観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

変な赤い「実」

2014-09-26 23:16:57 | 14
3年 渡部晴子

 長野県浅間山で、8月の調査中に変な「実」を見つけた。ヤマブドウの葉の上に、ぽつぽつと真っ赤な先がとんがった実がついている。直径約5mm、高さは1cmほどの実が1枚の葉の上にいくつもついている。


変な赤い実たち

葉を裏返してみると、「実」のついている部分だけ赤く膨らんでいる。その様子を見ると血管が想像されて、なんとなく不気味だった。


「実」がついている葉の裏側

 後日調べてみると、これはブドウトックリタマバエというハエの仲間の虫こぶだということがわかった。虫こぶとは、虫が植物に寄生してできるこぶ状のもので、これは虫が作るのではなく植物に作らせているそうだ。この赤い「実」の中には、ブドウトックリタマバエの幼虫が一匹入っているという。幼虫は虫こぶの中で少しずつ成長し、秋になると虫こぶは葉から離れて地面に落ち、中の幼虫はそのまま越冬するらしい。ブドウトックリタマバエの幼虫にとっては、いるだけで栄養がもらえる上に、冬越しもできる快適なお家なのかもしれない。
大学に入ってから、虫媒花とそこに訪れる昆虫、おいしい果実とそれを食べて種子を運ぶ役割を果たすタヌキなど、動物や植物のつながりについて学んだ。ブドウトックリタマバエとヤマブドウも、このようなつながりのひとつなのだと思った。(ただし、先に挙げた2つの例では双方にメリットがあるのに対して、タマバエとヤマブドウのペアはおそらく寄生するタマバエにしかメリットがないという点でこれらは異なっている。)ブドウトックリタマバエは、ヤマブドウを利用して巧みに生き残ってきたのだと思うと少し感動する。それにしても、なぜこんなに目立つ色をしているのか疑問だった。鳥に食べられてしまったりはしないのだろうか。
 9月になってまた調査地を訪れると、この虫こぶたちはまだ葉についていた。中には、虫こぶが落ちたからか、他の理由からかはわからなかったが、葉に直径5㎜程の穴がいくつも空いているものもあった。一応下を探してみたが落ちた虫こぶは無く、少し残念だった。ブドウトックリタマバエには悪かったたが、虫こぶをひとつ開かせてもらった。写真が上手く撮れなかったが、中には黄色い小さな幼虫が収まっていた。来月調査に行くときには、もう葉から落ちているだろうか。
 森や藪の中を歩いていると、思わぬ発見があって面白いと知った。私は、まだまだ、転ばないようにと足元ばかり見て歩いているので、そこにいる色々な生き物たちに気づかずにいると思う。何気なく見過ごしている身近な動植物たちも、実は巧みに生存や繁殖の工夫をしている。そういう生き物たちについてもっと知りたいと感じた。

野外調査に参加して

2014-09-25 22:23:43 | 14
3年 三井志文

 この夏休みに東京西部の日の出町にある谷戸沢処分場へ初めて行った。当日の朝は小雨で不安定な天気だった。八王子駅で奥津先輩に車で拾ってもらい、谷戸沢処分場まで乗せていもらい、車の中でその日の調査内容を教えてもらった。ひとつは、カヤネズミの生息範囲を知るために設置してあるトラップの改良型を作るのを手伝うこと、もうひとつは旧型のトラップを回収して、改良型を設置することだった。
 トラップの作るときには、これまで出会った問題をのりこえる工夫を試行錯誤して来た話を聞き、今までこの研究テーマにどれだけの時間と気持ちを入れて来たかを感じ、その情熱に敬意を感じた。
 フィールドでは、土の層が薄いため植生の遷移が進みにくいという説明をきいた。また、そこらじゅうに見られるクズがなぜ駆除しにくいのかとか、外来種のセイタカアワダチソウのアレロパシーによって周りの植生が枯れていることなど教えてもらった。そこで気づいたことは、同じ景色を見ていても「知らない」で見えている景色と「知っている」で見ている景色は全く異なる物であるということだった。谷戸沢処分場に入った時と出た時ではまるで違う所にいる気分だった。そして、自分がまだ見ているつもりでいても全く見えていない世界が目の前に広がっている事を想像し、生態学や他の学問を勉強することによってそれが見えるようになれるかも知れない可能性に対してドキドキした。
 調査が終わり、帰りの車の中では奥津先輩の本業の教育について話を聞いた。小学生、中学生は常識という鎖に縛られないため、実に想像力豊かな質問や発想が来るという話だった。その中でも一番印象的だったのが生物の授業で「花にはなぜ様々な色が存在するのか」と言う質問に対して「土の中に赤や黄色や紫などの様々な色の素が存在していてそれを種が吸収するから」という生徒の答えだった。常識と言う枠の中で考えていたら絶対に現れなかったこの答に自分はすごい魅力を感じた。今回の調査では生物に関する純粋な知識のみだけではなく、常識などの枠によって視野を自分で小さくするのではなく自由な視点で物事を見る大事さを学んだ。これから自分の研究をするにあたっても、様々な視点からそれに注目することによって見える世界が多々存在する事を意識していきたいと思った。

