入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’22年「冬」(14)

2022年01月19日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など
 秋に葉を散らした樹々の多くが、そのあとに小さな蕾を膨らませて長く酷しい冬に耐える。これは何の木だろうか、レンゲツツジのように見えるが自信はない。ナナカマドか、とも思ったがうっかりしたことを言っては、また嗤い殺される危険がある。


                               Photo by Ume氏

 昨夜は満月だと知らせてくれる人がいて、いつもの散歩に出た。集落の裏手になる東の開田に上ったら、広い夜空に冬の月がひときわ強い光を放っていた。子供のころに年寄りが「いいお月夜(よ)だ」とか「雪が降ったあとのような明るさ」なんて言っていたことを思い出す月夜だった。
 
 開田のほぼ中央を横切り、北に向かう。まだ1キロくらい歩いただけでも、そのころになるとそれまで抱えていた躊躇いは消えて、いつもの歩行の調子が戻ってくる。実は家を出る前、そのあともしばらくは、今夜は止めておこうとか、幾つかある散歩道の最短で済ませようかと、迷いを引きずりながら歩くこともたまにはあるのだ。
 それは寒さよりも、その夜の空模様が気になるからで、犬だ、双子だ、馭者だと、いくら下手なこじつけだと思っても、そうした星座が見えない夜では、快適な散歩にはならない。もちろん主役はオリオンだが、そう、それさえも見えないとなれば、待ち人来たらずに悄然として帰るようなものだ。
 
 あんな明るい夜でも、昼と違い仙丈岳は主役を一歩引いて闇の中にじっと身を潜め、広大な夜空と月、そしてそこに点在する無数の星々に夜を任せてしまっていた。東の山、萱野高原の辺りになるだろうか、北斗七星が中天に向かい上りだし、今まで見えてなかった柄杓の柄の、最後に位置する星も見えるようになった。もっと季節が進めば、われら牛飼座の赤い主星、アルクトゥールスも引きずられるようにして上がってくる。
 
 そうやって冬は季節の移ろいを星座で感ずる。そして、もっと長い時の流れを、天竜川を中心に蝟集する光の帯からも想像する。瀬澤川に架かるふたつの橋を渡り、緩やかに登っていった先の高台に達すると、散歩道をほぼ半分くらいを来たことになり、夜目にも今冬の山の雪の多さが分かる経ヶ岳が、昨夜も長く広い段丘の向こうに見えていた。
 
 立ち止まりはしないがここで、いつも眼下の豪奢な夜景に見入る。そしてまた、この天竜川を流れていく水のように、この谷を流れていった時間を振り返る。これからこの夜景がどんなふうに変化していくのか、先のことは分からない。しかし、炬燵に当たりながら時々旅をする江戸や明治のころの貧弱な夜景なら目に浮かぶし、そこでどんな人がどんな暮らしをして、今に続けてくれたのかと空想を織り交ぜることは可能だ。
 永遠の中の一瞬にいて、何の不満も思い付かない自分がいる。
 
 かんとさん、通信拝読、多謝。星の煌めく夜空の背後に、愛妻家のかんとさんを感じています。本日はこの辺で。
コメント
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