観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

星をみつけた

2014-03-09 17:23:47 | 14
4年 笹尾美友紀

 大学生活を振り返ってみると、いろいろな思い出が溢れだしてきた。私が麻布大学に入学したのは、「動物が好き」「野生動物の保全に携わりたい」と思ったからであった。しかし大学に入って周りを見回してみると、イヌの種類をペラペラ喋る人、動物園の動物の展示の順番をほぼ正確に覚えている人、大好きな動物を見るために全国飛び回っている人など、並外れた動物好きがわんさかいた。そんな人たちの中では、私の「動物が好き」という気持ちはミドリムシぐらい小さなもので、いつしか自分が本当に動物を好きなのか分からなくなってしまっていた。
 そんな私が大学生活の中で一番熱くなれたのは、野生動物学研究室に入って出会った、テンナンショウという奇妙な植物だった。動物応用科学科なのに植物、しかも聞いたこともない変な植物。研究室に入室して研究テーマについて話しあっていたとき、高槻先生が発した「アイデアがあります。」の一言で、私の世界はがらっと景色を変えた。テンナンショウという植物について紹介された文を読み進めるうちに、鳥肌がたち、胸が高鳴り、今までにないくらいわくわくした。すごい面白そうな植物だ、やってみたい、でもこんな凄そうなの自分がやっていいんだろうか?自分にできるんだろうか?・・・でもやりたい!!!
 それからというもの、テンナンショウを見たいがためにいろいろな場所に出かけた。調査地であるアファンの森でも、どんな変化も見逃すまいとテンナンショウを見つめ続けた。テンナンショウの隣に座りこんで「休憩」という名のサボりもたくさんした。苦手な英語の論文も頑張って読んで、それでも分からない不思議な現象をたくさん見た。知りたいことが多すぎて、軸とはぶれたデータもたくさんとった。
 気づけば、私の頭の中も隣にも、いつもテンナンショウがいた。テンナンショウのことを考えるとわくわくが止まらないし、あれも知りたい、これも知りたいと欲張りになった。そして「いつかテンナンショウの生活史の謎を暴いてやる」というこれからもずっと追いかけたい夢も生まれた。もうきっとテンナンショウに出会う前の私には戻ることはできないし、戻るつもりもない。
 この二年間を振り返って、私は学問的にも人間的にも少し成長できたように感じている。それには頼れる先輩といつも自分のことを思ってくれる友人たちの存在が大きいと思う。わくわくする楽しさ、周りを見ることの大切さ、人を思いやる難しさ、人に感謝してそれを伝えることの大切さ。先輩たちからは自然に対する考え方だけでなく、たくさんのことを教えていただいた。友人たちとは厳しいことを言い合ったりもしたけれど、「相手のため」という気持ちが大前提にあった。野生動物学研究室では、素晴らしい研究対象に出会えただけでなく、素敵な人たちに囲まれることができた。本当に濃くて、幸せで、わくわくした二年間だった。



「テンナンショウに引き合わせたのはよかったのか?」
 送別会のときにいただいた、色紙に書かれている高槻先生の言葉はその一言だけだった。この文章が、先生からの問いへの返事になるでしょうか。
 この文章を書いている今、あっという間に就職先の研修が始まって、卒業という気分を味わう間もなく、次に向かって歩み出してしまった。学生時代の思い出も、テンナンショウへの想いも、まだうまくまとまっていない。将来もうまく思い描けないけれど、天南星(テンナンショウ)は漢字の通り、天に浮かぶ星として、私の夢へと続く道をしっかりと示してくれているように思う。
 研究室で過ごした二年間のように、いつかみんなでまた集まってわいわいと語り合いたい。そして相手の考えに厳しく意見をするけれど、互いを尊重して、終わったらまたすぐに笑いあえるような関係をこれからもずっと続けていきたい。この二年間に私と出会い、暖かく見守ってくださり、たくさんのお言葉をくださったすべてのみなさまに。ありがとうでは足りないありがとうを。

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