観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

心に響く発表

2014-03-14 23:01:31 | 14
 2014年3月13日にアファンの森の報告会があり、麻布大学でも1年間の成果を報告しました。黒姫はまだ1m近い雪の中でした。



 ニコルさんはプレゼンテーションということにとてもきびしくて、今回の最初のあいさつもそのことでした。本人がおもしろいと思って調査するのはかまわないが、それを人に伝えないといけない。日本のシンポジウムなどで画面に書いた文章を読む研究者が多くて困るというようなことでした。
 事前に学生には聞く人を見ながら話すようにということと、最後に一言感想を言うようにと頼んだだけだったので、どうなるかと少し心配がありました。
 3年生からはじまり、岩田さんがタヌキの糞分析と種子散布の話をし、四季の変化が印象的だったことを話しました。望月さんは国有林の間伐の話をして、「嫌われ者」の人工林の再評価を訴えるように分析結果と今後の計画を話しました。スライドに英語が添えてあって、ニコルさんが「ぼくのために英語をつけてくれたの?やさしいなぁ」とよろこんでいました。彼は私の隣にいたのですが、その段階で「発表がうまいよなぁ」とご機嫌でした。
 小森君はカエルの生息地と食性を紹介しましたが、糞をさせて分析したことにまずみんなが驚き、顕微鏡写真で「これがカマドウマの胴体です。これがガガンボの脚です」というと歓声があがっていました。カエルを丁寧に扱わないといけないことや、自分は本やテレビでしか動物を知らなかったので、野外でカエルをじかにみて調べられたことのすばらしさを話してくれました。
 ニコルさんがつぶやきました。
「Excellent!」
 萩原さんはもちまえの笑顔で、明るい調子でクルミの話をして、笑いをとっていました。日本語なしの英語のスライドがでてきたので、あわてました。最後に、調べてみてリスの立場、ネズミの立場などいろいろ違う立場でみると、同じ現象が違ってみえたことのおもしろさを話しました。
 笹尾さんはテンナンショウの袋がけ実験とポリネータの話をして、ふつうポリネータといえばきれいな花と華やかなチョウやハチを思い浮かべるが地味なテンナンショウとキノコバエのことを調べてしらない世界を知ったことのよろこびを伝えてくれました。最後に謝辞がありましたが、ふつう謝辞といえば名前がずらずらと並ぶだけですが、笹尾さんのは、この人にはこういうことでお世話になったということが、ちょっとユーモアをまじえて書いてあり、見た人はうれしかったと思います。
 終わってからはおいしいイノシシのスープと鹿肉の料理をごちそうになり、ワインや南極の氷で割ったウィスキーなどもいただきました。4年生はニコルさんに色紙を書いてもらったりしていました。
 そこでもニコルさんが力説していました。
「今日の学生の発表がすばらしかったのは、調べたことの内容もあるが、自分の気持ちや考えを言ったことだ。人の心に訴えるのは最後は事実そのものではなく、心だ。」と。
 これに対して自然科学者として単純にイエスとはいえないのですが、私くらいの年齢になるとそれはよくわかります。調べた事実が、調べ手にとってどういう意味を持つかということです。そのことは演繹的であってはならず、強引であってもいけません。萩原さんはリスが好きですから、リスがクルミ散布に貢献しているという結果が出ればうれしかったでしょうが、実際には暗い林に持ち込むことが多く、クルミには迷惑だという結果でした。また小森君が調べたらこれまでツチガエルはアリを好んで食べるといわれていたのに、そういうことはありませんでした。それはそう記述しなければなりません。事実としての結果が最も重要です。
 しかし、ただ事実を放り投げるような発表が聞く人の心に響かないのは確かです。研究成果の発表は人の心を打つために発表しているわけではないのですが、みんなの調べることへの熱意や、調べたことで自分の見方が変わったと伝えることが、聞く人に強い印象を残したようです。
 ニコルさんは別のことも話してくれました。大きな大学と協定を結んで講義をしたりしたが、うまくゆかないところもあれば、まずまずのところもあった。でも、麻布大学ほどうまくいった例はない。この数年間の麻布大学の学生の調査活動はあらゆる意味でほんとうにしばらしい。調査も熱心だし、礼儀正しいし、なにより生き物が好きで楽しみながら森に来てくれている。これからも続けてほしい、と。



