荻野洋一 映画等覚書ブログ

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木村威夫 逝去

2010-03-25 17:19:50 | 映画
 映画美術界の偉大なる至宝、木村威夫が、21日午前5時46分、間質性肺炎のため、東京都内の病院で死去した(きょうのasahi.comより)。91歳だった。

 虚実が光と影のごとく戯れる木村美術の凄み。今はただ、それらの豊饒なイメージが、わが狭小なる脳内を猛スピードで駆け抜けていくばかりである。また、私自身の人生において重要な局面で登場され、しばらくご一緒する日々も持てた。今となってみると今生の別れとなってしまった、あの、1994年夏の日活撮影所食堂での会話は、濃密な記憶として、私自身の青春の最期の時間として、生涯消えぬことであろう。

 美術監督としての偉大さは言うに及ばず、最近の木村は監督業にも精を出しており、昨年暮れに公開されたばかりの『黄金花 秘すれば花、死すれば蝶』が、残念ながら遺作ということになってしまった。これは、もっと予算が付けばと悔やまれるのは確かであるものの、それでも私は素晴らしい作品であると思う。雑誌「映画芸術」最新号のベストテンで、孤独に2位に推挙してみたが、本作に投票している選者は他に岩本光弘さん(9位)のみという、はなはだ淋しい結果に終わってしまった。
 『黄金花』は、牧野富太郎へのオマージュであると同時に、木村自身の壮絶にしてたおやかなる遺言であり、映画の色彩と美そのものへの讃歌である。