戻って来たタヌキの食べ物

2014-09-25 22:19:21 | 13.1
教授 高槻成紀、 4年 岩田 緑

 仙台海岸に戻って来たタヌキの食性を分析していますが、調査を始めてから1年が経ったので、このあたりで報告しておきます。
 ことのおこりは私が在学した東北大学の植物生態学研究室の後輩である平泉さんからのメールでした。南蒲生の植物や動物の復興は平吹さんたちの論文(平吹ら, 2011)を読んで感銘を受けていましたが、自分でお手伝いできることも見当たらず、ただ気持ちで応援するだけでした。それが平泉さんのメールで小さな隙間がこじ開けられたような気がしました。平泉さんによると、2013年に南蒲生で鳥の調査をしているときタヌキの糞を見つけたので、分析できる人はいないかといろいろ検索して私にたどりついたのだそうです。たしかに高槻はタヌキの糞で食性を分析した論文を書いています(Hirasawa et al., 2006, Takatsuki et al., 2007)。平泉さんのメールを読んで心の中にさざ波のような心の動きがありました。あの津波でタヌキは死んだか、たとえ生き残ったとしても、遠くに流されたに違いありません。糞があったということは、タヌキが2年後に「戻ってきた」ということです。文字通り戻って来たかどうかはわかりませんが、別のタヌキが新しく来たにしても、残った林にタヌキがいるという状態が戻ったということです。ということは、その林が、タヌキが生きて行ける林に戻ったということでもあります。林が戻るということは、見た目の装置としての林ではなく、見た目は同じようでも、林の下に植物が生え、開花、結実し、それを利用する昆虫がいて、受粉したり、果実を食べる鳥や哺乳類がいるといった動植物のつながりが蘇るということのはずです。生き物のことを調べてきた私たちが「生態系が回復した」というのはそういうことであるに違いありません。そのことを示すのに、自分がコツコツとおこなってきた動物の糞を分析するという技術や知見が役に立つのなら、ぜひ協力したいと思いました。平泉さんに「タヌキの糞をぜひ送ってください」と連絡すると、その後、きちんと送られてきました。
 これまでのタヌキの糞分析の経験から私たちが予想したのは、植物が回復したのなら夏には昆虫類がいるから、タヌキはこれを食べるはずだということです。また秋から冬にはベリー類の果実を食べるはずで、関東地方ではジャノヒゲやヒサカキなどがよく食べられますし、初夏にはサクラ類やキイチゴ類がよく食べられます。仙台海岸でも林の下に残っていた土の中にあるキイチゴ類やコウゾなどのベリー類が2年経って結実するようになり、それをタヌキが食べているのではないかと思ったのです。
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 平泉さんによると、津波のとき南蒲生浄化センターの建物の内陸側の林が、津波の勢いが弱くなって残ったそうで、ため糞はそこで見つかったとのことでした。その後、タヌキの糞は岩沼からも発見されましたが、こちらは貞山堀が津波の動きと同じ方向にあったせいか、林への影響は比較的弱かったようです。その後、平泉さんが現場に自動撮影カメラをおいたら、確かにタヌキの姿が写っていました。



 分析を始める前に0.5mm間隔のフルイで水洗し、こまかな物質を洗い流します。それを特殊加工したスライドグラスにのせて顕微鏡で調べ、量的評価をします。顕微鏡をのぞくと、糞からいろいろなものが出て来ました。たとえば、夏には昆虫の脚や翅など、ウワミズザクラ、ヤマグワなどの種子が出て来ました。なかには哺乳類の体毛や鳥類の羽毛もありましたし、ゴム手袋の切れ端なども出て来ました。



