観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

凶暴なイノシシ?

2014-05-05 13:43:57 | 14
3年  秋元 悠佑

 テレビを見ていたら『凶暴なイノシシ退治!』という内容の番組が流れていました。その番組には人に向かって突進していくイノシシの姿がありました。この姿だけを見れば確かに凶暴かもしれません。また、その番組で扱われていた地域の農作物を荒らすのもイノシシではないかとされており、このことも凶暴であると言われる理由かもしれません。
 しかし、私の中ではイノシシは凶暴というよりも、むしろ賢い動物であるという印象があります。『凶暴な動物』とされていましたが、果たして本当にそうなのでしょうか。突進するという事実はありますが、何かそうせざるを得ない理由があったのだと思います。人間から見れば凶暴かもしれませんが、それは人間と比べて大きい動物が必死に動いているから凶暴と感じるだけかもしれません。もしも、ハムスターなどの小さな動物が私たちの手の中で必死に動いていたら、同じように『凶暴なハムスター』と感じるでしょうか。また、もしかしたらイノシシが農作物を荒らすことも、人が山を開発することなどによる環境変化が起こり、そのことに農作物を荒らすことの原因があるのかもしれません。つまり、イノシシという動物自体を乱暴で性格が悪いというように、ただ感じたことだけ決めつけるのは、身勝手であると思います。また、そのような行動をする原因が人間であるならば、これも身勝手であると思います。
 ただ、今の私には番組で紹介されていた姿と私のイメージのどちらが本当の姿に近いのか、考察するほどの知識がなく、疑問のままです。このように、野生動物と人間の間に生じる問題について考察したり解決したりするには、正しい知識が不可欠であり、そのために今後の研究室での活動をしっかりと有意義なものにしたいと思いました。

誰がわるもの?

2014-05-04 11:13:10 | 14
3年 土屋若葉

 去年、大学のケヤキの木から三羽のハシブトカラスが巣立っていきました。先々月のバレンタインの日、その巣が何者かに壊され、木の下には巣の残骸が散らばり、降ったばかりの大雪を黒く汚しました。しかし、その次の日のことです。場所を変え違うケヤキの上に立派な巣が完成していたのです。
「今年もカラスたちの繁殖を見守ることができる!」
私はとても嬉しくなりました。
 巣を壊したのはきっと親カラスでしょう。古くなった巣から、ちょうどいい枝を再利用して新居を建てたのです。しばらくすると、新居の下に、
『カラス営巣中 頭上にご注意ください』
と看板が立ちました。私はまた嬉しくなりました。
 実は去年巣立った子カラス達は最初うまく飛べず、学生がたくさん利用する駐輪場で動かなくなってしまったのです。何も知らず、自転車を置きに来る学生は親カラスから見たら、我が子に不用意に近づく大きな敵です。当然、子供を守ろうと大騒ぎ。しかし、子カラスが自転車のあいだで休んでいることを知らない私達から見たら、カラスが急に襲ってくるように感じます。大学の職員さんから見たら、親カラスは学生を襲うやっかい者です。このため、親カラスは長い棒で追い払われてしまいました。去年の事件を知っていた私は、
「今年は看板ができたくらいだから、私達人間がカラスに歩み寄り、みんなで見守れる」
と思いました。大学の職員さんたちがカラスの目線にたち、私たちが不用意にカラスを刺激しないよう注意してくれているのだ、と。
 しかし、それは私の勝手な思い込みでした。3月下旬、カラスの巣は大学の職員さんの手によって撤去されてしまったのです。巣には四つのまだ温かい卵がありました。それから、今日まで学内にカラスの巣が再建されていません。
 私は悲しい気持ちになりました。悲しいのは、もちろんカラスがかわいそうだということもありますが、同時に自分がどうすればよいかに明快な答を見いだせないからでもあります。大学の職員さんは学生の安全を確保するのがお仕事ですから、責任上粛々と仕事をしたということでしょう。その立場からすれば「人の住む空間からは危険な動物は排除する」というものでしょう。でも、カラスやスズメは長い日本の歴史の中でつねに人と仲良く共存してきたはずです。鳥が共存してきたのではなく、人が鳥を許容してきたということだと思います。
 麻布大学は環境や動物との共生をかかげています。カラスの危険な面を理解した上で、動物学の知見を活かして排除以外の共存を模索できなかったのでしょうか。この大学がそれをしないで、どこの大学がそれをするのだろうと感じました。


