記念碑はない。切りたつ崖が粗末な墓標だ。
サントリーホールへ。
ユーリー・テミルカーノフ指揮サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー(昔のレニングラード・フィルですね)。
「バビ・ヤール」やるぞ! これは聞き逃せまい。
リムスキー・コルサコフ:歌劇「見えざる町キーテジと聖女フェヴローニャの物語」序曲
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 Op.77(vn独奏:ワディム・レーピン)
ショスタコーヴィチ:交響曲第13番変ロ短調 Op.113「バビ・ヤール」
(独唱:セルゲイ・レイフェルクス(Br)、合唱:東京オペラシンガーズ )
前半のヴァイオリン協奏曲も楽しめた。レーピンといえば、良いとか巧いではなく「凄い」という次元に達しちゃってるヴァイオリニストなわけで、実際、唖然とするほど凄まじい骨太の超絶技巧が繰りひろげられた。怒濤のような拍手で場内騒然。
さて「バビ・ヤール」。旧ソ連においてはいわくつきの問題作(作曲家吉松隆氏のblogがおもしろい→
●)。テミルカーノフにはソ連時代にオリジナルの歌詞に戻して(初演後に歌詞の一部が差し替えられていた)の演奏を敢行し作曲者に喜ばれたという歴史的実績があるし、ムラヴィンスキー亡きあとのレニングラード・フィルを継承してすでに18年、知り尽くしたオケから引き出される〝本物の〟ショスタコ・サウンドへの期待が高まる。
初演者コンドラシンの録音等と較べると、柔軟でカラフルな印象であった。告発、恐怖、怒り・・・といった重々しいムードはさほど感じられず、むしろ語り手の心理や詩の中の登場人物が活き活きと表されていく感じ。がつんとテーマを突きつけられ問題意識を喚起させられるタイプの演奏ではなかったが、いわばオペラの名演奏を聴いた時に得られる感動に近いものがあった。オーケストレーションの面白さも味わえた。独唱のレイフェルクス(私には、ドミンゴの「オテロ」でイアーゴを歌う人という印象が強い)の美声による明確な表現、東京オペラシンガーズの自信に満ちた堂々たる歌いっぷりも好感触。
感動、満足。
ロシアのオケの来日公演は、たといAランクの団体であろうと、あまり積極的に聞きに行くことのない私だが(あ、マリインスキー管は何度も聴いたか)、それはプログラムが所謂「名曲」に偏重していて興味をそそられないことが要因としてあるのだ。今回のような企画なら大歓迎である。
camera: Pentax MZ-3 + FA35mmF2 film: Agfa PORTRAIT160