大きな問題への小さな貢献 ― カモシカを調査して ―

2014-03-09 23:07:32 | 14
4年 朝倉 源希

 大学入学当初、私は野生動物の農業被害に興味を抱いていた。農業被害に関するニュースを見て、動物が暮らしていた森を人間が切り開いて利用しているのに、そこに暮らしていた動物が被害を出す害獣として駆除されることに違和感を感じていたためである。一方でこの問題は農家の方々の生活だけでなく、我々の食への影響も絡んでおり、簡単には解決することが出来ないことも理解していた。それでも、この問題に対して自分の出来る範囲で少しでも役立ちたいという思いから、研究室は野生動物学研究室を志望した。
 そこで私は卒業研究のテーマをキャベツで有名な群馬県の嬬恋村の耕作地付近に住むニホンカモシカについて調べることになった。ここではアンケート調査の結果、被害の原因は主にカモシカによるものといわれ、過去5年で70頭ものカモシカが駆除されている。それで被害がなくなっているのなら、かわいそうだがしかたがないと思うが、被害面積は依然として高いままなのである。私は天然記念物であるカモシカが駆除されているのを知って驚くと当時に、本当に駆除しないといけないのか、駆除しないでも解決する方法はないのだろうかと考えた。私はカモシカが耕作地に出るのは林内の食物が少ないからではないかと考え、耕作地付近に暮らしているカモシカが森林よりも耕作地を好んで利用しているかどうかと、そのことと食物供給量は関係しているのかどうかをあきらかにしたいと考えた。そして、2個体のカモシカを対象に、耕作期間(5~11月)の昼夜連続した追跡調査と生息地の食物供給量の測定を行なった。
 食物供給量は予想通り林内が少なく、耕作地のほうが4倍以上も多かった。だが、カモシカは、1個体は春は耕作地を利用せず、夏も秋も利用度は低かった。もう1個体は耕作地を一切利用せず、耕作放棄地は夏には選択的に利用したが、秋はあまり利用しなかった。林内には植物が少なかったとはいえ、飼育カモシカの最大食物摂取量の16.5倍もの食物があり、カモシカにとって食物は十分あることもわかった。
 また2個体とも耕作地への侵入時間は夜間に多かったことから、人との接触を好まないと考えられた。また、耕作期間の耕作地には電気柵が張られていたことから、これによって侵入が阻まれた可能性が大きい。
 今回の研究によって林内には十分な食物供給量があり、耕作地付近に生息するカモシカでも耕作地を選択的に利用しない個体がいることがあきらかとなった。こういうカモシカに対しては、人がいることや電気柵があることが有効な防除対策になる可能性が高い。
 カモシカの群落利用や行動を知らずに、ただ耕作地付近に生息しているという理由でカモシカを駆除したら、本調査で調べたような個体は駆除されてしまったかもしれない。電気柵などで防除効果が得られる可能性の高い個体をむやみに駆除することは避けるべきだと思う。
 このように入学当初から興味を持っていた問題に対して、ささやかではあるが卒業研究で携わることができた。私自身はこれで卒業してしまうが、今回の自分の研究がこれからの農作物被害問題の解決に少しでも貢献できれば幸いである。 


種子散布研究との出会いと、これから

2014-03-09 17:42:08 | 13.1
4年 鈴木里菜

私はタヌキが種子にとって良い散布者であるのか?というテーマで研究を行いました。もともと私は異なる環境に生息するタヌキが何を食べているのかを調べていて、種子散布にはとくに興味はありませんでした。でも同級生と先輩が自主ゼミで種子散布について勉強していると聞いて、2人がどんな勉強をしているのか気になり、参加させてもらうことにしました。参加してみて、自分が植物側の目線からタヌキのことを考えたことがなかったことに気づきました。そして果実を食物として利用するタヌキ目線、タヌキやその他果実を利用する動物を種子運搬者として利用する植物目線両方のことを考えないといけないなぁと思いなおしました。
 果実の色・形・大きさは、食べられたい動物に合わせていると知ってから、道を歩いているときもきょろきょろ果実を探して、見つけたときは散布者を想像して楽しんだりするようになりました。そして、その時自分が分析していたタヌキの糞にどの種類の種子がどれだけ含まれているのかということも気になり始め、食性分析と並行して種子の取り出し、同定も始めました。
 タヌキの糞から種子を取り出していくうちに、「この種子は発芽できるのだろうか?」と思うようになりました。そこでいくつか条件を変えて種子をまいてみました。それから、条件によって発芽率が違うから、タヌキがどこに種子を散布しているのかを調べていく必要があると思うようになりました。そこでタヌキの溜め糞がどのような環境に作られているのかを調べました。しかし、結果はタヌキは平坦な環境に溜め糞を作っているということはわかりましたが、それが種子にとってよいかどうかは分かりませんでした。こういう結果になったのは、種子を種ごとに区別しなかったためかもしれません。対象の植物を決めて、その植物にとってよい環境であるのかを調べていく必要があります。その意味では植物目線が弱かったと思います。今後は植物目線をしっかり入れて調べていきたいと思っています。
 私は大学院に進学することになったので、少なくてもあと2年は種子散布の研究ができます。卒業研究をして、ひとつ新しいことを知ると、それ以上の新しい疑問が生まれると思いました。タヌキの種子散布というテーマでもいくつも知りたいことがあります。きっと一生調べ続けてもすべての疑問はなくならないでしょう。ですが、その疑問を少しでもいいから明らかにしていきたいと思います。