二年間に得た「縁」

2014-05-04 08:01:43 | 14
平成25年度卒業 小森康之

 卒業発表会とアファンの森の報告会を乗り越え、遂に大学生活を終えた。研究室に所属した2年間、私は次の3つの「縁」に支えられて楽しい時間を過ごせたと思う。
 第一に、研究室の雰囲気や私を含む同級生達のことである。入室する以前、私は学科の同級生はおろか学年、学科を超えて「有名」であったらしい。確かに人よりは若干寒さに耐性があり、Tシャツで過ごす期間が長かった。私にすれば、その程度はどうということはないと思うのだが、周りからはその格好だけで相当な変人であろうと思われていたらしい。そういうことがあって、研究室に入ってからメンバーから浮かないかとか、つまはじきにされないかと少なからず心配した。けれどいざ周りを見渡せば、同級生は多かれ少なかれどこか個性的であり、私の個性も「範囲内」程度と思っていいようだった。そういうわけで、皆とも徐々に仲良くなり、入室前の心配は杞憂だと思うようになった。先輩も優しく気軽に会話できる人が多く、ガリガリ勉強しながら実験・分析に明け暮れるという、私が想像していた堅苦しい雰囲気の研究室とはまるで違っていた。また二人の先生も、学問には厳しいが、気さくで研究以外の会話も沢山できた。おかげで、卒論でもそれ以外でもさまざまなことを学ばせて頂いた。大学生活のなかでも、研究室生活が私にとって特に充実していたのは、こうしたメンバーに会えた「縁」によるのだと思う。
 第二に、調査地がアファンの森になったことである。アファンの森やC.W.ニコルさんのことは、2年生の高槻先生の授業の時に初めて知った。元々野生動物のことに興味があり、行ってみたいとは思ったが、それ以上は深く考えなかった。そして忘れもしない2年前の3月13日。この日私はアファンの森の年次報告会に参加した。その時はまだ何をしたいのか、どんな生き物を調べたいのかまでは考えていなかった。結果的にアファンでカエルの食性の調査をしたが、あの時はそうなることは予想だにしていなかった。授業のスライドの中の存在だったニコルさんと出会い、仲良くなれた。そう思うと「縁」の力は確かにあるような気がする。
 第三に、そのアファンでみつけた多くの小さな生き物との出会いである。「Observation」にも書いたが、彼らとの出会いは今の私の考え方に影響を与えたと思う。卒論に取りかかるためのサンプルを提供してくれたカエルたち。糞を分析するためのヒントを与えてくれた多くの昆虫たち。彼らの存在は、研究の下地を支える要素として欠かすことができないものであり、これもまた「縁」だと思った。
            ***
 私にとって野生動物学研究室での思い出は、何ものにも代えがたいものとなった。我ながら少し風変わりだと思う私と仲良くしてくれた同級生、慕ってくれた後輩たち、そして手取り足取り指導して頂いた先生方及び先輩方には、心から感謝している。こうした「縁」を、生涯大切にしていきたいと強く思う。そして、新しい環境でも、新しい「縁」を築けるように努力したい。


調査地で大変お世話になったC.W.ニコル氏(左)との記念の一枚


アファンの森でカエルを捕獲する(2013.4.28, 高槻撮影)


早川でジムグリの説明をする(2013.5.18, 高槻撮影)

カモシカの体色のバリエーションいついて

2014-05-03 20:11:53 | 14
修士2年 靍田隼人

 「カモシカの姿を思い浮かべてください」という質問をされたとき、何色のカモシカを思い浮かべるだろうか?きっとその答えは日本のどの地域住んでいるかによって異なってくるだろう。なぜなら、カモシカの体色は地域によって様々なバリエーションがあるからだ。今回は、私が観察してきたいくつかの地域のカモシカの姿を紹介したいと思う。
 まず私が各地で撮影したカモシカの写真(1~5)を見てもらいたい。写真を見てもらうと分かるように、カモシカの体色は地域によって白色、灰色から黒色までさまざまであることがわかる。
 写真1の青森県脇野沢村はカモシカの分布の北限近くである。脇野沢には昔からカモシカが多く生息し、人里近くによく現れることから(写真1-2)観察がしやすく、調査や写真撮影が盛んにされてきた。そのため、図鑑などで目にするカモシカの写真の多くは脇野沢のカモシカである。体色は灰色からやや白っぽい個体が多く、鼻が大きく顔が面長な印象だ。


写真1 青森県下北半島の脇野沢のカモシカ

 写真2の山形県朝日連峰はカモシカの生息地としては非常に積雪の多い(5m以上)地域である。カモシカの体色は他の地域に比べて非常に白いのが特徴である(写真2.2)。また、体が他の地域のカモシカよりもすらっとしている印象だ。


写真2 山形県朝日連峰のカモシカ

 写真3は私の調査地である長野県浅間山の慣れ親しんだカモシカの写真である。体色は黒に近い灰色から白に近い灰色までさまざまだが、脇野沢のカモシカに比べると暗い色をしている。体型はずんぐりしていて、角は後方へよく湾曲している個体が多い。


写真3 浅間山のカモシカ

 写真4の長野県南アルプスは山梨県との県境で浅間山よりも南方にする。南アルプスのカモシカは浅間山に比べて黒色に近い体色の個体が多く、体はずんぐりしている印象だった。


