今日は藤原歌劇団のオペラ。ロッシーニ作曲「ランスへの旅」。東京文化会館にて。
このところ毎年ロッシーニを上演する藤原歌劇団。有名な「セヴィリアの理髪師」以外の作品に接する機会を与えてくれる良い企画。私も毎回聞きに行っているわけではないが、03年の「イタリアのトルコ人」(マリエッラ・デヴィーア出演)、04年の「アルジェのイタリア女」(アグネス・バルツァ出演)は楽しませてもらった。
そして今年は「ランスへの旅」、こりゃ大作だ。
時のフランス国王シャルル10世の戴冠をたたえる祝祭オペラ。特別な機会のための、特別な規模、特別な形式の、天才ロッシーニが腕によりをかけ、贅を尽くした大盛り御馳走オペラ。
ソリストを18人も立て、歌また歌の、ベル・カントの饗宴。技巧的なアリアに多様多種の重奏・アンサンブル、さらに14声の大コンチェルタント(アカペラ14重唱)なんてものも出てくる。高い技術をもった歌手をずらりと揃えなければ成り立たない。ロッシーニ自身が頑なに再演を認めず、楽譜も散逸してしまったこともあり、その後160年もの間まったく上演されなかった幻の傑作。
1984年、C.アバド指揮による奇跡の復活蘇演がなされて以来は、しばしば各国で上演され、CDやDVDも入手容易。が、「幻の~」感は減じたとはいえ、生演奏に接する体験がたいへん貴重であることには変わりない。大いに期待。
全1幕ものだが、2部に分けて休憩をはさむ形。ま、これも良いでしょう、長いからね。
本日は海外からの招聘歌手は、リーベンスコフ伯爵役の若手テナー、マキシム・ミロノフのみ。他は藤原歌劇団の実力派たちで固めたキャスト。さて、歌の饗宴はいかに、お祭りオペラは盛り上がるのか・・・。
指揮者とオーケストラが最高! アルベルト・ゼッダ指揮東京フィル。
ゼッダ氏は学者としても演奏家としてもロッシーニの権威であるからして期待はしていたが、その期待をはるかに上回る感銘。日本の団体でこれほどのロッシーニが聴けるとは思いもよらず。テンポ、強弱、バランス、これ以外ありえないと思わせるほど、的確、絶妙。すうっと引き込まれて、すいすい進む。実に心地よく、全身を乗せてくれるリズム。音色の変化もぱっと鮮やか、きらきらと、ふわふわと、ときに一瞬シリアスに、まさにロッシーニでしか味わえない愉悦感。これぞ本物。
歌手はなんといってもコリンナの高橋薫子が素晴らしい。本日第一。「主役級」の役ばかりのこの作品の中でも、最も「美味しいところ」を持っていくコリンナ役が上出来なのは嬉しいことだ。他のキャストは、正直、多少の凸凹があったが、まあひどくがっかりさせるほどの人はいなかったし、全般的に健闘でしょう。アンサンブルも揃っていた。
演出・装置は大いに「?」マーク。なぜか登場人物全員が白衣(最後の祝宴の前で黒い正装に着替える)。これはわかりにくい。この作品に馴染みのないお客さんには誰が誰やら区別がつかなくなってしまったのではないかしら。王家の紋章付き高級ホテルというオリジナルの設定を離れて、何やら安っぽい海水浴場のウッドデッキみたいなものが舞台。そもそも演出家の狙いがちっとも読めん。この作品に関しては、演出はわかりやすくおもしろくでいいのに・・・。
とにかく、ロッシーニの音楽には大満足。
「ランスへの旅」、大傑作です。アバド指揮のCDが比類なき完成度でお薦めです!
camera: Pentax K1000 + A50mmF1.4 film: Kodak GOLD200