長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『息子のまなざし』

2018-04-29 | 映画レビュー(む)

1999年『ロゼッタ』でカンヌ映画祭パルムドールを受賞し、頭角を現したダルデンヌ兄弟の2002年作。本作では主演のオリヴィエ・グルメがカンヌ映画祭男優賞を受賞した。

ダルデンヌ兄弟は再びカメラを主人公の肩越に据えて撮り続ける。舞台は少年院を出所した子供達が通う職業訓練校だ。前半は主人公オリヴィエの行動が一体何を示すのか、動機のわからない不気味さが一種のサスペンスのような緊張感を生み出している。一見、無造作のようで徹底して計算されたカメラワークが観客の視線を誘導し、僕たちに主人公の心の動きを読み取らせる。その緻密な演出に舌を巻く。低予算、早撮りかと思えてしまう彼らの製作ペースが実際3年スパンである事からも膨大なリハーサルとシュミレーションの上に成り立っている事がわかる。

 幼い息子を殺した少年に対峙するオリヴィエは必至にその憤怒を堪えているように見えるが反面、何かに衝き動かされるように歩み寄っていく。自分でもわからない衝動の裏には憎しみと、更生を求める教育者としての倫理観がせめぎ合っているのだ。一見、リアリストのように見えるダルデンヌ兄弟だが、人の善意に希望を託すラストシーンにはヒューマニストとしての顔が覗いた。深い余韻の残る一本だ。


『息子のまなざし』02・仏
監督 ジャン・ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演 オリヴィエ・グルメ
 

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