写真4 南アルプスのカモシカ

 写真5の奥多摩のカモシカは他の地域のカモシカに比べて圧倒的に黒いことが特徴的である。また角もまっすぐ直線的に伸びている印象を受ける。


写真5 奥多摩のカモシカ

 以上5つの地域のカモシカには体色に白色、灰色、黒色とそれらの中間的な色までバリエーションがあることを紹介したが、実はカモシカの体色にはまだバリエーションがある。残念ながら私はまだ出会ったことはないが、四国や九州にはなんと、茶色のカモシカが生息するそうだ。カモシカの体色にさまざまななバリエーションがあることは確かだが、カモシカと同様に日本に広く分布する有蹄類であるニホンジカとイノシシにはこのような体色のバリエーションは存在しない。むしろ世界に生息する有蹄類の中でも、同一種(亜種)内でここまで体色に変異性がある種は珍しいことのようだ。ではなぜカモシカにはこのような体色のバリエーションが存在するのだろうか?残念ながらこの疑問に答えてくれる研究は存在していない。
 哺乳類の体色の変異に影響する要因は大きく2つあると考えられている。一つは社会器官としての体色である。これは体色が個体の社会的地位や繁殖力などを示すものである。例としては、マンドリルの顔の色やゴリラのシルバーバックなどである。これらの特徴は個体の成長によって体色が変異していくことである。もう一つは対捕食者戦略としての体色である。いわゆる擬態や保護色といわれるものだ。その個体の置かれた環境によって捕食者に見つかりやすい体色は異なり、見つかりやすい体色をした個体は淘汰されるので、地域により体色変異が生まれるといったようなものである。
 私はニホンカモシカの体色の場合は対捕食者戦略として機能が強く働いているのではないかと考えている。ひとつの理由はカモシカの体色は成長とともにあまり変化しないからである。もうひとつは、カモシカは基本的に単独性で一夫一妻という社会性の低い動物であるため、社会的器官としての体色が発達したとは考えにくいと思うからだ。
 現在、日本にはカモシカの捕食者となりえる動物はほとんど存在しないが(強いてあげるならツキノワグマ、イヌワシと人間)、100年ほど前に絶滅したオオカミとは数万年間ともに日本列島を生きてきた歴史がある。また、カモシカは行動的な対捕食者戦略として、藪の中に隠れる戦略と急峻な場所に逃げるという戦略をもつと考えられる。前者の戦略では、捕食者に見つからないということが重要になる。繰り返すが、捕食者に見つかりやすい色は、それぞれの地域の環境(積雪量、植生や地形など)によって異なると考えられる。これらの要因が現在のカモシカの体色の地域による変異性を生み出したのではないかと私は考えている。
 どのような環境においてどのような体色の個体が多いのか?体色の違いによって行動に違いがあるのか?など、カモシカの体色の不思議にアプローチする研究をしてみたい。

意外な一面

2014-05-03 17:33:58 | 14
4年 岩田 翠


 5月にはいり、暖かい日が増えてきました。植物や鳥たちの活動も活発になり、なんだか家の周りが賑やかになった気がします。
鳥たちはこの時期からヒナ育てが始まります。私の家の周りでも毎年ある鳥が子育てを始めます。黒くてちょっと不気味なイメージ…。そう、カラスです。家の近くにある鉄塔や竹藪に巣を作り、ヒナ育てをします。このカラスたち、困ったことに人にちょっかいを出してきます。毎年、けが人まででる大騒ぎです。ヒナを守るのに必死なようです。
 そんな中でも、私はカラスに襲われたことは今まで一度もなかったのですが、一昨年ついにカラスに襲われました。いつも通り道を歩いていると、カラスが後ろから近づいてきて、私の頭を足で叩いていきました。その後もカラスはしばらく鳴き続け、追いかけてきたので私は必死になって逃げました。それ以来、怖くなってしばらくの間その道を通ることができませんでした。
 それから少しして、本屋さんをぶらぶらしていると、カラスに関するおもしろそうな本を見つけました。さっそく購入して読んでみることに。そこにはなんと「カラスは人が怖いから、人を襲うことは滅多にない」と書かれていました。むしろ人が近づくと逃げるようです。さらに「カラスに襲われたと思うのは人の勘違いであり、カラスとしては人の頭を意図的に叩いたわけではなく、威嚇のため低空飛行したらたまたま足が当たってしまったのだ」ということ。怪我をさせられることはほとんどないそうです。ヒナ育て中のカラスの親は子を守るのに必死なようで、人を襲うこともあるようですが、今まで私が持っていたカラスの怖いイメージとはかけ離れた可愛らしいカラスのようすが書かれていました。
 このことを知った私はつい最近、ちょっとした実験をしてみました。まだ、ヒナ育ての始まってないカラスが群れでいるところを見つけました。今までだったら避けて歩くところを、カラスの群れに向かってどんどん近づいてみました。すると本に書いてあるとおり、カラスはどんどん逃げていくではありませんか!意外な一面があることにびっくりしたのと同時に、可愛らしさを感じました。身近にいる動物たちもまだまだ知らないことがたくさんあってもっといろいろ知りたいと思うような出来事でした。