入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’22年「秋」(38)

2022年09月23日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 今は上でなく里にいる。本日予定の撮影は悪天のために中止と決まったが、仮にそれが予定通り行われたとしても、きょうの北原のお師匠の葬儀にはどうあっても参列するつもりで、山と里との忙しい往復を覚悟していた。そういう意味では、悪天が少し味方してくれたとも言えようか。
 逝去の報が届いた翌日20日、師の家を訪ね、最後のお別れをしてきた。それでも、なかなか実感が湧いてこない。あの姿が、声が、鮮明に記憶にある限り、その気持ちはまだ続くだろう。MK君が、もう何時、どこで撮ったか覚えていない師と一緒のいい写真を送ってくれた。

 雨が降っている。明日は上に行き、また山の暮らしに戻る。この悪天も10月になれば、少しは落ち着くだろう。
 そうそう、畏友のFMZ君が、この独り言は天気のことばかりで厭きると言ってきた。確かにそれは認める。それでも、気象庁の天気予報の当たり外れや、その伝え方に対しては、言いたいことが山ほどあるのに控えているつもりだ。どうも天気の話になると、もう一人厳しい意見を言う人間が身内にいて、どうも親しい友人、身内からほど、不興を買うらしい。
 しかし、この呟きを聞いてくれる多くの人は、今問題になっている国葬についてとか、はたまたオリンピックの奇怪な裏の話とかに雑駁な知識で知ったかぶりをされるより、牧の天気や気温のことの方がはるかに知りたいことだと思う。実際、そういう問い合わせがよく来る。
 
 高層ビルの空調の効いた快適な部屋から、窓越しに降り続ける雨を眺めているのも悪くないかも知れないが、それとはわけが違う。牛が下りて、ひとまず安堵しても、相変わらず外で働く者にとっては、天気のことは一番と言ってもよいほど気になる。
 きょうは言う。まだ台風が南の海上にいるうちからニヤニヤと薄笑いを浮かべ、やたらに警戒心を煽ってくれたあの予報官・・・、ために今年の「シルバーウイーク」とやらは、観光業にとっては手ひどい痛手を被った。それで、後は知らず存ぜぬでは怒りの持っていき場がない。納得がいかない。
 被害が予報に反してそれほど酷くなかったことだけが救いだが、それをもってかの予報官のお蔭だと言うには、別の被害を思うと抵抗がある。
 
 きょうの写真が、放牧中の牛を撮った今年最後の写真となった。今ごろ、あの牛たちはどんな気持ちでいるのだろうか。

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     ’22年「秋」(37)

2022年09月21日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 牛たちは最後に牛守の言うことを聞いてくれ、素直に囲いの中に入った。そしてそこで1日を台風に耐え、きょうトラックに乗せられて牧を去っていった。いつもながら感ずる、かけてやる言葉の思い付かないまま見送るもどかしさ、それが彼女たちとの短い縁(えにし)の終わりとなった。
 牛の姿が消えた広い牧に立って、秋風に吹かれながら大きな空を眺めていれば、その後の消息を知らないまま「もの思う牛27番」のこと、小柄ながら意外と気の強かったジャージー牛20番や、映画に出演を果たしたホルスの22番のことなどを、またふと思い出すこともあるだろう。(9月21日記)



 先週は好天が続き、その間、いろいろなことがあった。懐かしい人たち何人かと会い、台風14号の動きに気を揉んだ。週末のキャンプの予約は、1件を残して全てが取り消しとなり、富士見のゴンドラの運行も中止となった。結果、入笠は人の気配が消えてしまった。
 
 そして今週の月曜日19日、北原のお師匠が逝った。この一大事が、台風14号と一緒になって不出来な弟子の頭の中を混乱させ、その影響は言うまでもなく「経験のない規模の台風」よりかも余程大きかった。超えた。
 草を毟っている時に意識を失い、病院に搬送されたものの意識の回復はかなわず、そこで数日間を過ごし93年の生涯を静かに終えたという。
 そういう動静は知らされていた。孫のS君と二人で師が運び上げた御所平峠の地蔵尊へ行き、病勢の回復を祈ったりもしたが、ついに師は意識を取り戻すまでには至らなかった。

