観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

その糞は誰の糞?

2015-02-01 23:01:24 | 15
3年 土方宏治

 野生動物学研究室に入室してそろそろ1年がたつ。入室する前は野生動物の知識などほとんどなかった私も1年間の勉強のおかげで少しは知識を蓄えることが出来たと思う。私が勉強をしていて特に面白いと思ったのは動物の糞の見分け方である。動物の糞は種によって大きさ、形はもちろん排泄される場所まで違っており、糞がどの動物のものか見分けることが出来る。例えばタヌキの糞は直径2~3cmの長めの形で、何度も同じ場所に排泄される。キツネの糞も直径2~3cmくらいだがやや短めで、どこか目立つところに排泄され、同じ場所にたまることはない。テンの糞はキツネと同じく目立つところに排泄されるが、直径は1㎝程度でかなり小さい。
 このような違いをたよりに私たちは動物の糞を見分けているのだが、その知識が私の日常で活かされた出来事があった。
 私は普段バイトに通う際、裏道のようなところを通るのだが、そこはイヌの散歩によく使われている。人通りが少ないものだからマナーの悪い飼い主はイヌの糞を放置しているようで、ときどきイヌの糞をみかける。それを見かねた人がいたのだろう、イヌの糞の横にマナーの悪さを注意する置き紙がされるようになった。その置き紙の人の努力のおかげか、しばらくするとイヌの糞は減っていった。
 さらに時間がたち秋の風が吹き始める頃、どうやら置き紙の人にとって「強敵」が現れたようで、置き紙が2枚、3枚と増えていく様子が見られた。その注意の文句は毎回違う文章でしかもなかなか達筆なものだから、わざわざ書いているのかと思うと少し笑いを誘われてしまった。しかし私はバイトに急いでいるのでそれらを大して気にすることはなかった。そしてある日バイトとは違う用事で裏道を通った私は置き紙が4枚まで増えていて、しかも同じ場所に集中していたので、さすがに気になりそれらによく目を向けてみた。すると糞が一つの場所にたくさん集まっている。「ああ、だから紙がいくつも置かれてたのか。」と私は納得したが同時に一つの疑問が浮かんできた。「イヌが何度も同じところに糞をするのか?」そう思い糞を棒で崩してみると中には柿を中心とした果実の種がたくさん含まれているではないか。ふつう飼い犬がこんなにたくさんの果実を丸々食べる事はあり得ない。この糞はタヌキの糞だったのだ。タヌキは秋になるとよく果実を食べるようになるため、その糞にはたくさんの種が含まれるようになる。
 置き紙の人はこの糞をイヌの糞と思い込み、飼い主に換気を促したつもりなのだが、これはどうしようもない。もっとも今はもうタヌキはこのため糞場を放棄した。
 このタヌキと人間の小さな戦いに微笑ましい気持ちになった。だが、思えば私が野生動物の勉強をしていなかったらこの「戦い」に気づくことはできなかっただろう。

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