荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『おとなのけんか』 ロマン・ポラニスキ

2012-02-24 00:41:43 | 映画
 先日『反撥』(1964)をWOWOWで放送していて、途中からの「ながら見」だったが、だんだん心配となりカトリーヌ・ドヌーヴの動きから目が離せなくなってしまった。ロマン・ポラニスキは意外と偉大な監督なのではないか。見る者を唸らす前作『ゴーストライター』の公開からわずか半年、この人の新作が早くも見られるというのは何かの間違いではない。
 ところがこの『おとなのけんか』は1セットドラマで、上映時間がたったの79分。しかも、ニューヨーク・ブルックリン区のアパートメントを舞台にした戯曲の映画化などと言いつつ、1カットたりともニューヨークでロケされてなどいない。まったくいい加減なものだが、だいいち監督本人が性犯罪のかどで指名手配されており、もしアメリカに入国すればたちまちブタ箱入りになってしまうのだから、どうしようもないのである。クレジットによれば、パリ東郊ヴァル=ドゥ=マルヌ県内のスタジオで撮られたらしい。ブルックリンらしき風景や住民も少しは出てくるが、B班監督が任されて撮ってきたのだろう。あるいはひょっとすると、ああいうものもCGなのだろうか。
 私はよく、「映画の理想は90分」などとゴダール気取りで倫理的なことを周囲の仲間に振りかざして空威張りしているのだが、ポラニスキはきっとそういう人間をあざ笑っているのだと思う。『おとなのけんか』の79分というのは、プログラム・ピクチャーの伝統を忘却しないオーセンティックな振舞いなのではまったくなく、過激なまでに長尺の短編として構想されているのだ。
 しっくりこないのが邦題である。『リバー・ランズ・スルー・イット』『イングロリアス・バスターズ』のような訳の分からぬカタカナの羅列も気に食わないが、『おとなのけんか』というような過度にローカライズされた邦題はどうも苦手である。


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