 お師匠、幽明を異にする今、なぜあなたのことを「お師匠」と呼んだか、その理由をここで初めてお伝えしておきます。それは師の生地である芝平、さらには入笠、就中古道「法華道」への強く、深い思い入れであります。わたくしも、それについては人後に落ちることはないと自負していましたが、しかし、あなたには勝てませんでした。それがあなたの弟子になり、師匠とお呼びした理由です。
 もし来世があるなら、かならずわたくしはあなたの前に立ちます。そしてまた師弟の絆を復活させていただきたいと願っています。それまでのしばしのお別れです。ありがとうございました。

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     ’22年「秋」(36)

2022年09月19日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 午後3時、雨がこの時を待っていたかのように猛然と降ってきた。朝から、その予兆はあったとはいえ、早い時間には伊那谷の上空に虹がかかっていたり、青空が見えていた時もあって、はっきりとしない不安定な空模様だった。
 気象庁の予報官によれば「過去に例のないような台風」が、刻々と九州に接近しているということで、そうなるとやはり21日に下牧する牛たちのことが気になってくる。降水確率はかなり高く、ならば雨脚が強まる前に牛の様子を見ておこうと、完全な雨支度をして小屋を出た。午前7時だった。

 こういう天気では牛たちの群れはいつもよりかばらける。電気牧柵を点検しながら、いつものように小入笠の頭を目指した。一箇所不良個所を修理し、牛の群れを見付けられないまま頭に到着した。
 普通は大体この段階で、乳牛であれ、和牛(肉牛)であれ、幾頭かの牛の姿を確認できるものだが、やはり天気のせいに違いない、きょうはそういかなかった。

 牧守でなく、牛守としての最低限の仕事は、放牧中の牛の無事を確認することである。他所の牧場ではどうやっているか分からないが、自分のやり方はまず群れの頭数を数える。その上で、牛の耳に付けてある牧場の管理番号を記した札、もしくは牛のIDとなる耳標を1頭いっとう読んで、それを紙片に記入していく。そして、小屋に戻ってから確認簿に消込をしながら、未確認の牛がいなかったかを調べる。未確認の牛が出れば、その牛を探すため再び放牧地へ行く。
 この方法は誰かに教えて貰ったというわけではなく、自己流である。頭数が200頭近くいた時は、このやり方が一番間違いがないし、全頭とはいかずも注意が必要な牛が次第に分かってくるため、頭数の減った現在も続けている。

 結局、牛を探して小入笠の頭まで二度登った。ホルスも和牛も一度では全頭を確認することができなかったからで、今は慎重になるべき時、ここで何か問題があれば9回の裏で逆転されたようなもの。雨はそれほどのことはなく、いつの間に入ったのか囲いの中の和牛も含めて全頭の無事が確認できた。(9月18日記)

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     ’22年「秋」(35)

2022年09月16日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 きょうも好天、牛たちは牧を去る日がすでに1週間を切ってしまったことも知らず、やわらかな秋の日の光を浴びて思いおもいに憩う姿が見える。この眺めからは、台風の接近など考えられない。
 
 予報通りであれば、台風の影響を受けて21日の下牧に備えた20日の牛集めは、かなり手を焼くことになるかも知れない。恐らく和牛は呼べば確実に来るだろうが、乳牛の方は分からない。昨日給塩の際も、乳牛はジャージー牛が1頭来ただけで、他は姿を見せなかった。いつも横暴、我儘な和牛に塩を独占されて、このごろでは分け前にありつけないと諦めているのかも分からない。
 さてその乳牛たち、どこにいるのだろうか。いつの間にか、囲いの中の和牛も姿を消してしまった。いや、1頭だけ、多分「考える牛27番」だろうが、丘の上で動きを止めてまた何か考えに耽っているようだ。

