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「女王陛下のお気に入り」衣装展 at ケンジントン宮殿

2021-09-28 | TV/マーク・ゲイティス

【2019年1月12日】

「SHERLOCK」の脱出ゲームに挑戦した次の日、
その脱出ゲームに誘ってくれた友達のJを誘って、
2019年2月8日までケンジントン宮殿で行われていた
映画「女王陛下のお気に入り」の衣装展"The Favourite Costume Display"を見に行きました。

宮殿の内部は留学日記ブログの方に書くとして、
こちらは衣装展についてのみ触れるつもりです。

ケンジントン宮殿の入場料は大人£25(当時)。
Jは入場料金表を見て「衣装展がなければ来ない」と文句を言っていました(笑)。

念のため「女王陛下のお気に入り」のあらすじを知らない方に簡単に説明しますと、
18世紀初めにグレートブリテン王国を治めるアン女王(オリヴィア・コールマン)の側近として、
政治に口出しをする幼馴染のマールボロ公爵夫人サラ・チャーチル(レイチェル・ワイズ)
彼女は女王と肉体的にも関係を持ち、立場を超えて率直な意見を言えるほどの親密な間柄でしたが、
サラのいとこであるアビゲイル・メイシャム(エマ・ストーン)が女中として宮廷に加わり、
宮中でのし上がろうと策略を巡らします。
側近の立場が危うくなったサラは、アビゲイルと女王の寵愛を競い合うことになるのでした。


当日、展示室では宮殿のスタッフが歴史解説もしていました

ケンジントン宮殿は、オランダから英国に渡り1689年に君主として戴冠した後の
ウィリアム3世とメアリー2世が新居としてノッティンガム伯から買い取った場所。
のちにアン女王もここで暮らしています。

この展覧会が催されたQueen's Galleryは、
かつてメアリー2世が暮らしたQueen's State Apartmentの中にあり、
読書などをするための空間として、肖像画だけでなく東洋の磁器や家具も置かれています。

OGPイメージ

The Queen’s State Apartments

Explore the beautiful private rooms at Kensington Palace where Mary II...

Historic Royal Palaces

 

 

何度も英国の観光をしてきた私もケンジントン宮殿に入るのは初めてだったので、
どの部屋も興味深くじっくり見たかったのですが、
その中の一部屋に過ぎない衣装展に一番長居してしまいました。
鑑賞したばかりの映画の衣装を間近で、
しかも登場人物が住んでいた宮殿で見られるなんてなかなかない機会ですからね!

 

まずはその中心で一際目をひく、アン女王の衣装です。

女王が議会で演説し、気絶する(ふりをする)シーンのローブ。
宮廷の肖像画を元に形作られた、作品の中で最も精密な衣装です。
ローブの裾を見ると繊細な格子模様が編み込まれているのがわかります。
画面では模様まで分からなかったなー。

この議会のシーンのように公の場に立つアンは女王としての威厳を感じさせますが、
本編のほとんどは寝間着姿。
この作品がいかに女王のプライベートな時間に立ち入っていて、
女王が周りを気にする余裕がない健康状態であることを表しています。

続いて、サラの鴨撃ち男装衣装。

本編で飛び散った血がそのまま残ってる!!

この作品の衣装で印象的なのはレースのデザインですね。
アン女王の袖口や、このサラのコートの縁にもあしらわれていますが、
一般的な編まれているレースではなく、
レーザーカットで切り抜かれたビニールのレース

もちろん当時はこんな素材は使われていないわけですが、
そのはっきりとした模様が鑑賞後も妙に印象に残ります。

Though They Look Regal, Sandy Powell’s Costumes for The Favourite Are Grounded in Reality

Sandy Powell discusses how she married modern ideas of dress with thos...

Vogue

 

この他にも、当時は使われていない素材があります。

女中になったアビゲイルの衣装。
この左のボディス(女性用ベスト)はスラウ近郊のチャリティショップで入手したジーンズで作られていて、
他の厨房係の衣装も全てジーンズで作られているとか!