星をみつけた

2014-03-09 17:23:47 | 14
4年 笹尾美友紀

 大学生活を振り返ってみると、いろいろな思い出が溢れだしてきた。私が麻布大学に入学したのは、「動物が好き」「野生動物の保全に携わりたい」と思ったからであった。しかし大学に入って周りを見回してみると、イヌの種類をペラペラ喋る人、動物園の動物の展示の順番をほぼ正確に覚えている人、大好きな動物を見るために全国飛び回っている人など、並外れた動物好きがわんさかいた。そんな人たちの中では、私の「動物が好き」という気持ちはミドリムシぐらい小さなもので、いつしか自分が本当に動物を好きなのか分からなくなってしまっていた。
 そんな私が大学生活の中で一番熱くなれたのは、野生動物学研究室に入って出会った、テンナンショウという奇妙な植物だった。動物応用科学科なのに植物、しかも聞いたこともない変な植物。研究室に入室して研究テーマについて話しあっていたとき、高槻先生が発した「アイデアがあります。」の一言で、私の世界はがらっと景色を変えた。テンナンショウという植物について紹介された文を読み進めるうちに、鳥肌がたち、胸が高鳴り、今までにないくらいわくわくした。すごい面白そうな植物だ、やってみたい、でもこんな凄そうなの自分がやっていいんだろうか?自分にできるんだろうか?・・・でもやりたい!!!
 それからというもの、テンナンショウを見たいがためにいろいろな場所に出かけた。調査地であるアファンの森でも、どんな変化も見逃すまいとテンナンショウを見つめ続けた。テンナンショウの隣に座りこんで「休憩」という名のサボりもたくさんした。苦手な英語の論文も頑張って読んで、それでも分からない不思議な現象をたくさん見た。知りたいことが多すぎて、軸とはぶれたデータもたくさんとった。
 気づけば、私の頭の中も隣にも、いつもテンナンショウがいた。テンナンショウのことを考えるとわくわくが止まらないし、あれも知りたい、これも知りたいと欲張りになった。そして「いつかテンナンショウの生活史の謎を暴いてやる」というこれからもずっと追いかけたい夢も生まれた。もうきっとテンナンショウに出会う前の私には戻ることはできないし、戻るつもりもない。
 この二年間を振り返って、私は学問的にも人間的にも少し成長できたように感じている。それには頼れる先輩といつも自分のことを思ってくれる友人たちの存在が大きいと思う。わくわくする楽しさ、周りを見ることの大切さ、人を思いやる難しさ、人に感謝してそれを伝えることの大切さ。先輩たちからは自然に対する考え方だけでなく、たくさんのことを教えていただいた。友人たちとは厳しいことを言い合ったりもしたけれど、「相手のため」という気持ちが大前提にあった。野生動物学研究室では、素晴らしい研究対象に出会えただけでなく、素敵な人たちに囲まれることができた。本当に濃くて、幸せで、わくわくした二年間だった。



「テンナンショウに引き合わせたのはよかったのか?」
 送別会のときにいただいた、色紙に書かれている高槻先生の言葉はその一言だけだった。この文章が、先生からの問いへの返事になるでしょうか。
 この文章を書いている今、あっという間に就職先の研修が始まって、卒業という気分を味わう間もなく、次に向かって歩み出してしまった。学生時代の思い出も、テンナンショウへの想いも、まだうまくまとまっていない。将来もうまく思い描けないけれど、天南星(テンナンショウ)は漢字の通り、天に浮かぶ星として、私の夢へと続く道をしっかりと示してくれているように思う。
 研究室で過ごした二年間のように、いつかみんなでまた集まってわいわいと語り合いたい。そして相手の考えに厳しく意見をするけれど、互いを尊重して、終わったらまたすぐに笑いあえるような関係をこれからもずっと続けていきたい。この二年間に私と出会い、暖かく見守ってくださり、たくさんのお言葉をくださったすべてのみなさまに。ありがとうでは足りないありがとうを。