 因みにウエザーニュース「大型台風14号は強い勢力に発達 三連休に接近・上陸し日本列島は大荒れ」と予報している。すでにその予報を信じ、従い、キャンプの予約が何件か取り消されている。用心に越したことはないから、これはいい。
 しかし、前にも呟いたが、こうした台風情報を耳にして、一体われわれはどんな備えができるのだろうか。というよりか、できることなど知れている、と思う。せいぜいが懐中電灯や携帯電話、若干の食料と水などに加え、雨具長靴などの避難具を用意し、屋内外の風雨対策をするくらいか。
 これで果たして「河川の氾濫」、「低い土地への浸水」、「土砂の崩落」などなどへの対策になるとは、とても思えない。こうした自然災害に対して個人のできることは、避難勧告、同指示に従い避難所へ逃げることぐらいで、家を移動したり、氾濫する川の水を堰き止め、土砂の崩落を止めることなど、とても手に負えるわけがない。
 災害予測地図は結構だが、これも多くは行政が対処することばかりで、個人にとってはどうしようもないことが多く、せいぜいが住んでいる場所の安全度に一喜一憂するぐらいだろう。


 台風が発生すると、いつも遠い南の島々の荒れ模様の天気やヤシの木が折れただの、道路が雨で冠水したなど、刻々とその様子が1週間近く映像で伝えられる。そして当の台風は1日程度で過ぎていく。その上、予想が外れることだってままある。
 さらにもっと正確な予報ができるようになるまでは、われわれは何日も前から気休め程度の対策をして、怯えながら暮らすしかないのだろう。
 明朝は4時半起き、た・ま・ら・な・い。

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     ’22年「秋」(34)

2022年09月15日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 大分日の出るのが遅くなってきた。午前6時半、太陽は小入笠へ通ずる尾根の落葉松の背後で、ようやく幾筋かの金色の光りの帯を放射し始めた。空の高い所には秋特有の薄雲が見えている。気温13度、今朝も放牧地は朝露に濡れ、まだ囲いの中に牛たちの姿はない。南北に伸びるこの狭い谷に日の光りが溢れるまで牛たちは、いましばらくはどこかで早い朝飯を食べるのに忙しいだろう。

「 貴婦人の丘」の見える場所まで行ってみようとして外へ出たら、ちょうど囲いの中を1頭の和牛が小走りに過ぎていくところだった。例の「考える牛27番」だと思って近くまで行ってみたらそうではなく、しかも2頭だった。
 以前に、いつまで経っても塩鉢に近付けない牛が不憫で、そこから少し離れた場所に塩を置いてやった。あの2頭の牛はその記憶と期待があって、他の牛に邪魔されないうちに塩にありつこうとしたのだろうか。耳標を見たら45番と46番で、この牛たちは和牛の中でも主流ではない。
 牧舎にいればこんな苦労はせず、餌はすぐ目の前に定期的に運ばれてきて、塩は欲しいと思えばいつでも口にできるようになっている。まさに上げ膳据え膳である。

 しかしそこには自由がない。広い放牧地を思うように歩き、走ることができない。食の苦労のない不自由を、牛たちが喜んでいるとは思えない。食べるということは、牛たちにとっては労働に等しいはずだ。
 人でも、老いさらばえたかつての受刑者が、再び塀の中に戻りたくて犯罪を犯すという例があり、そういう特異な話も分からないではない。牛の中にも、あれだけ連日、毎夜雨に祟られたら、似たようなことを考えるかも知れない。それでも、もしあの牛たちと野生鹿のどちらを選ぶかと問われれば、答は決まっている。
 その牛たちが牧を去る日もついに1週間を切った。

 いい秋日和の朝になった。北アルプスの峰々は薄い靄の中に遠くまで見えていた。きょうなら、雨の心配もなく、あの稜線上を眺望を楽しみながら安心して行けるだろう。
 ある気象予報士は「落ち着かない天気が続く」と、予報が難しいこの先の天気をこんな言葉で誤魔化した。上手いことを言うものだとつくづく感心した。
 台風接近の報に、キャンプの予約を取り消した人もいた。それは仕方ないが、別な理由で諦めた人も出て、そのことを心配している。

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