デニムは19世紀から労働者が着用していた生地なので、
18世紀の人物は実際には着ていません。

この時代は映画や演劇で再現される機会がほとんどなく、
衣装のリアリティを持たせることは必要でも、完全な再現は困難。
ならばと、あえてレーザーカットのレースなど、現代の素材を使うことで
過去のありのままの再現ではなく、普遍性を強調することにしたそう。


アビゲイルの頭飾りにもレーザーカットのレースが使われています。

「シンデレラ(2015)」「キャロル」などの衣装も手がけた
コスチューム・デザインのサンディ・パウエルは、今回初めて衣装の色を限定し、
モノクロを中心にシルバーやグレーの色合いを採用しているため、
女王やサラ、アビゲイルら中心人物の衣装はモノトーンが基調となっています。

その一方、色や装飾を強調しているのは男性陣(政治家)の服装。

見栄っ張りで大胆な伊達男の国務大臣ロバート・ハーレーは、
他の男性の衣装よりもフリルやレースが強調されています。
靴のリボンも大きくて大胆!
演じるニコラス・ホルトは身長が180cm(意外!)あって、
3インチのヒールを履くとさらに存在が生えたそう。

見ての通り、政治家の衣装はハーレーのいるトーリー党は青ホイッグ党は赤で分かれています。
これは台本にも指示があったらしい。

一方、サラの夫で陸軍司令官のマールボロ公爵ジョン・チャーチル(マーク・ゲイティス)の衣装。

大蔵卿のシドニー・ゴドルフィン伯(ジェームズ・スミス)とジョン・チャーチルはホイッグ党ではありませんが、
フランス・ルイ14世の孫フェリペの王位継承を巡るスペイン継承戦争の継続と、
スコットランド&イングランドによるグレートブリテン王国成立のために
中道派として当時の議会多数派のホイッグ党と手を組んでいたため、
ロバート・ハーレーと相対する赤を纏っています。

カツラもハーレーは白ゴドルフィンとチャーチルは黒で分かれていますね。
当時の男性のウィッグは、人や馬の毛で作られていて
衣服の装飾や色合い、生地の種類で自分の地位や豊かさを誇示していたそうな。

そういえば先日NHKの「ヒューマニエンス」という番組で、
「昔の欧州の軍服に赤が使われているのはなぜか」という疑問を取り上げていて、
理由として「砲煙の中で味方の位置をわかりやすくするため」
「赤は相手を威圧し自分を鼓舞するため」だと解説されていました。
(実際、フェンシングなどの対戦で赤と青が対戦すると赤の勝率が高いとか。)

OGPイメージ

「“衣服” 服を着るという進化」 - ヒューマニエンス 40億年のたくらみ

服を着るのはあたりまえ。しかし「服」は人類の進化を加速させ、社会や文明を生み出す原動力となった。7万年前、気候変動の危機に直面した人類は、毛...

ヒューマニエンス 40億年のたくらみ - NHK

 

実際、肖像画でも赤を身に纏っているし、
軍人であるチャーチルが赤を着ているのは理にかなっているわけです。

アン女王は政治的には穏健にトーリー党とホイッグ党の間を取り持っていましたが、
スペイン継承戦争急進派であるサラは戦争の継続にこだわり、
ロバート・ハーレーは戦争終結を実現させようと、又従妹であるアビゲイルに取り入ります。

この戦争を巡る関係、
サラ&ジョン・チャーチル VS アビゲイル&ロバート・ハーレーも、
この映画の対立構造の一つになっているわけです。

余談。
私とJが衣装展を見に来たのは、我々の大好きなマークの着た衣装を見るためだったので、
ジョン・チャーチルのマネキンの前に座ってしばらくじーっと眺めていました。

そして1時間くらい(笑)衣装を眺めた後、Jが後ろ姿も見たいと言い出したのです。
衣装の前にはロープの仕切りがあるので、それは無理だろうと思ったのですが、
大胆にも係員に直接訴えに行くJ!
「これを見るために来たんですが、後ろに回れませんか?!」
するとスタッフの回答は
「警報器があるから無理、平日ならオフに出来たかもしれないけど」
(この日は土曜日でした。)
非常に納得のいく答え。
Jはそれでも「ふざけた警報器め…」と悪態をついていて笑いました。
私もかなり熱狂的なファンガールですけど、
彼女の熱さには私でもたまに驚くことがあります(笑)。

 

The Favourite: Queen Anne at Kensington Palace

 

まだ本編を見ていない方はこちらからどうぞ。

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ロンドン国際映画祭「女王陛下のお気に入り」レッド・カーペットの様子はこちら。

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[Thursday] 寝てる間にずっとお腹がなっててエイリアン👽住んでるみたいだった。 — ミウモ 𝕄𝕖𝕨𝕞𝕠 (@notfsp...

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「女王陛下のお気に入り」の撮影が行われたハンプトン・コート・パレスの紹介ページ。

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The Favourite filming locations and history

Find filming locations for The Favourite, learn more about the history...

Historic Royal Palaces

 

(もう一つの撮影場所であるハットフィールド・ハウスは2019年4月に見に行ったので、
 いずれ記事にするつもりです)


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