 現段階ではサンプルの半分ほどしか分析が終わっていないのですが、結果をまとめてみると、次のような傾向がありました)。
 南蒲生では3月には3分の2が動物質でとくに鳥類の羽毛が40%上検出されました。その後、動物質は徐々に減少して、5月には60%、7, 8月には40%となりました。6月以降は昆虫が20-30%を占め、予想を裏付けました。植物の葉は、春は10%程度でしたが、7, 8月には30-40%もあり、意外でした。種子はどの月もだいたい10%前後でしたが、5月だけは20%以上ありました。これはコメで、時期からして落ち穂などではなく、貯蔵してあったものが食べられたのかもしれません。今後、秋から冬の試料を分析しますが、きっと種子が増えるものと予想されます。
 岩沼ではサンプルが十分ではなく、6月、8月、12月しかありません。6月は70%以上が動物質でとくに昆虫が多く、8月になると植物の葉が50%ほどを占めました。12月は種子が60%近くを占めましたが、このほとんどはテリハノイバラでした。
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 このように仙台海岸に戻って来たタヌキは基本的には回復した植物とその群落に生息する昆虫を基本とした食べ物を食べており、それらが乏しくなれば、人工物や鳥類も利用しながらたくましく生きていることが示唆されました。冬に岩沼でテリハノイバラの種子が大量に検出され、タヌキが非常に依存的であることを示唆していました。植生が強く破壊されたあと、テリハノイバラが2年で種子から再生して結実したとは考えにくいので、おそらく地下部が生き延びて、そこから再生した株が結実したのではないかと思います。そういう意味では復活した植物の、復活のプロセス―種子から回復したのか、栄養体が残ったのか、種子であればどういう散布をしたのかなど―を把握することも大切だと思います。
 いずれにしても、これらの分析結果は、私たちが期待した「破壊された自然の中でタヌキと植物のつながりが回復しつつある」ことを示唆しています。ただ、予想したキイチゴ類はまだ出て来ていません。それから鳥類の羽毛が何のものであるかなど、課題も残っています。未分析の糞も分析して、また報告させてもらいます。
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 科学的な調査の報告ですから、客観的でなければいけませんが、私自身の率直な思いをいえば、あれだけの壊滅的なできごとのあと、たくましく蘇った植物たちの中にタヌキが戻って来て、季節に応じて食べ物を探してたくましく生きているという事実そのものに感動を覚えずにはいられません。科学研究の根底には自然のことを理解したいという好奇心がありますが、それともうひとつ、少なくとも生態学を学ぶ者にとっては、生き物のすばらしさを讃えたいという思いがあるということを、この分析を通じて改めて確認できたように思います。

木に登ったイグアナ

2014-09-25 20:03:29 | 14
4年 岩田 翠
 私は先日、夏休みを利用してエクアドルのガラパゴス諸島へ行きました。ガラパゴスにはそこにしかいない多くの生き物が生息しています。私も実際に海イグアナや陸イグアナ、フィンチなど様々な生き物を見ることが出来ました。
 そこで見たのが、ある1匹の陸イグアナです。陸イグアナとは、ガラパゴス諸島に生息し主にサボテンを主食としているイグアナです。このイグアナは木に登ることができないので、サボテンの葉肉や花が落ちてくるのを待つ様子が多く見られます。
 ところが、多くのイグアナが地面にいる中、なんと木に登っているイグアナがいたのです。それもかなりの高さで、研究員でもあるガイドさんはとても驚いて言いました。
「最近の陸イグアナは木に登る個体が確認されているけれども、こんな高く登っているのを見るのは初めてだ」


木に登ったイグアナ

 島にあるサボテンは陸イグアナに食べられないよう葉が高いところについています。ガラパゴスは乾燥地ですから、サボテン以外の植物も少なく、食べ物はほとんどありません。地面に近いところには食べ物がないので食べ物を目指して木に登ったのかもしれません。
 この時私は、生き物が環境に合わせて変化していくこととはこういうことなのかと思いました。この変化が次世代に受け継がれ、残っていくことを考えるとなんだか自分が貴重な現場に居合わせた気がして、わくわくしました。こういった生き物の変化をテレビや授業などで見たり聞いたりすることはありましたが、実際に見る事ができるとは思ってもみなかったので驚きました。生き物の力はすごいなと感じさせられるそんなひと時でした。