野生動物学研究室に入ってよかった

2014-03-09 14:29:40 | 14
4年 萩原もえか

 私は小さい頃から動物が好きで、おばあちゃん家の犬のフンをビンに集めて喜んだり、幼稚園で飼っていたウサギをじっと眺めたりしていた。そういうこともあって、動物のことを知りたいと思い、麻布大学に入学した。
入学当時は動物の癒し効果、動物の飼育、捨てられた動物を救うこと、人間のために働く盲導犬のことなどに興味があり、大学1、2年の頃は盲導犬センターでボランティアに通ったり、2年時には牧場実習で約2週間、ウシの世話も体験した。
 いろいろ動物と関わったけど、自分のしたいことは何か違うと感じていた。今思えば、人間と動物の間の理想と現実が見えて、人間のために動物を利用していることを肌で感じて、それは自分がやりたいことと違うと思ったのだと思う。
 じっくりと自分のやりたいことを考えた時、動物本来の姿や動物がどう思って行動するのかを自分の目で確かめてみたいと思い、今までまったく考えていなかった野生動物学研究室に入室した。
 テーマを決める時は、日本に住んでいる動物のことを全く知らなかったし、とくに思い入れている動物もなくて、なかなか決められずに困っていた。そんな時、高槻先生から「リスとクルミの種子散布」のテーマを紹介してもらった。私はハムスターを飼っていて齧歯類を身近に感じていたし、リスがクルミを埋めて忘れるとクルミが生えてくるという話を聞いたことがあり、面白いかもしれないと思いテーマを決めた。
調査を始めたのだが、最初は枝束をどけてひたすらクルミの食痕を拾う地味な作業に正直面白さを感じられなかった。同じアファンの森で研究していた笹尾さんや小森君はキラキラと楽しそうに調査をしていてうらやましく思った。自分が調査が嫌いなのかなと思い、自信をなくした。
 3年生の秋ごろ、アファンのタヌキを調べることになった鈴木さんがタヌキのため分を探しに隣のスギ人工林がある場所へいった。鈴木さんは戻ってきたときに、「人工林にもクルミ落ちてたよ。」と教えてくれた。私は、人工林はクルミの木が生えていないから、調査対象に入れていなかったが、いろんな群落の比較をしてなにか違いが見えればいいという気持ちで人工林でもクルミを拾うことにした。拾っていると、リスの食痕が多く、ネズミの食痕は少ないような印象を持った。その頃になって、リスとネズミで運び先に違いがあるのかな?と研究の面白さを感じ始めた。


3年生秋の調査 笹尾、高槻、萩原

 4年生になり、必要なデータをいつまでにとらないといけないなど考えられるようになってきた。そして、クルミ散布という現象を動物視点だけでなく、クルミ視点から動物の役割を考えるのも面白くなってきた。
また、研究室の人や外部の方の調査についていって、サル、野鳥、カモシカ、シカなどを見て、それぞれの生活を教えてもらった。そのおかげで、今までフィールドではクルミを拾うために下を向いてばかりだったが、世界が広がったようなきがした。そして、生き物たちがそれぞれ工夫して生活していることを面白く感じた。
 私は同期にも恵まれていたと思う。彼らは研究方法を相談したり、卒論を書きながら悩んでいるとき、どんなに忙しくても、相談に乗ってくれた。ときには厳しく指摘されたが、それだけ自然のことを知りたいということについて、真剣だからだと思う。そういうことができた仲間は、私にとってかけがえのない存在で、これからも野生動物について議論しつづけたいと思っている。
 私は2年間をこのように過ごしてきて、生き物が自然の中で、理にかなった生き方をしている姿を見て好きだという気持ちと同時に、尊敬のような感情を持つようになった。それまでは、哺乳類にしか興味がなかったが、哺乳類が生きていくためには周りの植物やその他の動物が不可欠で、すべてが欠けてはいけないことがわかってきた。高槻先生に生き物のつながりのことを教えていただき、この考えは私を一番変えたことだと思う。南先生からは同一種でも個性によって行動が違うということを教えてもらい、動物を理解するということはひと縄筋にはいかないことを教えていただいた。外部の方には私が気付かなかったたくさんの動物の生き方を丁寧に教えていだたいて、私の「わくわくの扉」をたくさん開いていただいた。野生動物のすばらしさに気付くことができたのは、周りの人に恵まれたからだと思う。本当に、本当に、ありがとうございました。
 大学を卒業する今、生き物の生き方をフィールドで見たり、本で読むことが面白いと感じることができるようになった。でもそれにとどめないで、いつか、ほかの人に「生き物は自然の中ですごいことをしているんだよ」と伝えることで、人と野生動物の間にある理想と現実の問題の解決にも役立ちたいと思います。