長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ザ・リトル・ストレンジャー』

2021-05-18 | 映画レビュー(り)

 『ルーム』でアカデミー監督賞にノミネートされ、2020年はTVシリーズ『ノーマル・ピープル』で名演出を披露したレニー・アブラハムソン監督の2018年作。サラ・ウォーターズの同名小説(日本では『エアーズ家の没落』の題で刊行)を映画化したゴシックホラーだ。

 主人公ファラデー医師は幼少期に大きな憧れを抱いたエアーズ家へ往診に訪れる。かつての栄華の影はなく、一族は没落し、みすぼらしい生活を送っていた。戦争帰還兵の長男ロドリックは戦場の傷だけではなく精神も病んでおり、不吉な予言を口にする。やがて邸では怪異が起こり…。

 劇伴を極力排し、屋敷の軋みまで聞こえてくるかのような静謐な演出と、かつての栄華がくすみ、どこか薄ら寒い冷気を感じさせる美術が素晴らしく、これに主演ドーナル・グリーソンの冷ややかな美男子ぶりが良く映える。前半1時間はほとんど何も起こらないが、後の『ノーマル・ピープル』にも繋がるシンプルでオーセンティックな演出だ。

 舞台となる第二次大戦後のイギリスは、労働党が政権を獲得した事から旧来の領主には莫大な相続税が課せられ、没落の一途をたどる事になる。幽霊屋敷の背景には貴族社会への憧憬と怨念が存在するのだ。


『ザ・リトル・ストレンジャー』18・英、仏、アイルランド
監督 レニー・アブラハムソン
出演 ドーナル・グリーソン、ルース・ウィルソン、ウィル・ポールター、シャーロット・ランプリング、リブ・ヒル
 

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