国立劇場開場40周年記念「元禄忠臣蔵」(真山青果・作)。
全10篇の連作になる新歌舞伎の大作を、3ヶ月がかりで全編通し上演するという壮大な企画。
連作中の「御浜御殿綱豊卿」と「大石最後の一日」は単独でもしばしば上演されるが、その他は殆ど見る機会の無い演目。いちおう通し上演の形で出された前回は19年前、昭和62年4月歌舞伎座(当時私は大学生であったが、吉右衛門、富十郎、孝夫、歌右衛門らによる名舞台は今でも印象に残っている)。この時は昼の部夜の部通しての上演であったが、それでも全編出すのは時間的に無理で、10篇中6篇が舞台にかけられた。つまり19年前の歌舞伎座でも上演されなかった4篇、「第二の使者」「伏見撞木町」「吉良屋敷裏門」「泉岳寺」は私もまだ見たことがないわけで、今回のシリーズは大いに楽しみ。
そもそも今回は「史上初」全編通し上演と銘打たれてるわけで、戯曲が書かれてから(昭和9年~16年に発表)長い年月を経てのようやくの実現であると同時に、もう二度とこんな機会は無いかもしれぬほどの貴重な公演なのだ。
その期待感からか、忠臣蔵劇のファンのもとよりの多さからか、国立劇場にしては珍しく今月は連日満員、チケットすべて完売の盛況。
今月上演される場は「江戸城の刃傷」「第二の使者」「最後の大評定」、つまり松の廊下から城明け渡しまで。
大石内蔵助=中村吉右衛門、浅野内匠頭=中村梅玉、井関徳兵衛=中村富十郎と適役を配し(このお三方はさすがの上出来)、東蔵、彦三郎、歌六、歌昇、由次郎、桂三、松江あたりが二役受持っての奮闘(役者の人数より登場人物が多いので)。
真山青果劇と言えば、何よりも科白、科白、言葉の応酬、言葉の対決、言葉と言葉がぶつかり合って生み出す熱気、緊張、ドラマを動かす力。台本の一字一句が作者の熟考のすえに選ばれた動かし難い言葉であるからして、演じる方も見る方も気が抜けない。ときおり瑕疵があったとはいえ、全体的には観客にきちんとメッセージの伝わる、セリフの力による感動を与えられる、満足のいく出来だったと思う。
それにしても男ばかりの、男臭い芝居。女形は、科白のある役では内蔵助の妻と潮田又之丞の妻だけ。男達が人生を賭して主張しあい、真情を顕し、男泣きに泣く、号泣する。それを観客がもらい泣きする・・・。
あ、こんなこと記して、お涙頂戴の俗な芝居と誤解されるといけないな。
「元禄忠臣蔵」は読む戯曲としても大傑作だと思う。雄大なる構想。隙のない、周密な構成。全編を貫く重厚感、緊張感、迫力。珠玉というべき科白の格調。行き届いた時代考証による説得力。全編通してのテーマである、情と誠の純粋な形の追究(作品の書かれた時期もポイント。文学者としての時局への抵抗、叛逆の思想が確かにある、と恩師N教授からも伺ったことがある)。
時代劇や歴史小説などが好きでお暇な方は読んでみては如何。
岩波文庫版は入手も容易でしょう。
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「元禄忠臣蔵 上巻」
「元禄忠臣蔵 下巻」
さて、終演後はお堀端を歩いて九段下へ。きりん舎が御馳走して下さるという。誕生日のお祝いとのことだ。ありがたや。
金大中拉致事件やドラフト会議やNゼミ謝恩会やニガイメ家披露宴のあった某ホテルにて、「夕食ブッフェ」つまり食べ放題、美味さに定評のあるホテルでのもろもろの料理が食べ放題だ。ついでにデザートも充実だ。幸せなことだ。
camera: Fuji NATURA BLACK F1.9 film: Fuji SUPERIA Venus400