定的別離を促す映像を撮ってしまい、それを家庭で試写することによって重大な局面を作り出したことに気づいてはいない。
 作者の師匠であるナンニ・モレッティのように、映画表現の限界を食い破るほどの過激さは持たないまでも、フィルム撮影への敬意──フィルムを回すことによって何かが撮れてしまうということへの恐れ──にどこまでも忠実たらんとするルケッティの姿勢に好感が持てる。