これまでの記事
・自然の力、生命の力、肯定の力(1)~動的平衡part.1
・自然の力、生命の力、肯定の力(2)~動的平衡part.2
では、今度は物理学の視点から「もの」について、もっと詳しく見てみましょう。
<「もの」とは何なのか?~古代人の考え方>
「森羅万象の根源」について、古代の人々はあらゆる現象は4~5つの元素(エレメント)によって成っている、と考えました。この考え方は地域によっての呼び方、分類の仕方の違いこそあれ、申し合わせたかのようにどこの文明にも見られる、ほとんど世界共通の考え方でした。
その元素の代表的なものには「風」「火」「水」「土」や、「木」、「金」や「空」などがあります。
ここで、現代的な教育を受けた僕らは漢訳されたこれらの言葉の意味を取り違えてしまいがちですが、この場合の「風」や「火」とは「風」や「火」そのものではなく、「風っぽいもの」であり、「火っぽいもの」のことであり、状態や温度、可視、不可視などの様々なパラメーターを含んだ「なんとなく」の概念であり、あいまいさを残したものです。
ここで言う「元素」とは、僕らのなじみある化学用語としての「元素」とは全く別のものなのです。
そして、それらいくつかの要素は互いに拮抗し、助け合い、さらに移り変わりながら万物が形成される、と考えます。
(中国の五行説)
さて、解りやすくするために「古代の人」という書き方をしましたが、正確に言えば、それは「自然と共に生きる人」のことであり、このような考え方は、世界中の自然と共に生きる人、民族にとっては現役バリバリの当たり前の考え方であって、また、近代化された国においても、その文化の根底を成すものとして、様々なところに今も息づいています。
なぜなら自然の中でうまく生きていくのに、これ以上の当たり前で実用性のある考え方は無いからです。
<アトムを探してどこまでも~近代物理学の誕生>
さて、文明の向上(と、言われているもの)によって、自給自足をしなくてもよくなった、つまり生きるのに「暇」ができた古代のギリシャでも「ものとは何か?」の熱い議論が連日繰り広げられていました。
そこでも、やはり「もの」は4つ、ないし5つの元素から成っている、という考えが主流でしたが、さらに深い洞察を経て、万物は”変わらず、無くならない”ものの最小構成単位「アトム(ギリシャ語で分割できないもの)」の組み合わせから成っており、そのアトム同士の結合と分解によって万物が生成し、また消滅する(したように見える)のだ!という考えにたどり着きました。
その考え方は、自然現象と、それまでの様々な考え方をとてもうまく説明し、かと言ってそのことを確かめられるわけでもなく、実用性も無かったので(考案者も自分で言っている)、あまり一般的には興味の対象にならないまま、2千年近く眠り続けることになります。
やがて古代の自然哲学は、人の暮らしが自然から離れるにつれて無用のものとなり、より「正確さ」を追求する物理学へと姿を変えていきます。
人類の追い求める新たな森羅万象解明のテーマは、「普遍の法則」による「自然界の数式化」。
自然があいまいに見えたのは単に技術、理解の未熟さによるものであって、近い将来あらゆる自然現象は数式によって正確に予測、取り扱いできるようになるに違いない!
時はめぐり、19世紀のヨーロッパ。そのころにはもう人間が自然の一部であるという考え方はすっかり消え失せて、人類が地上の支配者であるという考え方が新しい常識になっていました。
そして、実験装置などの発達によって、アトム論が現実的なものとして証明されるようになります。
万物は無数の粒子と、その結合した「分子」の組み合わせによって成っている!
この粒子こそ、古代ギリシア時代に推測された「物」の最小構成単位に違いない!と、その粒子を「アトム(原子)」と名付けました。
ところがこの粒子、よくよく調べてみると、どうやらまだ内部構造があるらしい。
やがてその粒子が、核になる中心部(陽子、中性子)と、その周りを飛び交う電子(陰子)から成ることが明らかになります。
つまり、アトム(原子)はアトム(分割できないもの)では無かったのです。
さらにその陽子、中性子にも内部構造があり、その構成単位にはクォーク(とある文学書の鳥の鳴き声から)、電子を構成するものにはレプトン(軽い粒子の意味)という名前がつけられました。
そしてそれらには「素粒子(エレメンタリー・パーティクル)」という名前が付けられました。
さらに探してもいないのに、この世界には様々な素粒子が存在することがわかってきて、名前の付け方がさらに混沌としてきます。
(素粒子一覧 http://www.kek.jp/newskek/2003/marapr/higgs.htmlより)
そうして、それら様々な素粒子の多様性と、それまで発見されてきたあらゆる物理法則を一貫して説明するものとして、万物の最小構成単位は”点”ではなく”弦(ひも、ストリング)”であり、「力」をも含めたあらゆる「もの」の多様性は「弦」の振動の仕方の違いである、という「超ひも理論」が現在のところ、長かったアトム探し=物理学のゴールの最有力候補であると考えられています。
<原子の内部のほんとの話>
さて、ものが「原子」の組み合わせでできていることは、誰もが義務教育で教わっているかと思います。
ところがその先の話「原子がどんなものなのか」についてほんとのところを知っている人はかなり少ないんじゃないかと思います。
多くの人がイメージする、学校で教わった原子の構造は下図のようなものだと思います。
(粒子としての原子モデル)
ところが、この図は解りやすく説明するために大幅に簡略化されたものであり、この先の説明をしないということは、原子の構造について、ひいては世界の構造について、致命的な誤解を与えたままにするということなのです。
もちろん、目にも見えない小さな原子の構造を表す正しいモデルなんて実際に「書けない」のですが、「書けない」の意味をもう少しリアルに表現して書こうとすれば下図のようになります。
(量子としての原子モデル)
これはどういうことかと言うと、飛び交う電子の場所が「確率的にしか解らない」ことによるものです。
というわけで、原子の中のほんとの話、世界の不思議な根本原理、「量子」の世界を少しだけ覗いてみましょう!
(続く…)
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